第63話「教会」

 ───♪

  ~~~♪


 讃美歌が厳かに響く教会の内部。

 街の中でも敬虔な親御さんのお子さんたちが、讃美歌の練習をさせているらしい。


 その厳かで清廉なメロディに心現れるも、クラウスもリズも歌の内容はよく知らなかった。

 ……だって興味ないもん。


「ね、ねぇ、お兄ちゃん───私ドキドキしてきちゃった」

 さっきまでは平気そうにしていたリズも、順番が近づくにつれて緊張しだしている様子。

 可愛い顔が緊張と興奮で紅潮している。……うん、マイシスターは本当にかわいい。


「ま、あんまし気負うなって。別にスキルなんて、あってもなくてもリズはリズだぞ」

「むぅ! そうは言うけど、一生もんだし……」


 クラウスのそっけない態度に、ちょっと気分の落ちているリズ。

 どうやら、なにか欲しいスキルがあるらしいが、こればっかりは神のなせる業だ。ジタバタしたところでどうにもならない。

 それよりも、


 ……ポンッ。


「安心しろって……。どんなスキルでも、俺たちはずっと一緒だ。……だから、気を楽にな」

 そういって、ナデリコナデリコ。

「あ、ありがと……えへへ。い、ずっと一緒かー」


 うへへへへ。クラウスに撫でられるままに、変な顔で笑うリズ。

 ずっと、一緒。ずっと一緒──とか、ブツブツ言ってる。大丈夫か、マイシスター??


「そ、それって、そういう意味・・・・・・だよね? キャ~」


 どういう意味だよ??

 兄妹なんだから一緒だろ?


「……クラウス。オメェの鈍感っぷりもなかなか堂に入ってるよなー」


 やれやれと肩をすくめるメリム。

 ……何言ってんだコイツ?


「あ。リズ。順番きたぞ───」


 奥の小部屋を隠していた分厚い緞帳どんちょうが、バサリと開く。

 防音もバッチリらしい。


 アークワイバーンの襲撃で教会のあちこちに穴が開いていたが、ここだけはしっかりと整えた様だ。


「では、次の方──」

「う、うん! 行ってくる!」


 ギュッと! 両腕に力こぶのポーズ。

 ……いや、張り切ってもどうにもなるもんじゃないけどな。


 苦笑して見送るクラウスだった。


 そうして、緞帳の奥に消えていくリズの背中を見送りながら、3年前のことを思い出す。

 ……なぜか、奥に進むリズの姿と、3年前の自分の背中を幻視するクラウス──。


(そう、か。もう3年。……そんなに立つのか……)


 ふぅ。

 ……あの時は将来がキラキラしていたよなー。


 思わず遠い目をするクラウス。

 そりゃ、そうさ。……まさか、ユニークスキルをもらうとは思わず、それを告げられた時は有頂天になったものだ。


 ──まったく。今思えば、全部が全部……黒歴史もいい所だ。

 軽くかぶりを振り、昔のことは忘れて、今後の糧にしようと前向きに考えるクラウス。


 それに今は、ほら……。


(ま、リズには俺がついてるしな……)


 大丈夫、大丈夫。


 あの時とは違う、と自嘲するクラウス。

 あの時だって、普通なら、親なり先輩なりが、スキル授与後のことを教えてくれたのかもしれないし、どんなスキルをもらってもケアしてくれたのだろうけど──……当時のクラウスには、そのどちらもなかった。


 ……今さら親のことをどうこう言うつもりはないが、その分は、少なくとも、リズにはできるだけのことをしてやりたい。

 今だって、どれくらい親の役割ができているのか──むしろ、母ちゃんになってもらってる気もするが、それはそれ・・・・・これはこれ・・・・・だ。


 それよりも今だ。

 クラウスはリズがどんな表情で戻ってこようとも・・・・・・・・・・・・・・、温かく迎えてやるつもりだった。




 ……まぁ、願わくば、リズが欲しているスキルであらんことを───。






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