第7話「おいおいおいおい、これって────?!」

「さて、あと一時間くらいかな?」


 今回は背嚢のほかにズダ袋も用意していたので、入りきらなかった分はそっちに移している。

 すでに、袋は毒キノコと毒カビでパンパンに膨らんでいる。その数3袋! 一袋が背嚢の1.5倍ほどなので、どれほどの稼ぎになることか……。


「──でも、キノコばっかり採ってるのも飽きてきたな……なんか、違うことを試してみるのもいいか?」


 クラウスは今回のクエストで、『自動資源採取』で複数が選択できることを知った。

 その分採取時間も増えるが、自動資源採取は近傍の資源を効率よく採取してくれるため、おかしな組み合わせをしない限り、問題なく採取できる。


 例えば、この『嘆きの渓谷』なら、矢毒キノコと矢毒ヤドリが生息している。

 ほかに水場周りにキリモリ草が生えている。


 なので、矢毒キノコと矢毒ヤドリの組み合わせや、キリモリ草を自動資源の項目に入れて採取すると、この谷の中で効率よく採取を始める。


 しかし、ここに毒消し草を追加すると、事情は変わる。

 具体的には採取時間が跳ね上がるのだ。


 この近傍で『毒消し草』が取れるのは、比較的近くにある狩場の『毒の沼地』ということになり、自動資源採取をした際に、矢毒キノコと矢毒ヤドリの組み合わせに毒消し草を追加すると、なんと、自動資源採取はその三つの資源を採取しようとして『嘆きの渓谷』と、『毒の沼地』を往復使用してとてつもない採取時間を弾き出してくる。


 実際に実行してみたことはないが、もしやったとすれば無意識化のクラウスは自動でその二か所の狩場を往復することになるのだろう……。実に恐ろしい。(まぁ、意識がないので辛いも何もないのだけど──)


「──だから、採取時間が極めて少ないものはこの谷に資源があるってことになるよな?」


 例えば、魔力草と言った高価な資源が取れればすさまじい稼ぎを生み出すことができる。

 この渓谷で取れると聞いたことはないけど、万が一というも事ある。


「……やってみるかな?」


 そうして、クラウスは自動資源採取の項目にあるものを一つずつ試してみることにした。

 その数は膨大であったが、既にノルマを達成し、さらに追加の分を採取したこともあり、時間を持て余していたのだ。


「んー……ドラゴン草──ゲッ『127:22:45』って、5日も離れた場所にあるのか?!……でも、生えてるんだな。すげー」


 どこかワクワクしながら資源採取可能時間を確認するクラウス。

 その気になれば、資源採取を選択すれば一瞬のうちに意識が飛び、気が付いたらドラゴン草を手にしているのだろう。


 食べればドラゴンのように強靭な肉体を一時的に得るというドラゴン草。

 滅茶苦茶高価な品だ。


「……ま、だけど、どこに行くかもわからないものを採取するのはこわいよなー。気が付いたらドラゴン草を手にして、目に前にドラゴンがいる──なんてこともありそうだ」


 自動資源採取の欠点は、その間の行動が読めないということだろう。

 使いどころを誤れば詰む……。文字通り人生が詰むのだ。恐ろしいことこの上ない。


「へー……リンゴは、『03:11:23』って、これ町までの移動時間だろ? で、キリモリ草はマジでどこでも生えてるな」


 採取時間『00:05:12』って、多分近くの水場だ。


「……ん~む。そんなになんでもポコポコ生えてるわけないか、マンドラゴラはどうかな? 見つけられたら、すげー高価値だけど、さすがにないかなー。……『00:23:43』か。近いな」




 ………………ん?




「え?……に、23分??」


 え?

 あれ?


「う、嘘だろ? え? あるの?! この渓谷に?!」


 一瞬フリーズした思考が不意に戻ってくると、驚愕にうちのめされるクラウス。

 そして、その事実に再び仰天する。


「……じょ、冗談だろ? マンドラゴラっていえば、金貨100枚単位で取引される超高価な魔法素材だぞ」


 それが、こんな……。

 いくら不人気な狩場でも、下級の冒険者でもトライできるような場所にあるっていうのか?


 しかも、20分そこらで取れる距離だ。



「……ど、どうする? やるか……やめとくか?」



 クラウスの逡巡。

 マンドラゴラは希少植物ではあるが、それ以上に危険なモンスター植物の一種でもある。

 抜けば気を狂わす叫び声をあげ、時には採取者を狂い死にさせることもあるという。


 しかし、クラウスの所持している【自動機能】はスニークスキルで、使用する『自動資源採取』は使用項目に、こうある。


 ※ ※


スキル【自動機能】

Lv3自動資源採取は、一度採取した資源を、必ず自動的に採取できる。


 ※ ※


 そう。

 「必ず」自動的に採取すると────。


 つまり、スキルの範疇にある限り必ず採取できるのだろう。

 しかも、23分で……。


「やってみる価値はある、か──……」


 すでに夕闇は迫り、巡回の馬車が近傍を回る時間が近くなってきた。

 今日はこれで最後の採取になるだろう。



「よし! 男は度胸だ────! 自動資源採取、発動ッッ」


 フッと、いつもと同様に意識が飛ぶ────…………そして、気付いたときには、





「ちょ……。ちょぉぉおお! ほ、本物……。本物のマンドラゴラだ!!」


 クラウスが手にしていたのは、紛れもなくマンドラゴラであった。

 まるで人間のような表情があり、手足のような根を生やした植物。

 頭部にも見える球根には叫び声を上げるであろう口がある。


 紛れもなく、マンドラゴラである。


 図鑑でも見たことがある姿そのもの……。


「マジ……かよ。まさかこの渓谷に生息地があったのか?」


 毒の胞子と足場の悪さのせいで、ろくに調査が入っていなかったのだろう。

 そして、見過ごされていた……。


「──どうしよう。こんなの持って帰ったら、絶対なんか言われ……ん?」



 ピキーーーーーーン!!



 と、脳裏に突如警鐘が走る。

 これは先日上昇した気配探知が最大限の警告を発しているときの感覚だ。


 つまり敵?!


 まさか、この距離で感知できな程接近されていた────。


「ぎぎゃああああAAAAあああ?!!」


 突如クラウスの目の前の岩がムクリと起き上がり絶叫する。

 いや、違う……岩なんかじゃない!!



「ロックリザード?!」



 まさか、B級指定の魔物がこんな下級フィールドに?!


 ロックリザードはダンジョンなどの暗がりに棲息する、頑強な皮膚をした巨大なトカゲ型モンスター。

 それも、中級や上級冒険者が挑む狩場に棲息しているB級指定モンスターだ。


 どうりで気配探知Lv2程度では探知できないわけだ……!

 間違ってもクラウス程度の下級冒険者が挑む狩場にいる魔物ではない!


「く……」


 ────やられるッ!




 勝ち目などあろうはずがない、強大な魔物にクラウスの脳裏に走馬灯が流れ始めた。

 幼少期、スキルの発言した日────……リズとの踊矢かな日々。



(リズ……!)



 家族の元に戻りたい一心で、勝ち目などないと知りつつもクラウスは剣を引き抜く。

 新調した黒曜石の短剣はまだ手になじんでいなかったが、下級冒険者が持つにしては高級品。


 金貨2枚の価値はある一品だ!


 せめて一矢………………。


「って、あれ?」

「あぎゃぁあああAAAAあああ嗚呼あ?! ぎゃああ?! $$&’&%’%$%!!」


 ドッタンバッタン大暴れするロックリザード。

 まるで見えない敵と戦うかのように暴れ転げまわっている。しまいには口から泡を吹いて、近くにいたクラウスを見て怯えて丸くなってしまう。


 こ、これは────……。


「まさか、マンドラゴラの悲鳴を聞いて発狂しているのか?」


 クラウスが手にしているマンドラゴラ。

 それはクラウス自身がどうやって引き抜いたかは知らないが、間違いなく生物を発狂させる叫びをあげ、近くで寝ていたロックリザードを恐慌に陥らせたようだ。

 しかも、ほんの少し前までは失神していたらしく、未だその精神はかき乱されていた。






 ……チャンス!!!





 クラウスは、その機会を逃さないッ!

 怯えて縮こまるロックリザードに馬乗りになると、容赦なく黒曜石に短剣を突き立てた。


 可哀そうだなんて思う暇もない。

 一歩間違えればクラウスが食われていた可能性もあったのだ!!


「うわぁぁぁああああ!!」


 ザンッ! ザンッ!!


 ザンッザンッ!!


 何度も何度も刃を突き立てると、ロックリザードも大暴れする。

 しかし、最初の一撃は急所を貫いており、急速に弱まっていくロックリザード。


 固いという噂の皮膚も黒曜石の短剣は易々と切り裂いていった。

 以前まで使っていたショートソードならこうはいかなかっただろう。つくづく運がよかったと言わざるを得ない。


 そうして、ロックリザードは正気に戻る間もなく、息絶えた。



「ふー……ふー……」



 青い血を全身に浴びたクラウスは額に浮いた汗を拭う。


「た、倒したー」


 ドサリとロックリザードの上に身を投げると、ようやく一息ついた。

 まったく欲張るもんじゃないな……。


 しかし、おかげで凄い収穫を得たのも事実。

 ロックリザードの素材にマンゴラゴラ。


 しかも、ロックリザードからはこぶし大の魔石まで出てきた。

 B級モンスターを仕留めたことで得られる経験値にあわせて大量の魔素を急襲した魔石を砕いたことでクラウスのレベルは急激に上昇する。



 ※ ※ ※

 

 クラウス・ノルドールのレベルが上昇しましたレベルアップ

  クラウス・ノルドールのレベルが上昇しましたレベルアップ

   クラウス・ノルドールのレベルが上昇しましたレベルアップ

    クラウス・ノルドールのレベルが上昇しましたレベルアップ

     クラウス・ノルドールのレベルが上昇しましたレベルアップ

      クラウス・ノルドールのレベルが上昇しましたレベルアップ


 ※ ※ ※





 この日一日でクラウスは6レベルもアップした。



「ど、どうしたあんちゃん?! そんなにやつれて……」

「あはは。死ぬかと思いました」


 レベルは上がったが、激戦を繰り広げたクラウスはゲッソリとして乗合馬車の合流点に現れる。

 その顔を見た御者の爺さんに呆れられるも、もはや答える気力もなく真っ白に燃え尽きたクラウスは馬車に乗るなり眠り込んでしまったとか。


「燃えたよ……真っ白によう──」

「いい加減無茶はよしな、アンちゃん。ソロで冒険なんてするもんじゃねぇぞ?」



 うるへー。

 好きでソロやってるわけじゃねぇよ。



※ 本日の成果。 ※



 ~ドロップ品(討伐証明)~


 ロックリザードの尻尾×1



 ~ドロップ品(素材)~ 


 ロックリザードの皮×1

 ロックリザードの肝×1

 ロックリザードの牙×少量

 


 ~ドロップ品(魔石)~


 魔石(中)×1⇒使用済み



 ~採取品(草木類)~


 矢毒キノコ×420

 矢毒ヤドリ×30

 キリモリ草×22

 マンドラゴラ×1



 ※ ※ ※

レベル:19(UP!)

名 前:クラウス・ノルドール


スキル:【自動機能オートモード】Lv3

Lv1⇒自動帰還

Lv2⇒自動移動

Lv3⇒自動資源採取

Lv4⇒????


● クラウスの能力値


体 力: 182(UP!)

筋 力: 103(UP!)

防御力:  97(UP!)

魔 力:  51(UP!)

敏 捷: 113(UP!)

抵抗力:  34(UP!)


残ステータスポイント「+23」(UP!)


スロット1:剣技Lv3(UP!)

スロット2:気配探知Lv3(UP!)

スロット3:下級魔法Lv1

スロット4:自動帰還

スロット5:自動移動

スロット6:な し

スロット7:な し


● 称号「なし」

〇臨時称号「真っ白に燃え尽きた男」

 ⇒タオルが似合いそう。一定時間、周囲に人を寄せ付けない


 ※ ※ ※



※マンドラゴラ小話※

(どうやら、クラウスは自動機能中は無意識化で行動しているため、そもそも叫び声を聞いても発狂する意識がないため無事だった……らしい)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る