第23話「本日最後のクエストですッ!」

 ※ ※


 ガラガラガラガガラ────……!


 到着ッッ


「……っと、やってきました、『夕闇鉱山』!! ここは今日も人気ひとけがないなー」


 自動移動から覚めたクラウスは、軽く伸びをしてダンジョンに潜る前の準備を整える。

 

 そこに、

「(──くっそぉ……!! 人、おるわい……!)」

「ん?」


 ボソリ、とすぐ近くで声が聞こえた気がしてクラウスは周囲を見渡す。


「あれ? 今……誰かいたような?」

 でも、たしかギルドのお知らせ掲示板には、今日クラウス回る予定の狩場には自分以外はいなかったはず。


「も、もしや魔物か……?」


 シャキンと黒曜石の短剣を引き抜き、油断なく構える。


「………………??」


 ダンジョン外とは言え、町の外にはモンスターがでることもある。

 狩場以外の遭遇率は極めて低いとはいえ、いないわけではないのだ。


「う~ん? 『気配探知』には反応なし────でも、前にここに来たときは、中級のティエラがいたよな? もしや、」


 ドキ……!


「んん???」


(……ドキって聞こえたような?)


 き、気のせいかな?

「──気のせいだよな……。こんな不人気狩場に来るような酔狂な奴って俺くらいなもんだろうし」


 ま、人がいないほうが好都合な奴にはうってつけの場所なんだけどね。

 普段なら、今日回った場所は全て狩場としては効率が悪いしドロップ品がイマイチで、どこも人気がない場所だ。


「……とはいえ、それはやり方次第なのさ」

 ニヤリ──。


 グググと体を伸ばし、関節をバキバキ鳴らすと、クラウスはツルハシとスコップを担ぐ。


「さーて……、一丁やりますかッ」


 ババババ! と、依頼書を取り出し、いつものように荷車に貼る。


 『魔光石(特大)の採掘』(ノルマ3個)×5

 『魔光石(極大)の採掘』(ノルマ1個)×3

 『魔光石(大)の採掘』(ノルマ10個)×40



「全部GETしてやるぜぇ! ここは、ほぼ魔物の討伐がないからな。さっさと採掘して終わりだ!」


 それではさっそく

『自動資源採取』


 ※ ※


 《採取資源を指定してください》


 ●草木類

 ●鉱石類←ピコン

 ●生物類

 ●液体類

 ●その他


 ※ ※



 ※ ※


《採取資源を指定してください》


 ●鉱石類

  ⇒魔光石(小)(中)(大)(特大)(極大)、

   浮力石、魔鉄、霊光石、叫声石、猫啼石、オリハルコン、アダマント、精霊石、ミスリル

   石炭、水晶、琥珀、鉛、錫、ニッケル、鉄、鋼、銅、銀、金、白金etc


  ⇒砂岩、泥岩、礫岩、凝灰岩、玄武岩、花崗岩、閃緑岩、角閃岩、緑色岩、岩塩etc


  ⇒魔石、人骨、獣骨、魔物の骨(下級)(中級)、ドラゴンボーンetc


 ※ ※


 もちろん、魔光石が目当て。

 霊光石はあるかもしれないけど、またスケルトンジェネラルのような初見の上級アンデッドがいた場合、ジ・エンドだ。


 一応、ひととおりの鉱山内を回って安全を確保。

 例の墓所はギルドが厳重に封鎖したらしく、魔法封印が施されていた。


「これなら大丈夫かな? おーし! サクサク掘るぞー!」


 今日、これだけクエストをこなせば……!

 本日の終わりを想像してニヤニヤが止まらないクラウス。


「今日、最後の一仕事」


 ブゥン……。


 ※ ※


 《採取資源:魔光石(大)×400、魔光石(特大)×15、魔光石(極大)×3》

  ⇒採取にかかる時間「01:55:24」


 ※ ※


 よし、楽勝!!

 さすがに数が数なだけに2時間近くかかるが、それは仕方のない話。


 だが、普通なら数週間かけて掘る量をたったのこれだけで採掘できるのだ。

 破格と言えるだろう────。


 いざ!!!


 『自動資源採取』



「………………──発動ッ」



 フッと、いつもの【自動機能】を使ったとき同様に意識が飛ぶ────…………。

 そして、気付いたときには、両の手には溢れんばかりの魔光石!


「よーし!! ノルマ達成!!」


 ここでの採掘は比較的安全なため、わざわざボスを倒す必要はないだろう。

 それに、何だかんだで初心者が使うこともある『夕闇鉱山』を正常化してしまうと、魔光石に採掘量がガタ落ちする。


 あれはダンジョン化している影響で大量に採掘できるという側面があるのだ。


 だ・け・ど。

「うへへ。……これだけあれば────!」


 一人ニヤニヤと、鉱山内でガッツポーズを取るクラウスをティエラがジッ~と、観察していた。

 その表情は引き締まっていたが、ひたすら採掘を続けるだけのクラウスを見ているのはそれなりに退屈だったようだ。



「(なに? なんなの? ほんとに採掘に来ただけ?)」



 てっきり、またスケルトンジェネラル戦のような、下級冒険者とは・・・・・・・思えない戦闘・・・・・・でも見せてくれるのかと期待していたティエラであったが、そんな気配を露とも見せない様子に、慌てて物陰に身をひそめる。


「(あ。やば……! このままだと鉢合わせしちゃう)」


 ダンジョン内では出口が限られているため鉢合わせするとマズイ、ここはサッサと退散するに限る。

 ティエラは痕跡を完全に消し去ると、音もなくススーと入り口へと退いていった。


 もちろん、クラウスは全く気づいていない。



「さーて! 今日は納品して終わりだぞ! あー疲れた」


 『夕闇鉱山』での成果。


 ~採取品(鉱石類)~


 魔光石(極大)×3

 魔光石(特大)×15

 魔光石(大)×400


 ※ ※ ※


 ドズン!!──…………ギシギシギシッ。


 夕闇鉱山からドロップ品を運び出すと、荷車に乗せ一服。

 余りの重さに、荷車が悲鳴を上げている。


「悪いね。今日はこれで最後だから」


 驢馬ロバが絶望的な顔をしていたが……。まぁ、頑張ってくれ。


 そういって自らも御者席に乗ると、荷駄馬に鞭を振って前に進ませる。

 今からだと夕飯にはギリギリと言ったところ……。


 ま、間に合うはず! 「待っとれいぃ、リズ!!」


 あとはいつも通り────。



 ──スキル『自動帰還』!



 ブゥン……。



 ※ ※


 《帰還先:クラウスの家》

  ⇒帰還にかかる時間「02:34:18」


 ※ ※


「うわ……! ついに乗合馬車並みの速度に」


 息も絶え絶えの荷駄馬を見れば頷けるというもの。

 やはり、荷物の量は考えた方がよいだろう。


 ブルヒヒーーーーン!


「悪い悪い。今日はこれで最後だから──後は帰るだけだぞ?」

 「ホントか?!」といった表情を浮かべる驢馬ロバの首筋をポンポンと叩いてやりなだめてすかす。


「さぁ、帰ろう────」


 スキル『自動帰還』発動ッッ!


 ────フッと意識がなくなれば、見慣れた家の前。


 ゼィゼィと驢馬ロバが荒い息をついていたがクラウスは至極余裕だ。

 そして、家の前とくれば────。


「あ、お兄ちゃん──!! 夕飯ギリギリだよ……って、あれ?」

「ゴメン、すぐ終わるから──行ってきます!!」


 ……包丁を手にしたリズがポケーとした顔でクラウスをみていた。


「え~? ど、どこ行くの?! ご飯はー……!?」

「あとでー!」


 ポカーンとしたリズを放置したまま、死にそうな顔をした驢馬ロバを牽いてクラウスは行く。


「……で、デジャブ??」


 せっかく温かい食事でお出迎えしたというのに、可愛い義理の妹リズはクラウスに二度も肩透かしを食らうのであった。




 カランカラ~ン♪




 軽やかなカウベルがなるギルド入り口。

 そこに、クラウスは紙束を手にしてやってきた。


「たっだいま戻りました~」


 随分ご機嫌な様子に、ガラの悪そうな冒険者連中はもちろん、ギルド職員も怪訝そうな顔つきだ。


「ど、どうしたんですか? そんなニヤニヤした気持ち悪い顔────……もとい、ムカつくご機嫌そうな顔で」

「いや、言い直せてないですから!!」


 何?!

 なんなのテリーヌさんの最近の態度ぉぉ!


「あぁ、ごめんなさい。どこかの空気の読めない冒険者さんが、安い依頼を大量に消費してくれるから残業が大変で、大変で」

「はい、そこぉ! 本音は仕舞って仕舞って!!」


 安くて悪かったね!!

 大量消費で悪かったね!!


 だって、こっちも仕事だもん! 冒険者だもんっ!

 頑張った結果だもん!!

 

「はいはい。わかりましたよ。──で、なんですか? ニヤニヤして」

「ニヤニヤって……、」


 もうちょっとオブラートに包んでよ!!


 って、我慢我慢……。


「ぐ、ぐむむ。き、今日の仕事終わりましたー!」


 額に浮く青筋に悟られない様に、引きつった笑いでニコリとすると、ノルマを達成した依頼書を提出するクラウス。

 どれもこれも、低級のものばかりでも今日だけで100件近い依頼を完遂したのだ。


 ……ニヤニヤ位、したっていいだろうに。


「はぁー? 馬鹿なこと言わないでください。馬鹿みたいな塩漬け依頼もあるのに、一日やそこらで終わるわけないじゃないですか。馬鹿ですか?」


 ば、馬鹿って……。

 馬鹿って3回言った?

 言ったよね?!


「言いましたが何か?」キリ


 いや、何も言うまい──……男は黙って結果を見せればよいのだ。


「はい、これ」

「ってさー。クラウスさ~ん、依頼書の受注書だけ渡されても……って、」


 ん。


 クラウスは親指でクイクイと、ギルド前に停めた荷馬車を示す。

 そこには袋の中にあってさえ燦然さんぜんと輝く魔光石が見える。その数が尋常でないことは誰の目にも明らか。


 そして、その他数々のズダ袋の山!

 山も──山々!!


 てんこ盛り!!


「ちょ……!!」

 慌てて席を発ったテリーヌさんが受付を飛び出すとギルド前に停めた荷馬車に駆け寄る。


「な、ななななななな、」




 なんじゃこりゃーーーーーーーーーーーーーーー!!




  なんじゃこりゃー!

 

   なんじゃこりゃー!!


    なんじゃこりゃー!!!




 と、ギルド中に悲鳴のような声が木霊したとか。


「あ、このパターン……」

 ガチャリ。

「……YES、さっさと入りなさいね」


 COME ONカモォォオン──。


 と、奥のギルドマスターの部屋が空いて、顎で面貸せやとしゃくられる。


「──ですよねー……」

「ですよねー……じゃねーっつーーーーーの!!」


 「あー今日も残業やーーーん!」と嘆くテリーヌや他のギルド職員の嘆き声を聞きながら、クラウスはサラザール女史に呼ばれて部屋に連れ込まれてしまった。




 はい、お説教タイムだそうです。

 ……なんでぇ??

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