第9話「魔石の大人買い」

「魔石を?……どうしてかしら? 聞いてもいい?」

 

 魔石を売買することは決して珍しい事ではない。

 魔物を倒してレベルアップの図れる冒険者と違い、街で暮らす職人や商人は、通常ではそんな方法でレベルアップが望めない。

 しかし、そんな危険を冒さずともレベルアップをする方法がある。


 それが、魔石からの魔素の吸収だ。


 そうやって、冒険者以外の者はレベルアップを図り、社会貢献のためと自分のためにスキルのランクアップを目指すのだ。


 高位の鍛冶屋はより高み目指し、鍛冶のスキル鍛える。

 聖職者はより高位の奇跡を求めて、聖職者のスキルを鍛える。


 どれもこれも、

 誰も彼もが魔物を倒す以外に、そうして魔石を使ってのランクアップを図るのだ。


 そのため、魔道具の作成以外にも魔石は流通しているのが常である。

 ゆえに、魔石に需要は途切れることがなく常に一定量が流通し消費されていく。


 国によっては通貨と同じ価値があるほど、魔石の需要は高い。


 そして、クラウスの目的ももちろん、

「──け、経験値が欲しいんです。……知っての通り、俺は3年も冒険者やってきて、未だに下級に甘んじています。だから、この機会を逃したくないんです」


「………………そう。いいわ、譲りましょう──金貨65枚分の魔石をね」


 それだけ言うとあっさり交渉成立。

 クラウスとしてはマンドラゴラを売って得た金を使って正規のルートで魔石を買うつもりだったので、これは渡りに船の話だ。


 金貨65枚もの大金があっても、正直魔石以外に使うあてが思いつかなかったというのもある。


「テリーヌ。ギルド中の魔石を集めて、大取引になるわ」

「は、はい!」


 壁際に控えていたテリーヌが大慌てて素材換金所に駆け込んでいく。

 あそこには、冒険者から換金された大量の魔石があるのだろう。


「──なるほど。貴方も冒険者としての大成を夢見ているのね?」

「そ、そりゃあもちろん……!」


 冒険者なら当たり前のことだ。

 親父もそうやって冒険者を続けて行方不明になったのだ。


「いいわ。これからも高価な素材を見つけてきたら魔石をそこそこの格安で譲ってあげる」

「本当ですか?」


「えぇ、たまたま・・・・見つけたら、ここに持ってきて頂戴ね。高額の商材はギルド発展のためにも欠かせないですもの」

「あ、ありがとうございます!」


 この時点で、クラウスはサラザール女史の話術に誘導されていたのだが、本人は気づいていない。


 すでに、「たまたま」がクラウスにとって「たまたま」でなく、たびたび・・・・あると自白しているようなものだ。


 そうして、箱に詰まった大粒の魔石を大量に受け取ると、代金としてマンドラゴラを引き渡すクラウス。


「ありがとうございます! ほかの素材は換金でお願いします」

「えぇ、もちろん────ちゃんと実績としても換算するわよ」


 そういって目を細めるサラザール女史。


 冒険者認識票に蓄積される実績は『矢毒ヤドリの採取』のクエスト達成分しかないが、追加報酬はキチンと金貨と銀貨で支払われた。


 〆て──、

 金貨で22枚と銀貨で70枚だ(内訳はロックリザードの素材が金貨10枚で、残りが金貨12枚銀貨70枚の換金)。


 連日、本当にすさまじい稼ぎ……。


 そして、大粒の魔石が〆て13個も!

 なんと下取り価格で譲ってくれたおかけで、魔石(大)が一個で金貨5枚だという。


「す、すげぇ……。マジかよ」


 手にした報酬に大きさに身体が震える。

 クラウスは努めて平静をよそい、次にクエストを見繕いつつ、今日は休もうと固く決意し家路を急いだ。


 何をしたわけでもないが、高額の報酬と、ギルドマスターとのやり取りで精神的に疲れてしまったのだ。

 そして、なにより魔石を使ってやることがある。


 ──これだけあれば、どれほどレベルが上がることか……。


 ホクホク顔でギルドを去っていくクラウスの背中を、ジッとサラザール女史の目が追っていた。

 そして、街の雑踏の中にクラウスが消えたのを確認すると、テリーヌを呼びつける。


「……マスター?」

「わかってるわね? 彼に監視をつけなさい──それも腕利きの」


 怜悧な瞳で、ジッとテリーヌを見つめると有無を言わせぬままに踵を返す。


「──かえがたい人物・・・・・・・になるかもしれないわ。昔、王都のギルドのスカウトが勧誘したって聞いたことがあるけど──なるほどね……」

「あ、あの? マスター??」

「……だけど、逆もありうるわ。だから、彼の秘密を探りなさい────『たまたま・・・・』とやらのね」


「は、はい……! 了解しました」


 ヒヤリと汗が流れるのを感じながらテリーヌは何度も何度も頷く。






 クラウスのあずかり知らぬところで様々な思惑が動き始める……。





 本日の成果────。



 ~換金額~


 金貨×22

 銀貨×70



 ~換金商品(魔石)~


 魔石(大)×13⇒使用済み



 ※ ※ ※

 

 クラウス・ノルドールのレベルが上昇しましたレベルアップ

  クラウス・ノルドールのレベルが上昇しましたレベルアップ

   クラウス・ノルドールのレベルが上昇しましたレベルアップ

    クラウス・ノルドールのレベルが上昇しましたレベルアップ

     クラウス・ノルドールのレベルが上昇しましたレベルアップ


 クラウス・ノルドールのレベルが上昇しましたレベルアップ×3




「い、一気に8レベルもアップかよ……。す、すげぇ」



 ※ ※ ※

レベル:27(UP!)

名 前:クラウス・ノルドール


スキル:【自動機能オートモード】Lv3

Lv1⇒自動帰還

Lv2⇒自動移動

Lv3⇒自動資源採取

Lv4⇒????


● クラウスの能力値


体 力: 230(UP!)

筋 力: 135(UP!)

防御力: 121(UP!)

魔 力:  67(UP!)

敏 捷: 145(UP!)

抵抗力:  47(UP!)


残ステータスポイント「+47」(UP!)


スロット1:剣技Lv3

スロット2:気配探知Lv3

スロット3:下級魔法Lv1

スロット4:自動帰還

スロット5:自動移動

スロット6:な し

スロット7:な し


● 称号「なし」

〇臨時称号「成金野郎」

 ⇒一定時間、つい余計なものを買ってしまう。

  そして、無性にお札に火をつけたくなる。「ほら、明るいだろう?」


 ※ ※ ※

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