第66話「クエストマーカー」

クエストマーカー

スキル【依頼の道標クエストマーカー


能力:SPを使用することで、受注したクエストをマーキング表示する。

Lv1近親者クエスト表示は、近親者間に発生したクエストを表示する。



「って、書かれてるね?」

「……書かれてるな」


 教会からもらったステータス表を額を突き合わせてのぞき込む3人。

 いまいち危機感が薄いのか、リズちゃん首をかしげているが、クラウスとメリムは思わず顔を見合わせる。


 だって、これ絶対──。

「お、おい……クラウス!! これってもしかして、ユニー・・・……───ごふぅ!」


 うむ……黙れぃ、メリム!

 口の軽いメリムの顔を鷲掴みにするクラウス。

 

「いでででで──!! なんで鷲掴みなんだよ!! いでぇっぇえ!! 僕も妹さんみたいにパンッ! って優しくしろよぉ!」


 知るか!

 っていうか、黙れぇ! シャーーーーーラップ。


 どこで聞かれてるかわかんねぇのに、ユニークスキルって明かしてどなすんねん!!

「えぇから小声でしゃべれっつってんだろ?! オメェの声はでけぇんだよ!!」

「わ、わかったわかったから顔をつかむな────いだだだだだ!」


 程よい握り心地のメリムの頭部を名残惜しげに話すクラウス。


「なんで名残惜しんだよ!!」

「いや、だって、いい感じにフィットするんだもんよ」


 「だもんよじゃねー!」と、唸るメリムをスル~リと無視して、今度こそ近くに人がいないことを確認して、もう一度リズに確認。


「んっんー。あー……ここからはもっと小声で話すが、リズ……。お前のスキル、『依頼の道標クエストマーカー』についてだが、」

「ど、どうしたの? これ・・……なんか、よくないスキル??」


 リズには見えているらしいステータス画面を不安げに指さしている。(もちろん、クラウスには見えていない)

 ってか、そもそも、一家から二人もユニークスキル持ちが出るってどうなん?? ちょっと、どうなってんのぉ、ウチの家系ーーー……!!


「いやいや、そうじゃない。そうじゃないんだが……」


 ひとまず、不安そうな顔のリズの頭をポンポンと撫でてやり、なるべく心配させないようにする。

 ……とはいうものの、正直クラウスにも判断がつかない。

 授与されるスキルに悪いものはないはずだが、なにせ、唯一無二のスキル──それがユニークスキルなのだ。その能力はハッキリ言って未知数なので、名前だけでは判断のしようもない。


 中にはネタのような能力もあるだろうし、

 あるいはクラウスの【自動機能オートモード】やゲインの【時空操作タイマー】のような、ぶっ飛んだ性能のスキルもある。


(……う~~~ん。それにしても、なんだろうな────クエストをマーキング・・・・・するユニークスキルってのは??)

「そ、そっかー。じゃ、ためしに使ってみる?……えっと、CP使用ってこうかな? あ、あれ??……とくに何の変化もないよ?」


 ────どうやら、試しに使ってみたらしいリズ。キョロキョロあたりを見回してきょとんとしていらっしゃる。

 ……って、


「ちょ、ちょぉぉぉぉぉおおおお?!」


 リズちゃ~~~~んん?!

 YOUは物怖じしない子だねぇぇえ?!


「う、うーむ……。リ、リリ、リズさんや?? い、いきなりスキルを使うのはお勧めしないぞ?」

 ぷるぷる震えるクラウス。

「え? そうなの?」


 ──そうなの!!

 クラウスさん、【自動機能】を初めて使ったとき、いきなり家に帰ったから実はすごくびっくりしたのよ?!


 わかるぅ? アンダースタン?!


「う、うん? なんとなく?!」


 なんとなくじゃだめー!!

 もう、もうぅうう!!


「危ないんだからな?! ユ、ユニークスキルってのは一見して分かりにくいものもあるんだからな……。うん。慎重に使おうぜ、マイシスタァ」

「は、はーい」


 ちょっとは反省したらしいリズ。まぁ、初めてのスキルではしゃぐ気持ちはわからなくもないけどね。

 ……ま、その辺はおいおい検証していくとして──。


「そもそもだな、リズ。……YOUはスペック高すぎじゃあ~りませんか?」


 リズから受け取った教会謹製のステータス用紙を見てため息をつくクラウス。

 それを覗き込みつつ、リズは自分のステータスを矯めつ眇めつ──……。


「へ? そうなの?? でも、スペックって……」


 いやいや。

 高Lvの初期スキル & 『称号』持ち。


「これってば、初期にしては相当高いぞ? つーか、高すぎる……」「うんうん」

 ……メリムのお墨付き。

「ふ、ふ~ん? えへへ、そっかー私凄いんだぁ」


 あーすごいすごい。

 マジですごい……


「えへへ。しかも、称号、おにい──」


 ──ピタリ。


 あ、気づいた?


「……きゃ、きゃーーーーーーー?! なにこれ、なにこれ? 称号……ぶ、ぶ、ぶ、ブラコン?! ち、ちがうよ!」

 違うからね!!


「いや、知ってる」

「うん、知ってる」


 誰もリズ以外驚かない定期。


「ちょッ──!! ち、違う!! 違くて!! やだもーーーーー!!」


 バヒュンッ!! と、すっさまじい速度で駆け出していくリズ。

 顔真っ赤っか……!


「は、はぇー」

「お、おー……行っちまったよ、マイシスタァ」


 出口で待ち構えていたスカウトがリズを捕まえようと包囲していたが、ひょ~い、と軽く飛び越えて行っちゃった……。

 っていうか、やはり張ってやがったか。ユニークスキル持ちのクラウスたちが集まっているのだ。何かあると思ってスカウト連中も目をつけていたらしい。


 だが、甘い甘い!


 って、

「……いや、行っちゃった、じゃねーよ!! お、追えよ?!」

「え? あ、そ、そうだな。……って、もう見えない?!」


 どんだけぇ!?


「いや、今さらぁぁぁ?! さっき言えよな、もー!」


 知るかッ!!

 称号『お兄ちゃん子』にニヤニヤしてしもうたわい!!


 ……って、そんなことより、まずはリズを確保ぉぉぉおおおおお!!

 まぁ、どうせ家に帰っただけだろうけどね──。


「行くぞ、者ども!!」

「いや、僕しかいねぇよ……!」


 あきれ顔のメリムを引き連れ、一路リズを追うクラウスたち。


 うーむ。なんか知らんが滅茶苦茶リズの琴線に触れたらしい。

 どうやら、欲しかったスキルだったのかな?……ならば、よかったよかった!


「……いや、どうみても『ブラコン』の事だろう」

「───は? いいじゃんブラコン。俺もシスコンだぞ」


「やっかましいわッ。アホ兄妹!!」


 もっとも、クラウスのシスコン具合はステータスに称号化されるほどではないのだが……その辺の匙加減はちょっとわからない。

つーか、リズまじで、はぇーよ!



※ ※




「おーい、リズぅ!」

「リズやーい!」


 概ねの方向に当たりをつけて家まで戻ってきたクラウスとメリム。


「「あ、いた!」」


 どこに行ったのかと、リズを探していると、予想通りにお家オウチに帰っておりましたとさ。


「うー、バレちゃったバレちゃったぁぁ!! うわーん!!」


 何か知らんが、シーツを頭からかぶって──キャイのキャイのと一人で騒がしい……。

 家といってもアークワイバーンのおかげで壁しか残っていないので、見晴らしが実に良い。……リズの奇行と合わせて、かなりシュールな光景だ。


「リ、リズ、速い速い! 速いって──……」

「ちょ、ちょぉぉ……ど、どうなってんだよ、お前の妹ぉ、めっちゃ足早くね??」


 ぜいぜい息をついて追いついた中級冒険者二人。


「うー……だってぇ」


 クラウスに気付いたリズがボロボロのシーツからチラリと視線をよこす。


 いや、隠れられてないからね。


 隠れる意味すらないからね───なぜなら、

「リズ、安心しろ……!」


 ぽん


「ふぇ?」


 真っ赤な顔で上目遣いのリズにさわやかな笑顔を返すクラウス。


「──俺もシスコンだからな」


 きら~ん♪


「お兄ちゃん……」

 リズの目がキラキラだ。


(ふぅ、決まったー……)


 ふふん、どうよこの気配り。

 すかさず義妹をフォローするクラウスの名アニキっぷりよ。惚れ直したかマイシスター。


「いや、キモいぞ」


 うっせぇ、メリム!

 黙れメリム、殺すぞ!!


 メリム曰く、リズが逃げたのはユニークスルの方ではなく、『ブラコン』がばれたせいだという。


「───むしろそれがどうした!!」

「いや、どうかしろよ……」


 げんなりしたメリムの顔など知らん。

 お前はエエから、薪でも切ってこい。


 ……お兄ちゃんッ子?

 いいじゃないかッ!!


 ……ブラコン?!

 望むところだ───!!


「なぜなら、」


 くわッ!!


「──リズは超かわいいかならぁぁぁあ!!」

「お、おにいちゃ~ん──……!」


 シーツをガバチョと脱ぎ捨てたリズ。

 ヒシッとクラウスの腰に抱き着いて、キラキラと輝く───。


「はーっはっはっは!」


 どやぁ、すっごい笑顔で言うクラウス。


「や、やだもうー」


 照れ照れのリズと、ジト目でドン引きのメリム。


「………………何だ、この兄妹」


 そして、この茶番は……。

 メリムの視線だけは絶対零度に下がっていたとかなんとか──。

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