第30話「いざ、出陣ッッ!」
「では皆さん! がんばくださいねー!」
ニコニコと笑うテリーヌに見送られ、実技試験を開始する受験生たち。
試験の内容はいたって単純だ。
ランダムで配られる試験用紙には、複数のクエスト
数も種類もマチマチで、一種類あたり1つでよかったり、複数でよかったり──。
「げー!! 俺のクエストアイテム、ハズレばっかりだぞ?!」
「な?! この時期に『モリモリ草』を5つもだと?!」
あちこちで試験用紙に書かれているアイテムを見て、悲喜こもごも。
簡単に採取できないものも混じっているため、絶望感か漂う受験生もいる。
……一説では、ギルド内で不足しているものを試験にかこつけて回収しようとしているのではないか──等々。
まぁ、その辺の事情はさておき、
クエストアイテムの中には、
町で買ってもいいし、
人を雇って回収するのもあり。
……要するに
……ただ、公平を期すため、
試験用紙は完全にランダムに割り振られており、事前にクエスト
しかし、全般を通して言えるのはソロで臨むより、パーティを組んだ方が有利なことが多いということ。
なぜなら、
「おっし!! 俺のパーティは、クエストアイテムが3つも被ってるぞ!」
「くそ……! 被りは一つか。だけど、これ街で買えるものもあるぞ!」
ざわつく試験会場。
テリーヌに渡された試験用紙を手に、パーティメンバーや同期の仲間で確認し合い、効率よく回収する方法を考えているのだろう。
一方でソロであるクラウスは余裕のヨッチャンだ。
なぜかって? そりゃーアンタ。誰かと情報を共有するまでもないし、しても意味がない────!
……っていうか、つまりね?
「お! やったじゃん! 僕のと4つも被ってる! これは運命だぞ」
「何が運命じゃ、離ーれーろー」
──残念だが、お前は
「ケチ臭いこと言うなよ~」
「く、臭くねぇよ!」
くんくん……。
「いいじゃん、減るもんじゃなし──」
「気分が滅入るわい!」
メリムが勝手にクラウスの試験用紙を覗き込み、自分のと見比べている。
「……え~と、なになに──クルメルの実×5、グールの下顎×5、
「だーかーらー、勝手に見るなッ!」
奪われた試験用紙をひったくると、懐に隠したクラウス。
まぁみられた以上意味のない行為だが……
「へへへ。じゃーん」
そういって嬉しそうに、試験用紙を見せつけてくるメリム。
…………グールの下顎×5
(ふーん……。たしかに被ってるっちゃ被ってるけど──)
一角鹿の角は回収難易度がかなり高い。
魔力草も群生するものじゃないから、3本というのはわりにハードルが高い。
いっそ、街で買った方が効率がいいだろう。
この時期に売ってるかは微妙だが……。
そして、サラザールの簪……ってこれ! ギルドマスターの落とし物だろ!!
そんでもって、テリーヌのハンドバッグって、おまっ!!
────……お前ら、まじめに仕事しろッッ!
(試験を使って、落とし物を探すなよ!!!)
「あ"?!」
ジロリとテリーヌに睨まれる。
「さ、さーせん」
「ちッ」
なんなのこの人?!
最近怖いんですけど──。
スタスタと他の受験生の様子を見に行ったテリーヌの背中をそっと見送り、ホッとため息をつくクラウス。
「まったく……!」
つーことで、
実際に回収する際に被っていると言えるのは、蜘蛛の糸と、グール系の下顎くらいだろうな。
グールもノーマルタイプはアンデッドの中でも雑魚のほうで、スケルトンと強さはどっこいどっこい。
ややグールのほうが狩りやすいが、ある程度のベテランになると大差はない。
このうち、クラウスのスキルで回収可能なのは、『自動資源採取』で取りに行くのが容易な、クルメルの実だけになる。
だが、その気になれば幻ナッツや、モンスター素材も回収可能だが……。
「ち……。ほとんど、自然素材がないのがやっかいだな」
これでは、『自動資源採取』が十全に生かせない。
「なーなー。どれから回収する? 僕、『蜘蛛の糸』が一番早いと思うんだよなー」
勝手についてくる気満々のメリム。
「知るかよ。自分で好きなのを回収して来いよ」
クラウスはクラウスで、回収手段を考えなければならない。
期限は今日の午後より明日の日没まで。時間がありそうで、あまりない。
「えー! 一緒にいこーぜー」
「知らねぇよ!」
ったく、メリムの内容だったら楽勝だったのに……。
まぁいい。
「あ、おい! どこ行くんだよ! そっちは『暴かれた墓所』じゃねぇのか?!」
「そうだよ。時間がねぇんだ、手近なとこから行くに決まってんだろうが」
アンデッド系の魔物素材は、ここ──下級の狩場『暴かれた墓所』が一番近い。
ゾンビやスケルトン、ゴーストがわんさかいるダンジョンだが、アンデッド系は経験値が高く、定期的に討伐クエストが出されるため下級冒険者にはそこそこ人気のある狩場だ。
その分犠牲者も多いので、別名、「初心者の墓場」なんて言われている。
そして、その初心者の遺品を狙ってまた初心者が集まる──……という、微妙なサイクルができている嫌な場所だ。
まぁ、ベテラン下級冒険者のクラウスなら関係ないがね! グールの素材を取るなら、そこでいいだろう。
「なーよー! 蜘蛛の糸から行こうよー」
「ばぁか、勝手に行け。そして時間をドブに捨てるんだな」
その名の通り、『絹蜘蛛の朝糸』は、朝にしか取れない素材。
つまり、今から行っても朝まで待ちぼうけになるのだ。
こういった情報を知っているかどうかも昇級試験の一つなのだろう。
……なるほど、パーティを組んでいる方が有利と言えば有利だ。
だが、クラウスには【自動機能】がある。
このユニークスキルとパーティの相性の良さがさっぱりわからないうちは、おいそれとパーティを組むこともできない。なにせ、無意識で行動するのだ。連携などできるとは思えない。
……というわけで、メリムと組むことは金輪際ないだろう。
「クーラーウースー! わぁーったよ! 行くよ、行くから待ってくれよー」
「誰が待つかよ……」
はぁ……。なんな変なのに懐かれた。
ガックリと肩を落としたクラウスは、
買い取った荷車と先日借りた驢馬に乗り込んでさっさと墓所に向かうのだった。
「なーよー! 乗合馬車行っちゃうよー」
とか言う、メリムをガン無視して────。
(うるせー。チンタラ馬車待ってられるかよ)
──なんのために荷車と驢馬を借りたと思ってるんだ?
もちろん、この日のため!!!
さぁ──【
サックサク狩るぞー!! おーーー!!!
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