40
誰かが自分を呼んでいる。
喉が潰れそうなくらいの大声で自分の名を叫んでいる。
それは出会ったばかりだがよく知っている――大好きな人の声だ。
(パレット……きみなの……?)
魔法陣から放たれた光を浴びながら――。
宙に浮いているロロに、パレットの叫び声が聞こえてきていた。
(ま、まさか……そんなことって……)
聞こえてくるはずがない。
ここは空中大陸オペラの地下――大地の中心部にある祭壇なのだ。
ロロは薄れゆく意識の中で、こんなところにパレットが来るはずないと思っていたが。
「ロロ! 聞こえているのなら返事をしてッ!」
それはたしかに聞こえてくる。
その声を聞いてロロは彼女に応えようとしたが、体を動かすことはできず、声すら発することもできないでいた。
(もう……ダメみたいだ……)
先ほど禁術を名乗る光がパレットへ言ったように――。
ロロはすでに、この空中大陸オペラを浮かすための核として儀式を済ませていた。
今の彼はもう大陸を浮遊させるため、魔力を供給する一つの生命体でしかない。
後は、その魔力が尽きるまで魔法陣の上にいるだけだ。
(ゴメンねパレット……こんなところまでぼくに会いに来てくれたのに……)
申し訳なさで胸いっぱいなっているロロ。
きっとルルがルヴィに家へ行って、自分が大陸を浮かすための人柱になることを伝えてくれたのだろう。
それをどう思ったのかわからないが、パレットは自分のところまで会いに来てくれた。
もしかして助けるつもりで来てくれたのか?
たかだか数日の付き合いで、どうしてパレットは身を削りながらもこの場に立っているのだ?
ロロは魔法陣の側で苦しそうに叫んでいるパレットを見て、涙を流していた。
彼女に迷惑をかけ、申し訳ない気持ちになっているのに――。
彼女に苦しんでほしくないのに――。
それなのに――。
どうして自分はこんなにも嬉しいのだろう。
自分のためにつらそうにしてくれているパレットを見て、なぜこんなに喜んでしまうのだろう。
こんな気持ちになっては絶対にいけないのに――。
ロロは、そう思いながら地面にポタポタと涙を落としていた。
《ロロ……ロロ……》
何もできないロロの頭の中に、そっと穏やかな声が聞こえ始めた。
とても懐かしい声――。
ロロはどこかでこの声を聞いたことがある。
《私だよ、ロロ》
「もしかして……母さん……?」
その声の主は彼の母親であり、大陸を浮かすために力尽きたはずの魔女――スレイ·プロミスティックだった。
ロロは母と話した記憶はなかったが、その声をよく知っていた。
ぼんやりとだが、たしかに母の声だと理解できる。
スレイは息子であるロロへ言葉を続ける。
《ああ……ロロ……。やはりあなたも私と同じ道を選んでしまったのね》
落胆と悲しみが入り混じった声が、ロロの頭の中に響く。
スレイの魂は、この大陸オペラを覆う魔力の一部となっていた。
それは彼女だけでなく、今まで大陸を浮かすために自分を捧げてきた魔女や魔法使いも同じだった。
ロロがすでに儀式を済ませたのもあったのだろう。
彼には母親以外の魂も、今いる魔法陣の中に漂っていることを感じていた。
魔法陣の上に浮いている自分の周りから、次第に憐みの声が頭の中に聞こえてくる。
こんな幼い子までもが。
しかし、これはしょうがないことなのだ。
――と、情念のこもった声が、自分の体にまとわりついてくるようだ。
《ああ……なまじ高い魔力を持っていたため……。私のような魔女の子に産まれてしまったため……。その若さで大陸に飲み込まれるなんて……。あなたにこんな運命を用意してしまった母を許して……》
ロロの母――スレイの魂は、彼の体を覆うと、まるで抱きしめるように包んだ。
そして、周りにいる魂の声よりも強く、懺悔しながら泣き声を聞かす。
「母さん……泣かないで……。ぼくは……どんな形でも母さんに会えて嬉しいよ……」
スレイの魂に抱かれながら――。
ロロの表情は安らぎに満ちていった。
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