第64話「この兄にして、この妹あり」

 しばらくして──……。


 バサリ。

 重い緞帳が開き、びみょ~微妙な顔をしたリズが現われる。


(あっちゃ~~……こりゃ、なんかハズレを引いたか?)


 聞くまでもなく、どう見ても嬉しそうに見えないリズの様子に、クラウスは努めて笑顔を浮かべた。

 気落ちしているリズに余計なプレッシャーをかけちゃまずいからな。


 ついでに、メリムにも笑顔を作らせる。うん、やや強引に──。


「な、なんだよクラウス? 急に────いひゃいいひゃい! がーーーー! なにすんだよ、クラウス!!」

「ええから、笑えや」


 むぎぎぎぎぎぎ……!


 鼻に指を突っ込まれ、頬を掴まれて笑えというのが正しいのかわからないがリズの笑顔のためだ。犠牲になれメリム───!


「なんで僕がぁぁぁ、あがががががががが!」

「ぶふッッ! お前スゲェ顔!」


 メリムの変顔がドアップ!


「ぶふぅぅぅう!」

「ク、クラウス、てめえぇぇええ!」


 つーか、クラウスが笑ってどうすんだと! という至極まともなツッコミはさらりと無視して──ポイス!! と、変顔を浮かべているメリムを放り出すとリズの手をとる。

「ほかすな、バカ野郎!! あと、変顔はお前がしたんだろ!!」

「おかえりマイシスター!」「聞けよ!!」


 キラ~ン♪ リズを落ち込ませないように金貨一万枚の笑顔を浮かべる。

 ……ついでに、メリムも再び笑わせる。っていうか、笑え!!──我が妹のためにぃ!


「う、う~ん? なにしてるの?」

「うぎぎぎー! 指ぃ──うぎー!! コ、コイツなんとかしてくれよぉ!」


 涙目のメリムがリズに訴えるも、クラウスさんの男前の笑顔は止められませんよ。なぜなら金貨1万枚の笑顔だからな!


 ……きらりんッ♪


「え? 突然、漫才??」

「むぎー! 違うー。はーなーせーよー!」


 戸惑う顔のリズも可愛い。うん。

 ま。メリムの笑顔はせいぜい、銀貨3枚分ってところくらいし作れなかったが、まぁ……これはこれでよし!!


「ぷはぁ!! よ、よくねぇよ! この野郎!」

「うむ、マイシスター。どうだ? スキルは貰えたか?」


 まぁ、何も貰えないってことはないんだけどね。


「無視すんなぁぁあああ!」


 あーうるさいうるさい。

 それより今はリズだ、リズ。


「え? う、うん……。貰えたけど……──う~ん」


 びみょー……と言わんばかりに首を傾げる。

 な、なんだろう。逆に気になってきた。

「……けど、」


 うん。その興味はいったんおいておいて──ぃよー--しッッ!!

 パァン! と大きな柏手一つ。場の空気を和ませるように笑顔で提案。


「おぉ! よかったな、リズぅ!! 今夜はスキル授与記念に、御馳走だ!」

「……え? いや、ごちそうも何も作るの私だし──台所もめっちゃくちゃだよ?」


 至極当たり前のリズの意見。

 ふっ。だが、安心しろ──そんなときのための出前・・だー!


「大丈夫だ。王都から、転移ゲートで取り寄せ注文できるからな」


 お高いから……二人前な。


「そこは三人前にしろよ!」

「……居候になんで飯くれてやらにゃならん」


 むっきー!


「居候っていうなし!!」


 いや、居候じゃねーかよ……。


 ったく。ぷんすか起こっているメリムのことはとりあえずおいておいて、今はリズが最優先。

 きっと、お望みのスキルに巡り合えなかったのだろう。……だが、得てしてスキルとはそういうものだ。クラウスだって、別に欲しくて【自動機能】をもらったわけではない。今はもちろん気に入っているけども、ね。


 そして、今でこそわかる。

 ……ぶっちゃけ、どんなスキルであっても無駄なことにはならないということを──。


 なにせ、一口にスキルと言っても幅広く、生産系やら戦闘系やら──はたまた用途不明なユニークスキルもあるが、そのほとんどが基本的にはなんらかの役に立つ。

 少なくとも、クラウスの知る限り役に立たないスキルはなかったはずだ。


 ──例えば、メリムのユニークスキル【直感】だって、戦闘系にしては派手さがないし、かといって普段使い出来るほど使い勝手がいいものではない。


 ……そう。

 役立たずと思われていた【自動機能】もかつてはそうだったように……。

 それでも、クラウスもメリムも何度も命を救われてきたし、なんならこれから先のどれだけ成長するのか見当もつかない。


 だからきっと、リズのスキルも───。


「まぁ、リズ。そう、気落ちするな。欲しかったものが貰えなかったのか? でも気にすることない。スキルってのはそもそも───」

「んー……。そうじゃなくて、なんか聞いたこともないスキル・・・・・・・・・・・だって言われて、」

「そーか、残念だったな────だけど、どんなスキルでも………………………WHAT’S? い、今、なんて?」


 ……聞いたこともないスキル・・・・・・・・・・・って、言った??


「ん~? 神官さんも首を傾げててね。う~んって、唸っててさー」

 何気ないリズの言葉に、…ドクンッ、とクラウスの心臓が大きく跳ねた。


「………………な、なんですと?」


 それは、かつてのクラウスと同じ状況で、

 同じような神官の言葉──。



   『ふ~む……。【自動機能オートモード】とありますね? はて、聞いたこともないスキル・・・・・・・・・・・ですな──』



 だからこそ、リズの言わんとすることにいち早く気づいてしまったのだ。

 ず~っとスキル授与に携わってきた教会の職員だぞ?? その職員が知らないスキルなんてあるか?────それって、つまり。


 ……そう。

 つまり、リズのスキルって──……。


「え、え~っと、なんだっけ?」


 頭に手を当て、スキルの名称を思い出しているリズをみて、引きつった顔を浮かべるクラウス。

 おそらく相当なじみのない言葉なのだろう。すぐにはパっと出てこない様子。そして、それすらもクラウスの時と同様だ。


「リ、リズさんや、」

「ん? どうしたのお兄ちゃん?? スキル名は確か──」


 ぎぎぎぎぎぎぎぎぎ……と、油の切れた人形のように首を巡らせて──、


「え~っと、───クエス」

スタァァァァアアップSTOP!!」


 ──リズ、ウェイト!!


「へ? どうしたのお兄ちゃん。奇声をあげて??────もがぁぁ?!」


 パンッ!!

 お口チャ~~~~~ック!!


 ……あと、奇声とちゃうわ!!


「アーーーーーーンド、」

 ──カモン、マイシスタァァァ!!


 レッツ、連行ッ!!


「も、もがぁっぁああああああああああ?!」


 っていうか、何を、シレっと、全国の皆さんの前でスキル公開しようとしてんの?!……バカなの死ぬの?!

 とりあえず優しく、流れるようにそのまま──隅っこに連行ッッッ!


「ついてこい、マイシスタァア! ついてこなくても、連れていくぅぅぅう!!」


 ────バヒュンンンン!!


「きゃ、きゃああああああ────ちょぉぉおええええええええええええ?! 何何なになに?! なに、おにいちゃーーーーーーん?!」


 ん~!!


 何何じゃないよー!

 何何どころじゃないよー!!


 んん~~~!! 言ったよ? お兄ちゃん言ったよー!! 何回も言ったよー!!

 んー……だけど、言ったけど聞いてないよね、君ぃぃいい!


 あれほど、口酸っぱくして、スキルをばれないようにしろって言ったよね?

 しかも、君のスキル──……。


「──すぅぅ、」





     ……………………それ、ユニークスキル・・・・・・・ですからぁぁぁあああああああああああ!!!





 ですからぁっぁぁあああ!!


 らぁっぁああ!


 ぁぁああ!!




 ……取り合えず、誰にも聞かれていないことを祈って、心の中で盛大に叫ぶクラウスであった。

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