16
ルヴィは慌てて家に入ってきたロロを見て、読んでいた本をテーブルに置く。
そして、彼の背中で気を失っているパレットをソファに寝かせた。
「それで、そんなに慌ててどうしたのさ?」
訊ねられたロロは、ルヴィが出してくれた紅茶を飲みながら落ち着こうとした。
そんな彼に気を遣ってか、ルルがことのいきさつを説明し出す。
港へ行く前に楽器屋でアコーディオンと魔道具の指輪を買ったこと――。
目的であった
その帰りに、黒装束の男たちにあとをつけられていて彼らから逃げてきたこと――。
それらをルルは伝えた。
「そっか。そいつはよかったね。それにしてもパレットが誰かのためにプレゼントなんて、こりゃ空から槍でも降ってくるかも」
「大事なのはそこじゃないのよ!? きっとそのうちこの家にもやつらが来ちゃうのよ!」
話を聞いたルヴィは、まるでからかうような態度をしているとルルが大声をあげた。
そのとき、扉からノックの音が聞こえてくる。
ロロとルルは黒装束の男たちが来たのだと思い、身構えていた。
「は~い、ちょっと待っててね」
だがルヴィは、あっけらかんとした様子で玄関へと向かって行った。
そして、扉を開けながら何者かを訊ねるルヴィ。
そこにはパレットたちを追いかけていた黒装束の男たちと、一人の屈強な男が立っていた。
「おやおや、スカイパトロールのリーダーさんがうちになんのようだい?」
スカイパトロールとは、この空中大陸オペラの治安を守るいわば警察だ。
ノックをしていた屈強な男は、そのリーダーであるフロート·ガーディング。
どうやらルヴィは彼と面識があるようで、砕けた口調で話しかけていた。
「急なご訪問、誠に失礼。突然で悪いのだがルヴィ·コルダスト。あなたの家にムササビを連れた少年がいると聞いたのだが、まだここにいるのか?」
ルヴィは、すぐにその少年がロロのことだと気が付いた。
そして、きっと彼らを追いかけていた黒装束の男たちとは、スカイパトロールの連中だったのだということも。
(あの子、政府に追われているなんて……。いったいなにをしたんだ?)
ルヴィはそう思うと、話をはぐらかしながらフロートに返事をする。
「ムササビを連れた少年がうちに? う~ん、子どもと動物は好きだからよく遊んでやったりしているけど。それよりもなんだい? その少年がなにか悪いことでもしたのかい?」
ルヴィは、世間が自粛勧告で大人しくしている時期に、警察がたかが少年一人のために動き回っている理由を訊ねた。
フロートはコホンと咳払いをすると、その少年がこの空中大陸オペラの存続に関わる重要な人物であることを伝える。
それを聞いたルヴィは、小首を傾げて口をへの字にした。
それは、フロートの説明が大雑把過ぎて、結局少年が何をしたのかがわからなかったためだ。
「オペラの存続に関わるってのは穏やかじゃないねぇ。それで、その少年とこの大陸とはどう関係があるんだい?」
「それは国家機密である。すまないが、一介の狩人ごときには話せん内容だ」
「つれないねぇフロート。あんたがまだヒヨッコだったときに、私が助けてやったことを忘れたのかい?」
「そ、それは今関係ないであろう!」
ルヴィは二十八歳で、フロートも彼女と同じくらいの年齢だ。
二人は顔見知り以上に、昔に何かあったようだ。
それまで冷静だったフロートが、ルヴィに昔話をされた途端に声を荒げたのがその証拠である。
「いや~懐かしいよねぇ。ルヴィ! ルヴィ! って私にすがりついていたあんたが今じゃスカイパトロールのリーダーだもんなぁ。うんうん、私も鼻が高いよ」
「や、やめろルヴィ! 部下たちが見ている前で!」
ルヴィがニヤけながらそういうと、顔を真っ赤にして慌て出したフロート。
そんな二人の様子を見ていた後ろにいる黒装束の男たちからは、堪えきれずに小さい笑い声が聞こえ始めていた。
どうやらフロートがルヴィに頭が上がらないことは、彼の部下たちも知っているようだ。
「笑うなお前らッ!」
部下たちが笑っていることに気が付いたフロートが大声で怒鳴りあげると、彼らはすぐに姿勢を正して顔をあげた。
だが、その内心ではまだ誰もが笑っている。
「くっ! と、ともかくだ。お前の家を調べさせてもらうぞ」
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