53
「なんでよ! なんでなの!?」
パレットは叫びながらヴァイオリンを弾き続けた。
体内に残された魔力をすべて楽器の音へと変えていた。
しかし、それでももう先ほどような奇跡は起こらない。
それは、彼女の魔力が尽きかけていたのもあったが、さっきとは出している
禁術を名乗る光を消滅させ、魔法陣を消し去ったときのパレットの音は、困難な状況の中でもヴァイオリンの演奏を楽しんでいたものだった。
ロロに聴いてほしい。
彼に自分の想いを届けたいという、
そう――。
今のパレットの演奏にはそれはない。
伝えたい――届けたいというよりも、ただ強制的に音を聴かしているだけ――。
力任せに弓を弾き、ヴァイオリンから無理矢理に音を出しているだけなのだ。
それでは、たとえ彼女が万全の状態だったとしても結果は変わらなかっただろう。
「こんなんじゃダメだ……あたし……ダメだよ……」
そして、ついに魔力を使い果たしたパレットはその場に両膝をつき、崩れ落ちる。
魔力の供給が止まったヴァイオリンと弓は、彼女の指輪へと戻ってしまう。
「結局……あたしは……あたしは……」
パレットは、今さらながら自分のしたことを後悔していた。
ルルとルヴィを巻き込み――。
スカイパトロールを敵に回し――。
さらに大陸を浮かしていた禁術を消してしまい、この空中大陸オペラを危険にさらした。
そこまでしても、ロロとまともに会話すらもできなかった。
自分はただ彼を迷わせ、儀式を無駄に遅らせただけだ。
パレットはそう思うと、自分は無力上に無駄なことをし、他人に迷惑しかかけていないと涙を流す。
「わかってた……わかっていたよ……。でも……あたしは……ロロに行ってほしくなかった……」
彼女はそう呟き、地面に書かれた魔法陣に額を擦りつけ、激しく泣き出した。
もう声などろくに出せていないが、傷ついた獣が呻くようにただ喚く。
「ヤダ! ロロ、いっちゃヤダ! ヤダヤダ……イヤだァァァッ!」
そのとき――。
彼女の涙で濡れた魔法陣から光が放たれた。
その光は、パレットを抱きしめるように彼女を包むと、穏やかな声を発した。
「パレット……ありがとうね。ぼくなんかのためにここまでしてくれて」
その光はロロだった。
ロロは、彼の母スレイと同じように、いまやこの大陸を浮かすための魔力――魂の一部となっていた。
ロロの魂に抱かれたパレットは、その暖かさを感じながら彼に声をかける。
「ロロ……ロロ……ごめんなさい……。あたし……あたしは……」
彼女の口から発せられる言葉は、もう会話にはならないものだった。
ろれつも回らずに、ただ泣きながら彼――ロロへ謝っているだけだ。
「謝らないで。ぼくは嬉しかったんだ。きみが会いに来てくれて……。そのおかげで、ぼくがこのオペラを守らなきゃって、心の底から思えたんだよ」
姿は見えないが、そこにはたしかにロロの優しい声が聞こえてくる。
彼を感じられる。
パレットは泣きながら顔を上げた。
すると、彼女を包んでいた光が流れる涙を拭った。
「パレット、笑ってよ。ぼくは、きみがヴァイオリンを弾いているときに見せる笑顔が大好きなんだ」
「ロロ……」
パレットを包み込んでいる光がその姿を変え、ロロを映し出した。
彼女の目の前にいるロロは笑っている。
「もう泣かないで」
そして、伸びてくる彼の手が赤子を撫でるような優しさで、パレットの涙を拭う。
パレットは涙を拭われながら、泣き顔のまま笑顔を作った。
あのときのように――。
ロロと音を重ねたときにしていた微笑みを再現するように――。
ぎこちないながらも笑ってみせる。
「ロロ……あたし……また会いに来るから……ぜったいに……ぜぇ~たいに会いに来るからね」
「ああパレット、楽しみにしてるよ」
そう言葉を交わした後――。
ロロの姿は光へと戻り、魔法陣へと戻っていった。
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