第6話「資源採取系クエストが余裕なんですけど」

「く、クラウスさん? ど、どうしたんですかこれ?!」


 家で体を洗った後、大量のドロップ品を抱えてギルドにやってきたクラウス。

 そして、背嚢一杯の「毒消し草」と、入りきらなかった分を草束にして担いで入るとギルド中が騒然とする。


「あ、あはは。たまたま群生地を見つけちゃって──取れるだけとってきました」

「そ、それにしたってすごい量ですね……わかりました。換金するので少しお待ちください」


 テリーヌさんは大慌て手奥に駆け込んで増員のギルド職員を呼び集めてきた。

 一人で鑑定できないので急遽の増員だ。


 テンヤワンヤのギルドの受付に申し訳なく思いつつも、クラウスはしばらくかかるので後ほど顔を出してくれと言われて一度ギルド受付のあとにする。


「さ、さすがに持ち込み過ぎたかな?」


 しかし、毒消し草単体で持っていても狩れるか腐らせるかだけなので、きちんと処理できるギルドに早めに持ち込んだ方がいいのは間違いない。

 問題は量だ。


「後で絶対詳しく聞かれるよな……」


 クラウスは【自動機能】のことを話していいのか悩んだ。

 しかし、まだまだ発展途上のユニークスキル。この有用性に気付いた連中にいいように使われるのは目に見えている。

 少なくとも、効率的に薬草が採取できると知れれば、クラウスは薬草採取係として安価でこき使われかねない……。


「──今のところはまだ秘密にしておこう」


 それよりも今は【自動機能】を鍛えておくべきだろう。

 自動資源採取でこれほどの効率を生み出すユニークスキルだ。さらにランクアップを図ればどれほどの価値を生み出すことやら。


「お待たせしましたクラウスさん! はぁはぁ……。これ、報酬です」


 手持無沙汰でクエストボードを眺めていたクラウスにテリーヌが声をかける。


 すさまじい速さで鑑定を超えてきたらしいテリーヌさんは額に汗をしながら、いい笑顔でクラウスに報酬を渡してきた。

 それはずっしりと重い。


「な?! す、凄い額じゃないですか?!」

「はい! 〆て金貨3枚と、銀貨60枚になります──状態が良かったので色をつけさせてもらいまいした」


 ました──ニコッ! じゃねぇよ! 金額とか人がいるとこで言わないでよ!!


「ひえ、あ、ありがとうございます」

 金貨という単位に目を光らせた冒険者連中に背を伸ばすクラウス。

 下級冒険者が連日で稼ぐ額ではない。


「あ、あら、ごめんなさい!」


 有能なはずなのにどこか抜けたテリーヌさんが深々と謝罪する。

 それをそこそこに、クラウスはギルドを飛び出していった。


 その背後を複数の怪しげな視線が負っていたので肝が冷えそうだ。

 冒険者連中も行儀のいい奴らばかりではない。


「はぁ、まいったな──まったく」

 しばらく冒険者ギルドに近づかないほうがよさそうだ。

 さっき適当に剥がしてきた採取系のクエストを眺めつつ、金銭的に余裕ができたことだし二、三日休もうかなと決意したのだった。



 そして、ほとぼりが冷めた頃を見計らって、装備を新調したクラウスが再び採取クエストを受けるべく乗合馬車に乗って狩場に向かう。

 手に持っている採取クエストは、今日は先日と打って変わって『劇薬』の材料採取だ。

 毒消し草と正反対の猛毒の採取クエスト。しかし、これも毒消し草動揺不人気狩場に生える非効率的クエストと誰も手を付けていない塩漬け依頼クエストであった。


 大型のモンスターを狩るときに使う混合毒に使う材料なのだが、採取場所が厄介な場所にあり、報酬のわりに効率が悪いので誰も手を付けていない。おかげで徐々に報酬が吊り上がっていき、今ではちょっとした中級冒険者が受ける依頼に近い。


 『矢毒ヤドリの採取』


 矢毒ヤドリとは、猛毒キノコの上に生える寄生型の菌類だ。

 ただでさえ猛毒の毒キノコの上に生えていることから、毒を濃縮しており、その威力はオーガですら少量で殺すと言われている。


 取り扱いには細心の注意を図るとともに、採取にも注意が必要だ。

 矢毒ヤドリの宿主である、矢毒キノコも猛毒のキノコで、吐き出す胞子を吸えば数時間で死に至るという。


 しかも、それだけでなく、生息域が足場の悪い谷一帯であったため、ほとんど冒険者が忌避して近づかないという。


「また、あんちゃんか? 今度も辺鄙なとこを選ぶんだなー」

「はは。人ごみは苦手で」


 適当にはぐらかして、馬車を下りると狩場に向かって『自動移動』を使用する。

 別に歩いてもいいのだが、『自動資源採取』のウォーミングアップのようなものだ。


「さて、対策も十分したし────今日も採取しますか!」


 ブゥン……。

 

 ※ ※


 《移動先を指定してください》


 ●街

 ●フィールド・ダンジョン

 ●その他


 ※ ※


 もちろん、フィールドを指定。

「……お、やっぱり。行ってたな──『嘆きの渓谷』」


 かなり昔、どこかのパーティに荷物持ちとして参加した時に行ったような気がしていたが、やはり一度足を運んでいたらしい。

 記憶はあやふやだが、たしか吹き抜ける風が女の嘆き悲しむ声に聞こえるからそう呼ばれるようになっているんだとか?


 ※ ※


 《移動先:嘆きの渓谷》

  ⇒移動にかかる時間「00:18:54」


 ※ ※


「さて、防毒マスクをして──っと、」


 風に乗って胞子が流れているとも聞く。

 早めに予防措置をしておいたほうがいいだろう。


 ギルドで販売している『嘆きの渓谷』対策グッズを準備したクラウス。

 酸味のキツイ果実を発酵させ、さらに酸性を帯びたそれを絹布で巻いたマスク。


 少々息苦しいが、キノコの胞子を寄せ付けないと評判だ。


 じゃ、さっそく──。


「──『自動移動』発動ッ」


 フッと、意識が飛び────…………気付いたときには、寂しい渓谷に立っていた。

 切れ間の深い渓谷の底にいて、見上げる空は遥か上。



 ヒョォォォォォオオオオオオ……。



「……おぉ、これが嘆き声──気味が悪いとこだな」


 コモンスキル気配探知のレベルが上がったことで探知距離が上がり、多少なりとも魔物の気配を感じる。

「この前みたいに欲張ると恐ろしいことになるからな──……人間、慎重さが大事だよね」


 一人で言って一人で納得。

 こんな姿をリズにみられたらなんていわれることやら──。


 だけど、お兄ちゃん頑張って稼ぐからね。



 さって、

「まずはノルマ達成と行きますか」


 

 『矢毒ヤドリの採取』クエスト。ノルマ、矢毒ヤドリが5本。

 一本あたり、銀貨50枚なり……。



「さて、馬車の巡回まで残り半日……。どれだけとれるかな?」



 ブゥン……。


 ※ ※


 《採取資源:矢毒ヤドリ×1》

  ⇒採取にかかる時間「00:12:06」


 ※ ※



「………………うっそ。あの矢毒ヤドリが10分ほどで採取可能?!」


 毒消し草ほどではないが、かなりの短時間で採取が可能だ。

 それも、この身わたるばかり広大な渓谷のゴツゴツした足場で──だ。


「と、とりあえず一本行ってみよう──発動ッ」


 フッと、いつもの【自動機能】を使ったとき同様に意識が飛ぶ────…………そして、気付いたときには、


「ま、マジか!?…………ほ、本当に矢毒ヤドリだ」


 クラウスの手には真っ黒な毒々しい星型の大きなカビの塊がある。

 そして、その宿主である矢毒キノコも目の前に群生していた。


「ひぇー……。矢毒キノコも採取できて一石二鳥だな」


 矢毒ヤドリほどではないが、矢毒キノコもそこそこの値段で売れる。

 根付いた状態では、活発に胞子を飛ばすので石突を切り落とすのが採取条件だ。


「お、コイツも矢毒ヤドリあるじゃん。なんだ、矢毒キノコも群生するのか……」


 苔の生えたキノコにびっしりと生える矢毒キノコ。

 そのうち20本に一個ぐらいの割合で矢毒ヤドリは生えているらしい。


「よっしゃ! これもゲットだぜー」


 ややハイテンションで、矢毒キノコを袋に詰めていく。

 周囲には胞子が活発に飛んでいるが、対策をしているおかげで汚染されずに済んでいる。


「……本当なら移動だけで、息も絶え絶えになるうえ、採取のためあっちこっちの岩に上って大変なのにな」


 すさまじく効率よく動いて採取するため、体力の低下がほとんどなく、少し息苦しい程度。

 しかも、群生地を次々に見つけるため、あっという間に背嚢は矢毒キノコと矢毒ヤドリで一杯になってしまった。


 ただ、毒消し草ほど短時間に採取できるわけではなかったので、すでに昼を回りいい時間となっていた。



 ブゥン……。


「効率よく採取できるのはこの数ぐらいみたいだな。しかも、自動採取って複数選べるのか……」


 ※ ※


 《採取資源:矢毒ヤドリ×2、矢毒キノコ×50》

  ⇒採取にかかる時間「00:26:32」


 ※ ※


 フッと、意識がなくなったかと思えば気付いたときには、両の手には抱えきれないほどの資源がある。


「や、やべぇ……笑いが止まらねぇ!」


 うひひ、と人知れず笑うクラウス。

 絶対に人にもリズにも見せられない姿だが、この矢毒ヤドリ一個で銀貨50枚もの価値があるのだ。

 すでにノルマは達成しているので、やや報酬は下がるだろうが、半分程度は貰えると考えると、銀貨25枚の価値はある。


「これで結構な稼ぎになるぞ────これはひょっとすると、考えていたあれ・・を実行できるかもしれない」


 それを想像してクラウスはニヤリと笑う。

 金があれば色々なことができるのだ。これまでは生活でいっぱいいっぱいだったがこれからは違う。

 リズにも贅沢させてやれるし、クラウスの装備も良品に新調できるだろう。


 そして────。


「おっと、敵の気配が近づいてきた──そろそろ次に行こう」


 前回は欲張りすぎて、奥に踏み込んでモンスターに襲われてしまったが、今回はその轍は踏まない。

 気配探知がLv2になったこともあり、一回の採取で移動する距離くらいの敵なら探知できるようになったこともあり、事前に戦闘を避けることができるのも大きい。


 さて、

「──時間まで安全かつ、大量にゲットするぞー」




 すでに背嚢はパンパンになり、入り口部と往復して何度も渓谷にトライするクラウスであった。

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