第22話「快進撃」
「よーし! まだまだ余裕があるぞー…………荷車の荷台がねッ!」
ズン、
ドン、
バーーーン!
と、大量のドロップ品らを積み込んだクラウス。
ちょっと、荷車の敷板がギィギィと頼りなく音を立てるほか、
「ほれ。そんな顔すんなよ、ポーションかけた配合飼料でも食いねぇ」
まるで、馬が「チッ」と舌打ちをしているようにも見えたが、まぁ一口餌を食い始めたらガツガツ食っていたので、どうやらお気に召したらしい。
くくく。畜生は単純だぜ!
しかし、この荷物の量だと、さすがに移動速度は落ちるよな。
──スキル『自動移動』!
ブゥン……。
※ ※
《移動先:嘆きの渓谷》
⇒移動にかかる時間「02:01:33」
※ ※
「むっ……。これだと乗合馬車よりちょっと早いくらいの速度か──」
どうやらさすがに積み過ぎらしい。
とくに『燃える水』とか、そーゆのが重い。
「うーむ。今度は採取する資源も考えて効率よく回らないとな。あと、荷車は……もう、いっそ買っちまうかな?」
今日はお試しを兼ねて、ギルドでレンタルしたものだが、この感じだと度々使いそうだ。
それくらいならいっそのこと買ってしまって、クラウス好みの改良を加えた方がよさそうだ。
こう…………ドリル的な?
「ふむ……。馬もそのうち買うとして──……しばらくは場所と採取資源を考えて、重量物は控えめにしたほうがいいだろうな」
その言葉を聞いていたのか、
……コイツ言葉わかるのか?
「───まぁ、今日は諦めろ」
ひ、ヒヒーーン?!
「悪いけど、あと二か所が俺的ノルマだから──」
ガビーン?! と、顔を硬直させた馬をさらりと無視して御者席に乗り込むクラウス。
「さぁ、次行ってみよー……!!」
ヒヒン?! ヒヒーン?!
「うるさいぞ?……まったく」
目標、次の狩場────『嘆きの渓谷』!!
ユニークスキル【自動機能】、『自動移動』発動ッッ!!
その瞬間、
フッとクラウスの意識が飛んだ。
………………そして、その瞬間と姿をコッソリと観察しているものがいたとか──。
「な?! あ、アイツ、まだ行くの?! っていうか、凄い荷物だし! なんか、めっちゃ早いし、……あと独り言、
意気揚々?と狩場を後にして次の狩場に向かうらしいクラウスの後姿を見て、ムッキー!! と地団太を踏む小さな影。
……もちろん、ギルドの監視役のティエラだ。
しかし、そんな風に監視している者がいるなど露知らず。
クラウスは無意識のまま、つぎの狩場『嘆きの渓谷』に到達していた。
ここも不人気狩場で、一度だけボスをみたことがあるがかつて──以下略。
「ふん!! 『自動資源採取』」
『矢毒ヤドリの採取』(ノルマ5本)×3枚
『矢毒キノコの採取』(ノルマ20本)×10枚
『嘆きの岩苔』(ノルマ3個)×1枚
『頭虫火草』(ノルマ1個)×1枚
バババババババッバババババ!!
無意識のまま高速で資源を回収しているらしいクラウス。
「─────ハッ?!……げほっごほ!! よ、よっしゃーノルマ達成!! &マンドラゴラもゲット!!」
ゴトッ! と、地面の上にズダ袋に入れた素材を置くと、今度はスラリ……と黒曜石の短剣を抜く。
「さぉ、次はお前らだ──!」
『キキキィィ!』
『キノコぉ!!』
ゾロゾロと集まる、嘆きの渓谷の魔物たち。
動くキノコにトカゲども。
やはりというか、思った通り一番
しかし、半径数十メートルほどのモンスターは失神するか、狂い死にしている。
もちろん、マンドラゴラを抜いたときの絶叫にやられたのだろう。
残ったモンスターは警戒しながらもジリジリと包囲の輪を縮めてくるが完全に腰が引けている。
「どうした?
気配探知起動。
クラウスの脳裏に魔物の姿が捉えられる。
「いたいた。走り
今回の検証は、毒の沼地以上に足場が悪く、高低差のある場所での検証だ。
「さぁ、全部狩り取ってやる!!」
気配探知と『自動戦闘』の組み合わせは今のところ最強。
下級モンスターに限られるのだろうが、気配探知の精度を上げていけば、魔物の姿を見ることなく殲滅することもできるに違いない。
《戦闘対象:走り
⇒戦闘にかかる時間「00:14:55」
…………クールタイム終了。
「よし────突撃、俺ッ!!」
『自動戦闘』発動ッッ。
──たりゃぁぁああああああああああああああ!
フッと、いつもと同様に意識が飛び────…………そして、気付いたときには、
「うぐっ!! あ、足がつりそう……!」
ビリリリと、ふくらはぎの痛みを覚えるが何とか耐えきる。
「さすがに慣れない足場での戦闘は危険か」
ほとんど移動はしていないが、モンスターの残骸の飛び散り具合から、無意識下にかなり上下に動きながらの戦闘だったらしい。
素材の回収が億劫になるほどだ。
「これは、体を鍛えるか、高低差のある場所での戦闘は控えた方がいいかもしれないな」
いててて……。
意識が戻った瞬間に足が
殲滅できずに残った魔物や、ランク上の魔物が襲ってきたときに対処できないかもしれない。
『自動戦闘』の欠点はこういった戦闘後の状況が予想できないことなのだから……。
「だけど、今回はうまくいったな」
よし!!
ここの魔物のドロップ品を集めたら────……。
「渓谷での安全を確保するために、ここのボスを倒すッ!!」
ステータスオープン!!
『自動戦闘』
ブゥン……。
※ ※
《戦闘対象:レッサーイビルバット》
⇒戦闘にかかる時間「00:54:43」
※ ※
「う……? お、思ったより時間がかかるな?」
確かここのボスは、下級のモンスターだが悪魔の系譜──たしか蝙蝠っぽい悪魔だったはず。
いや、悪魔っぽい蝙蝠だったか?
まぁ一応、悪魔系列のモンスターなので、弱い魔法を使ってくる奴だ。
しかし、厄介なのは──……。
「……そうか、空を飛ぶ敵に対して、対抗手段がないからこんなに時間がかかるんだ」
だけど、倒せるらしい。
どうやって倒すからわからないけど、『自動戦闘』が54分で倒せると断言しているのだ──。
「なら、俺は俺のスキルを信じるッ!」
すぅぅぅ……、
『自動戦闘』発動ッッ!
フッ、と意識が消え。
────正気に戻った瞬間、「って、うわわ!」クラウスはヒヤリと体が冷える感覚を覚えた。
「な、なんでこんなところに!!」
気が付いたクラウスは、渓谷内の切り立った岩の上に立っていた。
横も前も後も──どこもかしこも切り立った岩。
一歩間違えれば、大怪我をしかねない高さの岩に、短剣だけを手にして立っていたのだ。
「な、なるほど……。ここまで誘いこんでトドメの一撃を与えたのか……」
眼下の岩棚には、潰れるようにして落下した蝙蝠型のボス。
奴の命が尽きると同時に渓谷内に陽の光が差し、女の嘆き声のような風が鳴りやんだ。
あとは、水がチョロチョロと谷底を流れるだけの静かな渓谷に戻る。
正常化されたようだ。
「よ、よし……最後がきわどかったけど、ここもクリアー!!」
さぁ、次だ次!!
荷馬車を使って都合がいいのは、乗合馬車の時間を気にしなくてもいいから、ギリギリまで狩りに行けるということ!
そう、時間との勝負──!!!
タイムリミットは…………夕飯に間に合うかどうかだッ!!
「待っててくれ、MYシスター!!」
そうして、大急ぎでドロップ品を回収すると、そのまま荷車に跨り大急ぎで次の狩場に向かうのだった。
「とりゃぁああ!!」
ガラガラガラ──!
「…………って、まだ行くのぉぉぉおおお?!」
さっさと次の狩場に向かって閉まったクラウスをみて、嘆いている少女がいたとかいなかったとか──。
ちーーーーん♪
『嘆きの渓谷』での成果。
~ドロップ品(討伐証明)~
走り
鳴きトカゲの尻尾×13
蠢く霞の少塊×1
レッサーイビルバットの牙×1
~ドロップ品(素材)~
走り茸の胞子嚢×10
鳴きトカゲの皮×13
鳴きトカゲの肉×13
渓谷スライムの濁り液×3
レッサーイビルバットの皮×1
~ドロップ品(魔石)~
魔石(小)×6⇒使用済み
赤の魔石(小)×1
青の魔石(小)×2
虹の魔石(極小)×1
魔石(やや小)×1⇒使用済み
魔石(中)×1⇒使用済み
~採取品(草木類)~
矢毒ヤドリ×15
矢毒キノコ×200
嘆きの岩苔×3
頭虫火草×1
マンドラゴラ×1
※ ※ ※
「く……! レベルアップならずか──……!!」
さすがに連続でのレベルアップは無理だったらしい。
だけど、まだまだ!
このままどんどん行こう!!
今日は、あと一か所回るぞー!
「次は、『夕闇鉱山』だー!!」
えっほえっほと、掛け声も頼もしく、ドロップ品を荷車に積み込むと、
クラウスは本日最後となる狩場、『夕闇鉱山』を高速でクリアに行くッッ!
その陰で……。
「うぉえぇぇぇええ……! おろろろろろろろ……! あ、あの野郎──馬車使ってるからって調子に乗りやがってぇぇぇえ!」
ビチャビチャ……!
マラソンに次ぐマラソン!
いかに、中級の冒険者といえど、
「──走るこっちの身にもなれーーーー!!」
と、ティエラがこっそり叫んでいたとかいなかったとか。
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