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その後――。


フロートにすすめられるまま。黙って紅茶を飲み始めたパレット。


だが、その顔の険しさは変わらなかった。


彼女は強張った表情のままフロートのことを睨み続けている。


そんなパレットを見た彼は、やれやれといわんばかりにため息をついた。


でもまあ、これで話はできるなとその口を開く。


「ああ、お前の想像している通りだ。私は彼、ロロ·プロミスティックの手紙を見たよ」


それからフロートは、なぜロロの書いた手紙を見たのかを説明し出した。


元々この空中大陸オペラを浮かすため――。


人柱となる者には祭壇での儀式の前に、家族、恋人、または友人などに手紙を書き残すことがならわしとされていた。


当然ロロも儀式の前日に、政府の館で書き残すかどうかを訊ねられ、彼はパレットとルルへ手紙をしたためた。


「ようは検閲だ。頼まれた人物に渡す前に内容を把握しておかねばいかんのだよ。知られては困ることも多いからな」


だが今フロートがいったように、その手紙の内容次第では、家族などに渡されることなく処分されるものも多い。


それは一般市民に、大陸の秘密を知られることを恐れたためだった。


オペラに住む人間たちが、大陸を浮かすために魔力の高い者が犠牲となっていることを知れば――。


その事実に反対する者も出てくると考えられていたからだ。


たしかに、もし身近な者が人柱に選ばれたとしたら――。


その家族、恋人、友人は確実に受け入れることができないだろう。


それどころか魔力の高い者を、まるで狩りかのようにいぶり出すことをする人間まで現れるかもしれない。


オペラを治める政府は、そのことを混乱を心配し、未だに住民たちには伝えていなかった。


おそらく、一生いうつもりはないだろう。


それが大陸オペラの平和のためだからだった。


フロートの話を黙って聞いていたパレットだったが、その強張った顔のまま口を開く。


「ふーん、でもさ。あなたに検閲されたのに、ロロの手紙には大陸の秘密が書いてあったよ」


彼女は説明を聞いていておかしいと思う。


手紙にはしっかりと大陸を浮かしていることや、そのために犠牲になっている人間がいるという内容が記されていたのだ。


フロートの話からすれば、それは自分のところへ来るはずがない内容のはず。


不可解。


実に不可解。


パレットは遠回しに言葉を続けながら、そのことをフロートへ訊ねた。


訊ねられた瞬間――。


フロートの雰囲気が変わる。


先ほどの柔らかい感じはなくなり、まるでこれから戦場へ行く兵士のような重々しさだった。


「実は、お前にしか頼めない話があってな……」


フロートはそういうと、今回のことで今までの考えを改めなければいけないと思ったそうだ。


過去にも若者が人柱に選ばれたことはあったが、ロロほどの幼い子は初めてだった。


そして、禁術により蔓延してしまう疫病――。


皮膚に羽が生える奇病――空疫病くうえきびょうについてもだ。


「可能性の話だが。こういう事態も考えられると思ったんだ」


これからもし魔力で大陸が浮かすことができなくなったら?


禁術の影響が消えずに空疫病が蔓延し続けたら?


そのときになってから動いていては遅すぎる。


今から行動しておかねばいけない。


――と、フロートは言葉を続けた。


一方パレットは彼がいっていることがよくわからなかった。


いや、もちろん内容は理解している。


フロートのいう通りだと思う。


もしもっと早く対処していればロロは犠牲にならなくてすんだかもしれない。


――と、パレットは考えていた。


だが、違うのだ。


パレットが気になっているのは、そこではない。


彼女は、“お前にしか頼めない”というフロートの言葉が気になっているのだ。


「で、あたしに頼みたいことってなんなの?」


いい加減にしびれを切らしたパレットは、不機嫌そうに訊ねる。


フロートはつい夢中に話してしまったと、頭を下げながら返事をした。


「パレット·オリンヴァイ。お前にはこれから他の空中大陸を回ってもらいたいのだ」

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