第62話「約束」
「……で───なんで教会ぃ?!」
デデン!!
言われるままにリズに付き合うと、連れてこられた先は街の郊外にひっそりと建っている石造りの建物だった。
「もー……! だから、約束したじゃん!」
いや、だから何を?!
プリプリとご機嫌斜めのリズ。
もっとも、せっかくおめかししていても、クラウスと目を合わさずにツンツンとしています。
「いや、だって──教会で約束なんてしてたっけ────は……!!」
も、もしや、結婚?! 結婚なのか?!
だ、だだだだだ、誰とぉぉお?!
(あ、あかんあかん!!)
あかんでぇぇええ!!
お前、まだ15才だろ?! お兄ちゃん、結婚なんて許し────……。
「もー、ほらぁ! スキル授与式!! 一緒に行ってって言ったのに……」
「って…………あ、あぁー!! スキル授与……あー、
あーあーあー、はいはい!
「……
じとーっ。
リズの胡乱な視線をスルッ躱して、ポンッ! と目に見えて手を叩くクラウス。
そうだったそうだった。うん。確かに約束したわ。
……いやはや、マジで。本気と書いてマジで忘れてた───……。
「うんうん、シッテタシッテター」
「嘘つけクラウス」
やかましいわ、あほメリム!
「つーか、なんでお前まで来てるんだよ?!」
人んチの妹やで?!
……お前関係ないべ??
「いいじゃんよー」
「……よくねぇよ」
いい要素が一個も思いつかんわ!
──つーか、街がこんなひどい有様でもあるのね、スキル授与式。
ボロボロの教会は、町の郊外にあったおかげで被害中心地ほどではないが、アークワイバーンの流れ
まぁ、元々ボロボロだけど。
すごく失礼な感想を抱いているクラウスであったが、
確かに、よくよく見れば、このボロ教会に町中からちらほらと人が集まり始めていた。
ほとんどがリズと同じくらいの年のころの少年少女たちと、その付き添いだった。
「ぶー……ほんとに忘れてたなんて──」
プクゥと、ほっぺを膨らませてそっぽを向くリズを慌てて慰める───。
「だから、ごめんって───」
ちょん。
膨れたリズのほっぺを突くと、「プシュー」と空気が漏れる。
「ぶふっ!! ぷしゅー……だって、ぶふー!」
「お、お兄ちゃん!!」
さすがにこれにはリズちゃん激おこ。
割とガチ目に殴られてクラウス大反省。
「悪い悪い……。可愛い可愛い」
ナデリコナデリコ
「えへへ」
はっはっは!
こんな時は必殺リズ騙しって、ちょろーーーーーーい!
リズさん、マジちょろいっす。
「うぇぇへへー……って。も、もー! そんなんで騙されないからね!」
とかいいつつ、顔を赤くして俯くリズ。
うわぁぉ、相変わらずチョロすぎるぜ、マイシスター。
「……お前最低だな」
「うるせぇ」
むしろ、知らないおじさんに飴玉あげるとか言われたらホイホイついていきそうでお兄ちゃんとっても心配ですもの?!
……つーか、さっきも聞いたけど、むしろ何でお前まで来るんだよ。
なんでか知らんがついてきたメリムにはブスっと返すクラウス。
「そりゃ行くだろ?!──なんで、人んチの修理を一人で残ってやらなきゃならないんだよ!!」
「家族水入らずだぞ、空気よめよ」
「お前に言われたくないわーい!」
むきー!!
顔を真っ赤にして起こるメリムの頭を掴んで、ブンブン振り回す腕を射程外に。
はっはっは! 効かん効かーん!
「あ、あのー……教会前ではお静かに」
苦笑いをしながら、列の誘導をしていた若い修道士が軽く注意喚起。
「「「さ、さーせん……」」」
ペコォっと3つのつむじが並ぶぅ……あ、メリム左巻きなのね。プススー。
「なに笑ってんだよ!」
「別にぃ!」ぷすすー。
「お兄ちゃん!! あと、メリムさんも……!!」
さ、さーせん……×2
「……あと、
スタスタスタ……。
ジロリとにらんで去っていく教会の人──。
「「「…………」」」
…………え?
めっちゃ聞かれてた。
もしかして、めっちゃ地獄耳……??
「……つーか、俺ってば声に出してた??」
「「顔」」
あ、さーせん。
思わず、ムニムニと顔を撫でるクラウス。
……ぼっちが長すぎて、人前で表情を取り繕うのを忘れてしまったのかもしれない……。
そんなクラウスを、肘でチョンチョンとつつくメリム。
「お、おい、それよりクラウス───あれって……」
ん?
突如、メリムが耳元でヒソヒソ。その視線の先には、どこか見覚えのある連中───……。
って、
「げッ! スカウトの連中じゃん」
「うげぇ! やっぱり……?」
メリムの女の子らしからぬ「うげぇ!」に突っ込むことなく、クラウスも露骨に顔を顰める。
スカウト連中にはろくな思い出がない───ついでに言えば、先日、
向こうもクラウスに気付いたのか、ヒソヒソと話し始めた。
さすがにこれまでの確執を水に流して──というわけにもいかないので、遠目に会釈をする程度だが、
「(見てください。例のクラウス・ノルドールですよ)」
「(ほんとだ! 某クラウス氏じゃないですか。な、なら、隣の魔術師は──ユニークスキル【直感】の?)」
「(おそらく。問題行動ばかりで今はソロらしいですが、クラウス何某氏と一緒にいるということは……)」
ヒソヒソ
ヒソヒソ
……いや、声でけぇな、おい!
だいたい、
つーか、隠す気ねーだろ!!
「(……ちょ、ちょっと待ってくださいよ。なら、隣のあの子は誰です?)」
「(む! もしや、例の──)」
「(えぇ、妹だとか……?)」
ヒソヒソ……。
あ、これはやばい奴だ。
あいつ等、リズに目をつけてるな……。
たしかに、クラウスもメリムもユニークスキル持ちだ。
血統は関係ないとも言われているが、そんなことは実際のところ分からない。
っていうか、そもリズとは血縁関係ではないわけで──……。
ん?
二人もユニークスキル持ちが集まっていたら、その関係者も授与されると考えていてもおかしくはない……ない、のか??
「コホン。リズ───スキル授与に当たっていくつか注意しておくことがある?」
「へ?」
さりげなく、熱心な視線からリズを隠しつつ、クラウスはメリムをも囲んで小さな声で話し始める。
これは本当に最重要事項──。
コソコソ
声を落としたクラウスが、
「いいか、リズ。スキル授与式にはあーやって、スカウトがわんさかとくる」
ほれ、あれあれ。と目立たない様に親指でチョイチョイ。
「え! あれがスカウトさんなの?!」
リズの目にはびっくりだろう。
なにせ、パッと見は普通の人にしか見えないからな。……下手すりゃ、周囲の親御さんと同じようにスキル授与式に参加する付き添いの人かとも思える。
「しー! 声が大きい! 連中、目立たないふりしてるんだから、わざわざこっちから注目しなくていいって!」
むぎゅっと、リズの顎を掴んで無理やり視線を外す。
「あぷっ」
「……で、だ。重要なことだが、連中は
「ご、ゴブリン……」
ゴクリとリズが唾を飲み込むが、なんか驚くところが違う。
「ん。まぁ、ゴブリンというか、あー……あれだ、台所にでる黒き悪魔───」
「えぇ! つまり、嫌な奴じゃん!」
うんうん、その通り。
「クラウスは、個人的な感情が溢れてるぞー」
「うるっせぇ、お前だって散々な目にあっただろうが」
うぐ……と、言葉を詰まらせるメリム。
メリムの場合は、授与式にはスカウトにバレなかったのか、それとも、なにか事情があったのかは不明だが、ユニークスキル持ちだとバレたのは前回の中級試験の最中のことだった。
本人的にもあまり隠す気はなかったようで、試験後にはあっという間にスカウトに群がられて───……そして、すぐに見限られた。
それを思い出しているのか、苦い顔のメリム。
……スカウトの見切りの速さはちょっと異常なくらいなのだ。
「ま、まぁ、そういうわけで───スキル授与されても、何を授与されたとかは明らかにしない方がいい」
とはいえ、クラウスの時は、割とあけすけに教会で発表されてたりしたので無駄かもしれないが……。
「う、うん! わかったよ!」
リズは心得たとばかりに大きく頷く。
……本当にわかってる?
「で、だ。まぁ、コツというか、目立たないようにするには、なるべく、最後の方がいいかもな。そのほうがスカウトの連中も別のスキル持ちの勧誘に必死になって気づかないかもしれないし──」
「え? そうなの?……でも、こっちから申告しなきゃわかんないんじゃないかなー」
リズが首をかしげる。
──
「えっと、昨年くらいから、関係者にしかわからない様にしてるみたいだよ?」
「な、なぬッ?!」
クラウスびっくり。
「え、どゆこと?」
「え、知らないの?」
知らんわ。
「……多分、そのスカウト対策じゃないかなー。ほら、誰かさんが、スカウト合戦で酷い目にあったって噂になってたし」
………………俺のせいかーい!!
びしぃ、と虚空に一人突っ込みのクラウス。
別にクラウスが悪いわけではないが、たしかに、スカウトのやり方は強引に過ぎるところがある。
とにかく、早期に有用な人間を確保したいがために、本人に適正や成長の度合いなんかを考慮せず、とにかく先んじて確保しようとし、
結果──早期解雇などの、ギルドやパーティ追放の問題が社会現象になっているのだろう。
……実際、クラウスはそうなった。
そして、そのせいでベテラン下級冒険者の不名誉な二つ名をもらっていたのだ。
なにせ、青田買いするためには、とにかく早い者勝ちなのだ。
そんなわけで、とりあえず、有用かどうかはひとまず置いておいてから、まずは確保しようと躍起になるわけだ。
で、ユニークスキルも様々なわけで──いいのもあればへんてこなのもある……。
結果、
……まぁ、スカウトだけが悪いわけじゃないけど。
ゲインみたいなのもいるしな。
「だからから?……今は個室で授与されるって聞いたよ?」
マ、マジか……。
とすると、知りえるのは教会関係者だけかー。
そして、教会関係者はあれで口が堅い。
下手に情報漏洩なんてことになると破門もありうるんだから、当然だけど。
「じゃ、スカウトはなんのためにいるんだ?」
「あー……多分、あれじゃないかな」
メリムが指さす先を見ると、授与の終わったらしい少年少女に熱心に話しかけているスカウトたち。
どうやら、
純朴な少年たちは目をキラキラさせながら貰ったスキルについて話しているようだが───……あれってありなんかよ。
「うん……リズは、アレに絡まれないようにしような」
「ん? うん……?」
あまりよくわかっていなさそうなリズ。
そのことに一抹の不安をいだきながらもクラウス達はスキル授与の列に並ぶのだった。
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