第52話「シスコンとブラコン」
キュィィィィッィィイイイイン…………シュゴーーー!!
微かな耳鳴りの後、転移ゲートを置いている部屋が七色に輝き、光が収まった時には、魔光石の照明のともる一室にいた。
「ついた?」
「おう」
ここは辺境の町の冒険者ギルド転移ゲート受け入れ口だ。
ぷしゅーーーーー…………。
濛々とした白煙が消えると、見覚えのある空間。
「……おや? 誰かと思えば、クラウスやんけ?」
「あ、どうもッ」
転移ゲート管理しているギルド職員の女性がクラウスに気付くと、挨拶を交わしてくれた。
「なんや? すんごいボロボロやんけ? しかも、エライ疲れた顔しとんな?……なんぞあったんやな? 今日は早めに帰りや」
優しく気遣ってくれる職員に涙が出そう。
「う~っす。そうします」
「はーーい」
てふてふてふ
言われた通りまっすぐ帰るクラウスであったが……。
「ちょ、ちょ、ちょ! だ、だだだ、誰やそれ!?」
「え? あ、メリムっていう、クソガキです──ほれ、挨拶しろッ」
「はい、クソガキで────……って、誰がクソガキだよ!!」
オメェだよ……。
「ぶー! メリムでッす。えっと、クラウスの仲間で──」
「──仲間じゃねぇ」
間髪入れず否定。
「ぶー……!」
「いちいち、ブー垂れるなよ」
メリムの頭をグリグリと撫でくりまわしながら。
「……えっと、まぁその…………。ちょっと知り合いですよ。しばらくこっちに拠点移す、ってことで連れてきました──」
ぶー垂れた顔のメリムの頭を無理やり下げさせる。
「ほれ、ちゃんと頭下げろッ、挨拶、挨拶」
「こ、今後ともよろしくお願いします」
「ほ、ほうか……。おう……。よ、よろしゅうなー」
「はーい」
ポカーンとして職員の前を通り過ぎるクラウス。
別に入国審査があるわけでもないので、とやかく言われる筋合いもないんだけど……。
「…………え゛え゛え゛ぇぇー?! は、『はーい』て……。く、クラウスが友達連れとるぅぅうう??」
メギャアアアアアアン!
なにやら腰を抜かしているギルド職員。
(……え、なんで?)
背後で、すっごい失礼なことを言われたような気がするんですけど……。
「どうしたん? クラウス?」
「な、なんでも──ちょっと、俺の評価に目頭が熱くなっちゃって……」
ちょっと、「スンッ……」ってしちゃうクラウスであった。
確かに友達いないけどさ……。
ともあれ、本気で疲れていたのでまっすぐに家に帰ったクラウス────……。
街中を通り抜け、寄り道することなく、
数日ぶりの愛しきMYシスターの待つ家に、
ガチャ
「ただいまー……リズ──お兄ちゃんが帰ったぞー!」
「あ、お帰りッ! お兄ぃ………………ちゃぁ?」
……ちゃぁ?
「あ、どーも。メリムです。よろしくお願いしまーす」
ペコッ。
つむじが見えるくらい綺麗にお辞儀をしたメリム。
あ、ちゃんと、そーいうことできるのね? 偉い偉い。──と、ちょっと感心したクラウスであったが……。
「ひッ……」
カラーン……と、リズがお玉を取り落とす。
カラン、カラン
カララン、カラ~ン
どうやら夕食を作っている最中だったらしいが……。
「お、お兄、ちゃん??」
真っ青な顔のリズ。
それはまるで、化け物にでも遭遇したかのようで──。
「ど、どどど、どうした、リズ? 何があった?!」
「そ、それ……。それ──」
プルプル震えるリズが指さす先──…………メリム?
……あ。
それか。
「あ、あー。コイツはちょっとした知り合いの、メリムってガキだ。わけあって、しばらく泊めることになったんだが……」
「なッ?!」
めっちゃ驚いた顔のリズ。
ちょっと、お目めデカすぎ…………。
「な、ななな、ななななな────」
「……いや、大したことじゃないぞ。ちょっと、転移ゲートを二人分使ったら、有り金が尽きちまってさ。貸してもらった俺が言うのも
「お、おおおお、」
「……お?」
お、おお──。……って、リズ?
顔真っ赤だぞ? だ、大丈夫か??
「……おい、聞いてるか、リズ? おーい!」
「なんだ? なんだ?? だ、大丈夫なのか?」
心配そうな顔のクラウスとメリム。
だが、リズはブルブル震えて…………。
あろうことか────。
「お兄ちゃんが、男を連れ込んだーーーーーーーーーーーー!!」
ぎゃあーーーーーーーーーーー!!
リズの悲鳴がうららかな夕暮れに響き渡った。
※ ※
「ぶはっ」
ズルリと、スっ転ぶクラウス。
……って、なんでそーなるねん?!
「落ち着けリズ!!」
「お、落ち着かない! おお、落ち着けられないよ!! おおお、お兄ちゃんが男に、はしったーーーー!」
ちょ、ちょ、ちょ、ちょ?!
な、なななん、なに?
「な、何言ってんだリズ? 大丈夫か、お前?!」
「大丈夫じゃない?! 大丈夫じゃないよー!?」
うん。見ればわかるよ!
大丈夫じゃないよねッ!!
「ど、どういうこと?! 何があったのお兄ちゃん?!」
──いや、お前こそ何があった?!
「やばいやばい! お兄ちゃん!! お兄ちゃんがヤヴァーーイ!!」
あうあうあうあうあうあー!
「そ、そんな?! ど、どどど、とうしよう?! 育て方を間違った?! どうして? なんで、男?! 男? え? 男の子がいいの!? ああああ、あり得ない!! あり得ないあり得ない!! あ、あああ、アタシがいるじゃん! いくらモテないからって!! 男に、はしるくらいなら、アタシがいるじゃん!!」
お、落ち着け! 色々落ち着け!! リズ!
駄目だ! 色々駄目だ!!
もうそれ以上は──────!
「……どーしたん? クラウス、こいつ大丈夫か? それとも、ぼ、僕がまたなんか変なこと言った?」
「ほらぁ!! 『僕』って言った!! やっぱ男の子だよぉぉ!! オーーーーニーーーーチャーーーーン!!」
やばい、リズが壊れた!!
かくなるうえは────。
「テェエェイ!!」
「はぶぁ!!」
そろそろ、義妹が嫁に出せない痛い子になるとこだったので、がっつり
「と、とりあえずメリムはそこで待っててくれ────落ち着け、リズ。コイツはだな──」
「殴ったわね!? お父さんにもぶたれたことないのにぃぃいい!! お兄ちゃんの──不潔! 修道、BL、ホモぉぉぉお!」
ほ?!
「ホモちゃうわぁぁぁああ!!」
しかも、BLとか修道とか……。
どこでそーいう言葉覚えてくるの?!
………………っていうか、
「普通そっちぃいいい? ふつうは、さ。こーゆーときは友達って思うやろ?!」
「だって、お兄ちゃん、友達いないじゃん!!」きっぱり
ぐっさぁぁぁ……。
(……おっふ)
「効くわー……。リズさん、今のは効くわー……」
そこだけ、ハッキリ言うなー……。
ハッキリ言うねー……。
「いないけどさー。友達いないけどさーーー!!」
リズたーーーん!!!
お兄ちゃん、グッッッサリ来たわー……。
友達いないよ?
確かに、友達いないけどさー……。
いーーなーーーいーーーけどぉぉぉおお!!
「…………大丈夫か? お前の妹?」
呆れた顔のメリムに、
「「
「ひぃ?!」
ビシィ!! と息の合った指さし直撃にメリムが飛び上がる。
「な、仲いいな? お前ら兄妹──……」
「「あたりまえだ」です」
というわけで、
かくかくしかじか…………。
「あー、まぁそんなとこだ。──その、なんだ……。ちょっと色々あってな……。金を稼ぐ間だけ、しばらく家に住まわせることになった──あー、ほんとしばらくだけな」
「え゛ッ」
すっごい嫌そうな声。
「
「頼むよ、しばらくだけだから……」
「ぶー……わかったわよー」
「あ、ありがとう、リズ。早速で悪いけど、部屋を用意してやってくれ。空き部屋でいいから」
「はーい」
渋々頷くリズをあやしつつ、気になったことを一つ。
「な、なぁ…………。ちなみにだけど、リズさん……。俺が男じゃなく、女の子連れて着たら────どーする?」
「え? 〇すけど?」即答
ピーーーーーーーー♪
「…………え? 即答? しかも、ゴメン。なんつった? なんか、
こ、コロ────?
コロ何とか…………。
「コロスよ? 殺しますけど、それが何か?」
それが何かじゃねーーーー!!
怖ッ!!
この子、怖ッ!!
「……殺すの?! え? お兄ちゃんが女の子連れて来たら、殺すのぉぉぉお?!」
え? まじ?
どっちを?!
「──どっちを殺すの?」
……あ、聞いちゃった。
「え? 両方。そして、アタシも死ぬ」
重いッッ!!
リズちゃん、重い!!
めっちゃ重ーーーーーーーーーーーい!!
すっごい据わった目つきでいうものだから、クラウスはメリム滞在感は、彼女が女であるということは隠そうと固く決意するのだった。
「じゃ、じゃあ、改めて────コイツは、メリム。で、こっちは、」
「リズです。リズ・ウォルドルフです────メリムさん、だっけ? 歓迎はしないけど、ようこそ」
ぶっすー。と、ふくれっ面でド直球なリズ。
メリムも苦笑いだ。
「う、うん……。よろしく」
お互いぎこちなく握手し、リズを先頭に3人はようやく家の中へ。
そのとき、メリムがクラウスの耳に口を寄せると、
「な、なんか、なんか歓迎されてないみたいだけど……」
それどころじゃねぇよ!
歓迎どころか、
──
「うん……。いいか? 悪いけど、この家にいる間は、お前は男ってことにしよう」
「はぁ?! なんで?? 意味わかんねーよ!」
「いいから!!」
バレたら二人とも亡き者にされてしまうんやで?
リズはやると言ったら
──ナメたらあきまへんで。
「わ、わかったよ…………」
四の五の言わせずメリムを頷かせると、
珍しそうにキョロキョロとするメリムを、後ろから押し込むようにして家に入れる。
「おおー。け、結構大きい家なんだな?」
「ん? そうか? 一般的だと思うぞ」
「いや、え? あ、そうなん??」
メリムは物珍しそうにあちこちに目を向けている。
そんな珍しいものもない普通の家なんだけどね……。
そして、玄関を抜ければすぐ、リビング兼食堂だ。
「じゃー座って。歓迎はしないけど、お風呂の準備しとくから。二人でご飯食べてていーよ」
「おう。ありがと────リズは?」
リズは顔を出したときお玉を持っていた。
つまりまだ調理中────……?
「ん? 食べたよ。今は、夜の仕込み。お昼はとっくに食べたけど、お兄ちゃんたちは、まだでしょ」
「そーなんだよ、助かるリズ。──メリム。ウチのリズの料理は絶品だぜぇ。絶対気に入る」
「きゃ! お嫁にしたいくらい美味しいだなんて────お兄ちゃん。言い過ぎだよ」
「…………そこまでは言ってない」
もうー! と一人で照れながら、カチャカチャと手早く配膳。
「はい、召し上がれ──。パンは人数分しか焼いてなかったから半分コしてね」
「おう、じゃーメリム。ほらッ」
「あ、ありがとう! えっと……」
「リズでいいよ」
メリムがポリポリと頬を掻きつつ、
「あ、ありがと……。リズ」
恥ずかしそうにバンダナで顔を隠しながらお礼を言った。
「うんうん」と、その様子をホッコリと眺めるクラウス。
「お、メニューは、塩漬けキャベツと芋のサラダ、ベーコンと
「うん。あとは、お魚の煮凝りと、リーキのグリルだよ」
ポンポンと軽めに並べていくが、どれもこれも手が掛かっているのがわかる。
メインディッシュの魚の煮凝りは、薄い茶色が美しい色どりとなり、
サラダとリーキの緑色が目に優しい。
ベーコンとシロ菜のスープは、よい薫りを運んできて食欲をそそる──。
うん。
「「いただきまーーーーーす!」」
メリムと半分に分けたパンをスープに浸してパクリ。
旨ッ……!
「く、クラウス! サラダうんめぇ!!」
「だろ?! リズの飯はスゲーんだ」
うんうんうん!!
コクコク頷きながらメリムが飯をかっこんでいる。
「ふふ……! おだてても何もでないよー」
その割には嬉しそうにしているリズ。
もし尻尾があればブンブン振っていることだろう。
クラウス達の世話を焼きつつ、風呂用のお湯を沸かしている。家事は本当に得意なのだ。
「これ、何の魚? 味深いなー……」
「魚もそうだが、調味料が特殊らしくてな────何でも豆から作るソースを使ってるんだと」
これは最近リズが市場で買いそろえてきたソースだ。
値段は目が飛び出るほど高かったらしいが、ここ最近のクラウスの稼ぎがいいので思い切って買ったのだとか。
「へー! すげぇ! 僕、こんな美味しい料理久しぶりだよぉ!」
「はは! そりゃよかった。しばらくは食わせてやれるぞ」
「しばらくだけだからねッ!」
リズはリズでしっかりと釘を指すのも忘れない。
なんだかんだで、やはりクラウスとの静かな生活がリズの望みらしいけど────それじゃ、いつまでたってもお嫁に行けないぞ? とクラウスが生暖かい目で見るうちに、食事があらかた片付いた。
「ぷひーー……ごっそさん」
「おう、よく食ったな──片づけはいいからのんびりしてな。一応、お前は客だからな」
「そ、そんな悪いよ! な、何か手伝う──」
慌てて立ち上がろうとしたメリムをリズがやんわりと押しとどめる。
「いいから、座ってて、勝手を知らない人がやるより、アタシがやった方が早いもの」
それを聞くと渋々席に戻るメリム。
クラウスはメリムの前に注いだ茶をくれてやる。もちろん自分の分も。
「あ、ども」
「ん」
ジュゾゾー…………ほっ。
あーおちつくわー。
「あ、そこにローブかけていいよ。重いし、暑いでしょ?」
「え? あ、ありがと」
リズが気を使ってメリムのローブを受け取る。
うんうん、気遣いできるじゃん。リズはやっぱりいい子────…………。
「あと、お湯沸かしといたから、体拭くなら洗濯所使う? 流石に外で行水はアレだよね?」
「え、お風呂ないの?!」
あるわけねーだろ!!
どんな金持ちだ!!
つーか、行水がアレって……リズちゃんどういう意味?
俺いっつもやってますけど────。
「ごめんね。体拭くだけなら、スノコの上でできるからここ使って」
そういって、何だかんだで世話を焼いてくれるリズ。
メリムも素直に従って──────……。
ふ、風呂………………………。
あ、やばい!
「リズ、メリム、待────」
このままでは、リズにメリムの性別がバレる──────と、クラウスが危惧した時、
「クラウス!! 上だぁぁぁあああああ!!」
メリムの叫びが家中に木霊した。
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