28

フロートは、後ろに控えていた黒装束の姿の男たちへ指示を出した。


指示を受けた黒装束の男たちは、ロロとルルが連れて行かれたほうへと走って行く。


そしてフロートは、パレットの元へゆっくりと近づいて来た。


パレットは再び弓をヴァイオリンへと当て、魔力を込めた音を奏でる。


ヴァイオリン組曲 断罪のワルツ――。


先ほど防護服を着た大人たちにしたように、音が黒い霧へと変化してフロートへと向かって行く。


「子どもが音を具現化させただと?」


フロートはそういうと、自身の右手に魔力を込めた。


するとどうだろう、降る雨さえも吹き飛ばしそうなほどの光が、彼の右手から発せられる。


「ルヴィの言う通り大した才能だ。だが、その程度の魔力で私は止められないぞ」


フロートはその魔力を込めた右手で、パレットの奏でた音――黒い霧を簡単に打ち消した。


パレットはすぐに次の曲に入ろうとしたが、ヴァイオリンが鳴る前に、フロートが一瞬で間合いを詰める。


こんな大きな体で何故そんなに早く動けるのか?


パレットがそう思ったときには、彼女はもう地面に押さえ付けられていた。


「お前がパレット·オリンヴァイだな。あまり乱暴な真似はしたくないが、こちらもこれ以上振り回されるわけにはいかないのでな」


「あなたスカイパトロールでしょ!? ロロを捕まえようとするなんて、ぜったいになにか誤解してるよ!」


フロートは、パレットを地面に押さえ付けながら、誤解などしていないと返事をした。


それから自分の立場と名前をパレットへと伝える。


「私たちが彼を捕まえようとしているのは、彼が犯罪者だからではない」


「じゃあなんでよ!? ロロはただ空疫病くうえきびょうについて知りたがっているだけなんだから、放っておいてあげて!」


「まあ落ち着いてくれ。とりあえずどこか屋根のあるところ行こう。ここでは風邪をひいてしまうぞ」


そういったフロートは、パレットを押さえ付けていた手に再び魔力を込めた。


すると、パレットの体に鎖が巻き付けられ、彼女はあっという間に拘束される。


拘束魔法はスカイパトロールの基本中の基本だが、今フロートがやったように、片手で鎖を具現化させるには相当の修行が必要だ。


ルヴィがフロートのことをからかってはいるため、他人から笑われやすい彼ではあるが、そのたしかな実力でスカイパトロールのリーダーとなった男である。


「放して! 放してよ! じゃないととんでもないことになるよ!」


身動きができなってしまったパレット。


だが、それでも喚きながら激しく暴れていた。


その姿は、海岸に打ち上げられた哀れな魚のようだ。


フロートはそんなピチピチと跳ねるパレットのことを無視して、自分の肩に彼女を担ぐ。


「ロロとルルのところへ行かせて! 彼、なんかこの街に来てから変だったのよ!」


それからフロートは、パレットが何を言おうがいくら暴れようが無視を継続。


そのまま雨の中を歩き始めた。


その後も、結局何もできないパレットは、この街にあった警察署――スカイパトロールの屯所とんしょへと連れて行かれる。


その中で彼女は――。


拘束魔法を解かれ、大きなタオルを渡され――そして牢へと閉じ込められた。


パレットは、自分がスカイパトロールに捕まったことよりも、様子の変だったロロのことばかり考えていた。


仮設テントで見た空疫病の患者たちを見たときの彼の姿が、まぶたに焼き付いて離れない。


「出して! ここから出してよ! ロロとルルに会わせて!」


渡されたタオルで体を拭くことも忘れ――。


パレットは牢屋の扉に向かってただ喚き続けた。

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