第51話「厄災の芽」
「断る」
「ほんと! ありがと────って、はや!! しかも断るぅ?」
……いや、断るだろ。
むしろ、なんで断られないと思ったん?
先程、メリムから打診のあったパーティ希望だが、クラウスはすげなく断らせて貰った。
「……いやさー。ほら、そもそもなんで、お前とパーティ組まにゃならんのよ?」
「いや、だってほら──こういう時ってそーいう流れじゃないか?」
知らんわ。
なんだよ、そーいう流れって……。
「つーか、お前のせいで今日は散々だったんだぞ。むしろなんで組んでもらえると思ったのか──こっちが聞きたいわッ」
ほんま、どんな流れだよ……。
むしろ断る流れだろ?
なんか、マジでコイツの育った環境が見てみたくなってきたわッ!
「な、なー……頼むよぉ! お前に断られたら、もう
「知らん。自業自得だ」
クラウスの腰にがっしりと掴まり、怪我人にズルズルと引きずられるメリム。
「たーのーむーよー……!」
しつけぇ!!
……つーか。俺、負傷してるんだけど??
主にお前のせいで!!
「じゃー。ソロで行けよ。ソロ。いけるいける。可愛い可愛い」
「無理ぃ!! ソロは無理ぃ!! 僕、可愛いけど、無理ぃ」
…………僕、可愛いとか──自分で言うなぃ!
ただのジョークを真に受けるなクソガキぃ!!
ズール、ズル。
「たーのーむーよー!」
「だー、もう放せッ!!」
「なぁ、頼むよぉ、クラウスぅ! どーせボッチなんだろ?」
ボッチで悪かったな!
「なぁ、なぁ! なぁってば、よぉ! ほら、一緒に寝た仲じゃねーかよぉー」
ズール、ズ──………………!
「誤解を招く言い方すなーーーーーー!」
カカァッ!!
「ひぇ!」
べりっとメリムを剥がして投げ捨てる。
「もう知らん!! いい加減にしろッ!」
「わ、悪かったって……! ホント、ゴメンー」
さすがに言い過ぎたと思ったのかシュンと縮こまるメリム。
クラウスも女の子相手に乱暴すぎたかと、少し反省。……少しだけ、ね。
「……ったく。お前も知ってるだろ? 俺のユニークスキルを間近で見たんなら、色々とよ」
「う……うん。なんか、すごかった」
メリムの目にあの時のクラウスがどう見えていたかは不明だが、
彼女は狩場や、地下墓所でクラウスを間近で見ていた数少ない人間だ。
「なら、わかるだろ?……物理的に無理なんだよ────」
……そうだ。クラウスのユニークスキルはパーティを組むのに向いていない。
このスキルは、どう考えてもソロ推奨のスキルだと思う。
だから………………………クラウスはパーティを組まない。
組めない。
──もう、組みたくない。
「うー………………。ぼ、僕は諦めないからなッ!」
諦めろや。
「へーへー。勝手に言ってろ」
「言う! 言い続けるぞー!」
まったく、コイツも折れないねぇー。
ハッキリ言ってやるか……。
あーもぅ、面倒くさい!
「あのなぁ。俺は誰ともパーティは組まないし、面倒も見ないッ! それが俺の流儀だ」
「うぅー……! く、クラウスぅぅ……」
ギュッと服の裾を掴まれるが、バッ! と、振り払う。
それで、本格的にしょんぼりしてしまったメリム。
はぁ……。
「……肩貸してくれてありがとよ、だいぶマシになった──じゃあ、元気でな……」
だが、ここで甘い顔するわけにはいかない。一度でも甘い顔をするとつけあがっ──────……ッ!
ふと何かを思い出したクラウス。
ぺぺぺぺぺ! と、自らの体をまさぐり、お金を探るも──。
あが、
あががが……。
「くっ──」
ガックリと項垂れるクラウス。
……やっべ──。
忘れてたよ…………
こ、ここは恥を忍んで……。
「………………め、メリムちゃ~ん」
ギギギギギギギ……。
油の切れた人形のように首を振るクラウス。
「なぁ、そのぉー……。物は相談なんだけど、よ」
そして、突然のネコナデ声で、
甘~い顔をするクラウス。
「……な、なに? え? なに? え?」
ニコニコニコ。
「な、なんだよ? 急に。き、気持ち悪い……。あ! もしかして僕の魅力に──」
「それはない。一ミリもない!」
「そんな力いっぱい言わなくてもぉ!!──じゃぁ、なんなんだよ!」
「か、」
「か?」
「──帰りの転移ゲート代、貸してぇぇええ…………」
そうしてこうして、ボロボロになったクラウスは何とか転移ゲートにたどり着き、メリムに金を借りて家に帰るのだった。
※ その頃、
『
ゴォォォォオオオオ…………。
鋭い風が吹き抜ける断崖の麓。
そこに作られた粗末なキャンプ地に複数の男女の姿があった。
「どうだ?」
「あ、うん……。うまく行っていると思う」
上級の狩場『空を覆う影の谷』にて、
ここはカッシュ財団が所有する生きた魔石鉱山のひとつ。
普段は、財団所属のベテランの傭兵と専属契約を結んだ冒険者がリポップポイントを押さえて、魔物を狩り──ひたすら魔石を入手している場所だ。
その麓の、中級の狩場『赤く錆びた街道』と同様に、
普段は一部だけ一般の冒険者にも開放されている場所でもある。
だが、今は完全にカッシュ財団により封鎖され、そしてカッシュ財団の御曹司であり、『特別な絆』のリーダーでもあるゲインがここを支配していた。
「──……思う。だと? 思うでは困る。
「う、うん! あ、はい!!」
背筋を伸ばしたミカが、ビクビクとしながらゲインに受け答えする。
すでに、この場にはゲインの息のかかったものだけ担っており、一般の冒険者はタダの一人もいない。
「よし。……なら、あとどのくらいだ?」
「い、今までの傾向からすれば────あと、1~3日程度だと思う」
ミカは緊張した面持ちで応える。
彼女の周囲には魔物死体が転がっており、さらに奥の方から傭兵や冒険者がそれらを運びつつある。
「チッ。まだそれくらいかかるか。魔石もソロソロ限界だ。レベルを一気に上げるにはアイツを倒すしかない」
クイッ。ゲインが顎をしゃくる先。
そこには切り立った断崖があり、岩壁をくりぬいた先に巨大な巣のようなものがある。
「ここのボス──ワイバーンか……。奴を進化させて狩れば、超上級の魔物を狩るのと同じだけの経験値と、巨大な魔石が手に入るはずだ」
「そ、そうだね……」
岩壁の上で、尻尾だけがゆらゆらと蠢くワイバーンを見てミカの顔が青ざめる。
「はっ! ビビってんじゃねーよ」
「そーよ、みんなの力を合わせればどんな魔物だって楽勝よ」
グレンとチェイルが、ビクビクしているミカを
どうやら先日の一件依頼、力関係──ヒエラルキーに変化があったらしい。
ミカは引き続き幹部ではあったが、その中では、すでに一番の下っ端扱いに成り下がっていた。
「よせ。ミカはよくやっている────そうだよな」
「は、はい!────さ、さぁさ起きなさい、アタシの可愛いお人形さん達!」
そうして、ユニークスキルの【生命付与】を施し、積み上げられた魔物を操るミカ。
それらを傀儡化すると、
そのまま歩かせて、あるいは飛ばせて、ワイバーンの巣へ向かわせる。
…………餌をやっているのだ。
これはミカの使えるユニークスキルの応用技。
普段は
そして、レベルがあがり──進化するのだ。
「ったく、大飯ぐらいのボスめ……」
「いっそ、ワイバーンをさっさと狩った方がいいんじゃないのか?」
何気ない、グレンの口にゲインが肩をすくめる。
「無駄だよ。そろそろ俺たちは頭打ちなんだよ──。わかるか? 随分この辺の狩場で楽に魔石を入手し、魔物を狩っているが…………随分と長い間レベルアップしていない」
そうだろ?
と、目線でグレンたちに言う。
「た、たしかに……随分レベルアップは鈍化してきたが、それはすでに頂点に達したからじゃないのか?」
「ハハッ! 馬鹿を言うな。お前は今、なんレベルだ?」
「俺か?……120レベルだな」
「あぁ、そうだ。チェイルは118レベル。ミカも117レベル。俺は125レベルだ」
全員の力量を把握しているゲインは言う。
「…………その117レベルの誰かさんが、カスユニークスキルの下級冒険者に負けたんだぞ?──これが頂点か? あ゛?!」
ギロリ、とミカを含むグレンたちを睨むゲイン。
ミカは縮こまり、グレンも顔を青ざめさせる。
「…………お前達のユニークスキルのランクはいくつだ?」
「「「え、えっと……」」」
ゲイン・カッシュ:【
Lv1『
Lv2『
Lv3『
Lv4『
Lv5『
Lv6『???????』
グレン・ボグホーズ:【
Lv1『原子破壊』
Lv2『原子分裂』
Lv3『原子再構築』
Lv4『原子変換』
Lv5『原子再生』
Lv6『??????』
チェイル・カーマイン:【
Lv1『晴天招来』
Lv2『荒天霹靂』
Lv3『高低管理』
Lv4『湿度調整』
Lv5『気圧操作』
Lv6『??????』
ミカ・キサラギ:【
Lv1『無機物操作』
Lv2『死体傀儡化』
Lv3『腫瘍暴走』
Lv4『人格生成』
Lv5『成長加速』
Lv6『??????』
「──みろ、まだ全員がユニークスキルのランクが5で止まっている。それで頂点だと?」
「だ、だけどよ……。これ以上、上げるにはどーすんだよ! 魔石からの吸収にも限界があるってことだろ?」
グレンは頭をバリバリ掻きながら唸る。
「だからだ!……だから、上級の魔物のさらに上をいく──超上級の魔物を倒すんだよ。そして、一気に限界を超えようじゃないか。…………これは、ね。ミカが地下墓所で遭遇したグールから着想を得たのさ」
たしかに、あの地下墓所のグールは上級を遥かに凌ぐ強力な魔物であった。
少なくとも、117レベルのミカが敗走を余儀なくされるくらいには……。
それが、地下墓所の閉鎖空間に生息する、仲間のグールを共食いしまくった最恐のグール。
『デモンズグール』と呼ばれる超上級のモンスター。
「つまり…………だ」
力を蓄えて進化した魔物は上級よりもさらに強い魔物になるということ。
だから、あれに匹敵する魔物を人工的に生み出すのだ。
その近道が、こちらから餌を与えて強制的に進化させることだ。
魔物の身体には魔素が含まれており、人間なら倒すか魔石を砕くことでそれを得るが、魔物は肉を食らうことで無駄なく魔素を吸収しているらしい。
その経験値の吸収効率は人間のそれを遥かに凌ぐ。
……ゆえに、魔物を狩り、その死体を傀儡にしてワイバーンの巣まで運んでいるのだ。
「わかるか?! 超上級の魔物を狩れば、俺たちはまだまだ強くなる! クラウスごときに敗走しているようではいつまでたっても二流のままだ!」
「お、おう……。わかった、わかった。わかったよ」
「くくく……。クラウスめ、ちょっとばかり強くなったが知らないが──俺たちの顔に泥を塗ったことを後悔させてやる」
くくくく。
ふはははははははは。
あーーーっはっはっはっはっはっは!!
「「「…………………」」」
一人高笑いするゲインを不安そうに見守るグレンたち。
その眼下では、
ゾロゾロと、列をなしてワイバーンの巣に自ら向かう、傀儡化された魔物の死体──。
ギィェェェェエエエエエエエンン!!
そうして、矮小なる人間の思惑など知らずに、断崖の下から延々と巣に送られ続ける魔物を鬱陶しそうに薙ぎ払いながらも、モリモリと食らい続けるワイバーンがいた。
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