41
ロロの母であるスレイ·プロミスティックはとても貧しい家に生まれた。
両親はいたが、生活に余裕がないのもあって放って置かれることが多く、彼女はいつも寂しい思いをしていた。
どうして父は自分と遊んでくれないのだろう?
どうして母は自分の話を聞いてくれないのだろう?
幼い頃のスレイは、貧しいことはあまり苦にならなかった。
だが、構ってくれない両親には不満が募るばかりであった。
そんな日々を過ごしているうちに――。
ある日両親が朝から豪勢な食事を用意し、スレイに笑顔を振り撒く。
スレイにはなぜ貧乏な我が家で、こんなごちそうが食べれるのかわからなかったが、父も母も上機嫌だったので気にせずに喜んでいた。
きっと天に思いが通じたのだ。
寂しがっていた自分のことを、神さまが両親に話してくれたのだ。
スレイはそう考えると嬉しくてしょうがなかった。
やはり人生は辛いことばかりではない。
我慢していれば苦しみは去り、やがて楽しいことがやってくる。
毎日の家の手伝いや、近所の人たちへ笑顔の挨拶をかかさなかったいい子でいたから、こうやって幸せがやってきたのだ。
スレイはそう信じて疑わなかった。
しかし、その夜――。
スレイは黒装束姿の男たちに、突然連れていかれてしまう。
「お父さん! お母さん! 助けてッ!」
彼女は目の前にいた両親に助けを求めたが――。
ああ、許してくれスレイ。
あなたがいなければ、わたしたちは生活していけるの。
――と申し訳なさそうにいうだけで、両親は何もしてはくれなかった。
そんな父と母を見たスレイは理解した。
自分は牛や豚のように売られたのだ。
スレイは両親を恨むよりも自分の家が貧しかったことを呪い、そしてもう何も考えられなくなってしまった。
その後――。
黒装束姿の男たちに連れて行かれた彼女は、この大陸オペラの中心地である政府の館に入ることとなる。
その館では、スレイの他にも多くの子どもが集められていた。
身なりを見るに貧困層の子たちだろう。
皆不安そうにしていて、誰一人騒いだりはしていなかった。
きっとスレイと同じように両親から売られてきたため、絶望で声をすら出せない状態だと思われる。
「選ばれし子どもたちよ。怖がる必要はないぞ」
そこへ法衣をまとった老人が現れた。
老人は子どもらに落ち着かせようと微笑みをかける。
「いきなり知らないところへ連れて来られてさぞ怖かったことだろう。だが心配いらない。私は君たちの味方だ」
これから君たちはこの館で暮らしてもらう。
ここでは柔らかいベットも温かい食事も用意できる。
君たちは、ただこちらが要求することをしてくれればいい。
――と、老人は子どもたちへ語りかけるように言った。
それでも不安がっている子どもらへ――。
老人はまず食事を与えることにした。
それはなんてことはないパンとスープだったが、貧しかった子どもたちにとってはごちそうだった。
彼ら食事はパンなど贅沢なもので、主食といえばやせ細ったジャガイモやトウモロコシだ。
スープに具など入っているはずもなく、この場にいた子どもらの中には生まれて初めて肉を食べる者もいた。
老人から食事を与えられた影響か。
震えていた子どもたちも徐々に笑顔を取り戻し、互いに会話まで始め出している。
スレイも他の子どもらと同じように、与えられたパンとスープを食べ始めた。
他の子らが話ながら食事をする中、彼女だけが一人震えていた。
それはスレイとって、この食事が豪勢なものではなかったということではなく――。
彼女には欲がなかったからだ。
貧しさは恨んでいるが、それは両親に自分を売る理由だったからであり、けしておいしいものを食べたり、新しい服を着たいという気持ちはスレイにはないのである。
だからいくら豪勢な食事を与えられようが、スレイの不安は解消されない。
「このスープ、おいしいね。そう思わない?」
そんな、一人震えているスレイに声をかけてきた子がいた。
スレイや他の子と同じく身なりの良くない男の子だ。
だが、声をかけられても、顔をそらして何も答えないスレイ。
男の子はそんな彼女にしつこく声をかけ続ける。
「ぼくはレレ·プロミスティックっていうんだ。ねえ、きみの名前を教えてよ」
「わ、わたしは……スレイ……」
「スレイっていうんだ。女の子なのに強そうな名前だね」
スレイは、レレと名乗った男の子にそういわれて顔を真っ赤にした。
彼女はからかわれたと思ったのだ。
嫌になったスレイは、まだ話を続けている男の子を無視してその場を去ろうとする。
「あッ、待って! 待ってよスレイ!」
レレが彼女を呼び止めたとき――。
老人が子どもたちへ向かって大きな声でいう。
「では、これから皆にどれくらいの魔力があるのかを調べさせてれおくれ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます