第31話「狩場荒らし」

 さーて、中級昇任試験。

 サクサクとクリアしてやろうかな。


「まずは、アンデッド素材から──あそこに行くのも久しぶりだなー」


 乗合馬車を待つのも時間の無駄なので、クラウスはいつも通り【自動機能オートモード】を起動する。



 ──スキル『自動移動』!



 ブゥン……。


 ※ ※


 《移動先を指定してください》


 ●街

 ●フィールド・ダンジョン ←ピコン

 ●その他


 ※ ※


「よ~っし、あったあった。……『暴かれた墓所』! ここは、パーティ攻略推奨のダンジョンで仲間と聖水と魔法とコミュ力が必要な場所なのであーる」


 そして、クラウスにはどれもない・・・・・!! キリッ。


「なぜなら、ボッチだから──」

「僕がいるだろー?!」


 ニコッ


「う・ぜ・ぇ」


 メリムに乾いた笑顔を向けると、

 スキルの『自動移動』でフィールド『暴かれた墓所』を指定する。


 ブゥン……。


 ※ ※


 《移動先:暴かれた墓所》

  ⇒移動にかかる時間「01:04:33」


 ※ ※


「へ? を? 乗合馬車は──? あ、その荷車でいくんだな? よーし。僕も、」


 はっはっはっ!

 ……………………乗せるわけないだろうが?


「──発動ッ」


 いつものように、フッと意識が飛ぶと、目が覚めた時には──。



「はい。到着~」

 これでメリムもまいた・・・ことだろ────。



「おええええええ…………は、はぇーよ、クラウスー」



 うぉわ?! マジか?!

 は、早いなキミィィ?!


「ま、マジかよ、お前……」


 いや、マジか?!

 ストーカー?!


 わ、若いってすげぇぇぇぇええ!!


「ち、ちょ、ちょっと休ませて……。ホント、ちょっと──」

「おうおう、好きなだけ休んどけ──」


 待つ気はないがな!

 HAHAHAHAHAHAHA!!


「俺は──────光になる! さらば、メリム!」

「ちょぉぉぉおおおおおお!!」


 さぁ、一気にダンジョン付近まで行くぞ。

 荷車を『暴かれた納骨堂』の狩場入口に驢馬ごと留置くと、クラウスはクエストの準備にとりかかる。


 この『暴かれた墓所』は、フィールドとダンジョンの混成で、地上の墓地と、地下の納骨堂で構成されていて、


 地上部分にはアンデッド系と亜人系、そして獣系の魔物が湧き、特に夜間はアンデッドの活動が活発になる。

 たま、地下の納骨堂は、暗闇に近いため常にアンデッドが徘徊している場所だ。


 そして、グール系は地下の納骨堂にしか出現しない────。

 ……とくれば、一気に駆け抜けるッッッ!!


 ぱっと見は古びた墓地で、ところどころ林や池があるだけの長閑な場所。

 そして、目的地はその視線の先にある寺院のような石造りの納骨堂だ。


「おい、クラウス~」

「うーむ、思った通り地上部分で活動している冒険者はいないな────全員地下か」


 急がないとグールを全部狩られてしまう。

 そう簡単に全滅させられることはないだろうが、素材を先にとられた場合、高額で売り付けてくる冒険者もいる。

 むしろ、中級への昇任試験があることを知って、優先的に各地に狩場を回っているダフ屋のような冒険者はいつでもどこでもいるものだ。


「そんなのに構ってられるか」


 相場の10倍も20倍もの値段を吹っ掛けられるのだ。

 たまったものじゃない。


 ならば────……。


 さっさと、

「行くッッ────!!」


 ザンッ!!


 地面を蹴ってクラウスは駆けだす。

 元々、ベテラン下級冒険者といわれるくらいには、下級の狩場での戦闘には慣れている。

 そんじょ、そこらの下級よりも強いと自負がある。


「たりゃあ!!」


 地上の墓地をうろついていたスケルトンの頸椎を切り飛ばし、無に帰す。


 カラカラカラと、白骨が乾いた音を立てて地面に転がる。

 そして、それを合図にしたように周囲に魔物が一斉にクラウスに襲い掛かってきた。


「突破が目的────『自動戦闘』は、まだ封印だ!!」


 『自動戦闘』は殲滅戦に有利だが、突破には不利。

 無駄に時間をかける余裕はないのだから、


「どけぇぇぇええええええ!!」



『『コカカカカカカカカ』』

『『ガルルルルるるるぅ』』

『『わんわんわん……!』』


 アンデッド、亜人、獣────全部、雑魚……全部邪魔だ!!



 ズババババババババババッッッ!!

 


 クラウスは、手入れを終えたばかりの黒曜石の短剣を振るって、あっという間に魔物を切り飛ばし、奥へ奥へと進んでいく。


(いける! 『自動戦闘』頼りでなくとも、俺は強くなっている!!)


 ステータスの向上をここで実感。

 スピードも、筋力も、耐久力も今までとは段違い────。


「たりゃっぁぁああああああああああ!!」



『『『『『ゴァァァアアア?!』』』』』



 巻き上がる暴風のように、下級の魔物の群れがなぎ倒されていった──。



 ※ ※


~ ドロップ品(討伐証明) ~


 ゴブリンの耳×4

 ゾンビウルフの尻尾×2

 コボルトソルジャーの耳×1


 ~ドロップ品(素材)~ 


 ゾンビウルフの胆嚢×1

 ファントムの核石×1


 ~ドロップ品(魔石)~


 魔石(小)×2⇒使用済み

 灰の魔石(極小)×1

 黒の魔石(極小)×1


※ ※


「はぁ、はぁ、はぁ……!」


 一気に地上のフィールド部分を駆け抜けてきたクラウス。

 テリトリーを離れたのか、倒しきれなかった魔物もどこかへ行ってしまった。


「ふー……疲れた。走りながらだからほとんど素材を回収できなかったな」

 クラウスの目標とするモンスター素材がなかったため、たまたま斬り飛ばした部位を背嚢に放り込んだだけなので、大量の残置物を背後に残してきた。

 ……だが致しかたなし。


(さて、俺も地下に潜るか──)


 そう思って、魔光石のランタンを取り出そうとしたとき、


「なん、だこれ……!」


 『暴かれた墓所』に受験生の中ではそうとう早く到着したつもりのクラウス。

 だが、すでに先客がいたらしい。

 受験生だけでなく一般の冒険者もいるのだろうが、なぜか全員が入り口の傍でウロウロとしている。


 もちろん。

 通常の狩場でもあるので、冒険者がいるのはおかしなことではない。普段、不人気狩場ばかり言っているクラウスがおかしいだけで、これは普通の光景なのだが────……それにしても異常な光景が広がっていた。


 ざわざわ

  ざわざわ


 狩場の入り口でざわつく冒険者たち。

 誰ひとり中に入ろうとせず、途方に暮れた顔をしている。


「どうしたんだ?」

「あ、クラウスか。そっか、昇級試験にきたんだな」


 知り合いというほどでもないが、ギルドで何度か顔を見たことのある冒険者に話しかけるクラウスだったが、


「ほら…………。見ての通り──狩場荒らしさ」

「な!」


 その冒険者がいうように、「狩場荒らし」の言葉通り、ダンジョン化した墓所の奥地で地響きが響いていた。


 その成果、

 内部に入った冒険者もすぐに戻ってきては、「魔物がいねぇ」と愚痴をこぼしている。


「ったくよー。皆迷惑してるんだぜ? 一般冒険者の予約枠を無視して、高Lvの冒険者が突入してさ、ボスを一直線に狩り取りに行っちまいやがった、おかげで──……」



 ドゴォォオオオオオン!!



 墓所の一角が崩れ、大穴が空き、バラバラとアンデッドの身体が降り注ぐ。

 そして、サァァァと正常な空気が流れたかと思うと、



 ウォォォオオオオオオオオン…………。



「あーあ……やっちまいやがった」


 地の底から響くような魔物の悲鳴が聞こえたかと思うと、

 ダンジョンが見る見るうちに正常化されていく。


 そして、狩場でのドロップを期待していた下級や中級の冒険者がガックリと肩を落として撤収作業を始めた。

 どうやら、そのくだんの高Lv冒険者がボスを倒し、狩り待ちの冒険者がいるにも関わらず正常化してしまったようだ。


「ち……。よその町から来た連中らしいが──いけすかねぇ」


 ダンジョンの正常化自体は、誰がそのタイミングで遣ってもそれを罰する法律はない。

 むしろ、魔物の大群があふれ出るのを防ぐ目的で、正常化自体は推奨されてすらいるのだ。


 だが、狩場でのドロップ品に依存して生活している冒険者には、狩場の正常化はしばらくの休業を余儀なくされる死活問題なのだ。

 ゆえに人気の狩場や、ダンジョントライ中の冒険者がいる狩場では、正常化を進めることはあってはならないという暗黙の了解があった。


 しかし、今日は間の悪いことに、空気を読まない高Lv冒険者が低級の狩場を荒らしてしまっているらしい。


「迷惑な奴だなー。どこのどいつだ?」

 くそ、グール素材が……。

「さぁ? 俺は昨日から潜ってたから町の方の事情が分からなくてよ────」



 ──ボコォォン!!



「な、なんだなんだ!?」

「ひぇぇぇえ?!」


 だべっているクラウスの目の前に、ダンジョンボスの素材を担いで出てきた偉丈夫が立った。


 こ、コイツは──……。


「グレン……? グレン・ボグホーズ────アンタか?!」

「ん? よぉー、クラウスじゃねぇか」


 ニヤっと笑ったグレンは、意気揚々とダンジョンから抜け出してくると、素材を詰めた鞄を担いで並み居る冒険者の視線を無視してクラウスの肩を叩いた。


 わざとらしい……。


「なぁにやってんだ? こんなチンケな狩場でよぉ」

 ニヤニヤ

「そりゃこっちのセリフだ。高Lvで、ユニークスキル持ちのグレン様が下級の狩場で何してるんだ?」


 そういったクラウスのセリフを肩をすくめてやり過ごすと、


「ただの手馴らしさ。……文句でもあんのか?」


 ニィと口の端を歪めて笑うグレンを見て、クラウスはピンときた。


「…………お前ら、まさか?」

「んん~? へへ、さぁな。でも、もしかしたらよ。偶然・・、俺たちのメンバーが狩場を正常化させちまうこともあるかもしれねぇなー」


 ウケケケケと、大柄な体をゆすりながら笑うグレンを見て、心の中で盛大に舌打ちをする。

 そして、勘付いた。


 ……おそらく、クラウスが向かうであろう狩場にはあらかじめ『特別な絆スペシャルフォース』の連中が先回りして正常化してしまうだろうということに──。



(くそ! わざわざ嫌がらせをするためだけにこんなことを──?!)



 なんて暇な奴らだ……。


(いっそ、諦めるか? これじゃ。割にあわないぞ?)

 試験日は別日にもあるので、今回は諦めてもいいかもしれないな……、とチラリと考えるクラウス。


 今回、妨害されているのは──たまたまシャーロットが重なり、その試験を受けるついでなのだろう。

 そして、その行きがけの駄賃・・・・・・・に昔なじみのクラウスがいたから、ちょっとした嫌がらせをしてやろう──そんなとこ。



 だから、今回限りの嫌がらせ。(いくら、ゲインでもそこまで暇じゃない…………はず)



「そうかよ。だけど、あんまし現地のローカルルールを無視しないほうがいいぞ?」

「へ。知るかよ田舎のルールなんざ────おら、どけ!」


 それだけ言うと、群がる冒険者を蹴散らして、さっさとドロップ品を引っ提げて、待機させておいた騎馬にまたがるグレン。


(騎馬まで準備してやがるのか?!)


 ……あれで先回りされたんじゃ勝ち目はないだろうな。


「じゃあよ、頑張れよ──クラウス」

「…………ち!」


 どうやら、この分ではほかの狩場も怪しいところだ。


 残すクエストアイテムで、狩場はそう多くはない────……。






「ぷひー……。お、おいていくなよー。俺も荷車に乗せてくれよー」






 そこにヘロヘロになったメリムがやってくるが、構う余裕はクラウスにはなかった。

 残す時間はあと一日半。そして、取らねばならぬクエスト品は────……。


 ※ クエスト達成状況 ※


 クルメルの実×5、

 グールの下顎×5⇒妨害により、失敗

 洞窟ケイブスライムの濁り液×5、

 幻ナッツ×5、

 一角鹿の角×1、

 彷徨う皮鎧の胸当×3、

 絹蜘蛛シルクスパイダ―の朝糸×3、

 サラザールの簪×1、かー。


 ※     ※    ※



 残り7つのうち、3つ…………。



「ふん……。ゲインの奴────。いいぜ、そっちがその気なら見せてやるよ」


 どんな妨害でも好きにするがいいさ。

 そして目にもの見せてやる──。



  ぶぅん……。



 ※ ※ ※


スキル【自動機能オートモード


能力:SPを使用することで、自動的に行動する。


Lv1

自動帰還は、ダンジョン、フィールドから必ず自動的に帰還できる。

Lv2

自動移動は、ダンジョン、フィールド、街などの一度行った場所まで必ず自動的に移動できる。

Lv3

自動資源採取は、一度採取した資源を、必ず自動的に採取できる。

Lv4

自動戦闘は、一度戦った相手と戦闘し、必ず自動的に戦闘できる。


 ※ ※ ※



 これが俺の【自動機能オートモード】だ……!


 そうとも、

 ゲイン、グレン、チェイル、ミカ────……。




(……お前らが無能と切り捨てたユニークスキル【自動機能オートモード】の真価をよぉぉおおおお!)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る