第24話「中級冒険者認定試験受験資格」
ずずー……。
一人で茶を啜りながら、クラウスの持ち込んだいくつかのクエスト品のサンプルと、高価なマンドラゴラをテーブルに並べているサラザール女史。
ちなみに、クラウスの茶はない。
「……ふぅ。一度でもマンドラゴラを持ち込んだだけで驚きでしたけど。本日で二本目──しかも、」
急遽作られたドロップ品の目録をパラパラと捲るサラザール女史。
「──塩漬け依頼も含めて、短期間でのクエストの達成。……それも、下級とはいえ、狩場を3つも回って?」
「え、えぇ……。それが何か?」
すっとぼけるクラウスを、ジトッとした目で見るサラザール女史。
「それ、本気で言っているの?」
「……モチロンデス」
「目を見て言いなさいよ」
さりげなく、目をそらすクラウスにサラザール女史はため息を一つ。
「はぁ……何をそんなに急いでいるのか知らないけど、こんな量のクエストを短時間で完了させるなんて──普通じゃ考えられないわね」
クラウスの達成したクエストの数がソロ冒険者が一日でこなす量としては破格のもの。
……というより前代未聞に近いらしい。
「う~ん……。まぁいいわ。別に悪いことをして達成したわけじゃないみたいだし、こうして、マンドラゴラも採取してきてくれた」
そういって、人型の植物を軽く撫ぜるサラザール女史。
下級のクエスト品よりも、よほど重要らしい。
「でね…………アナタが言った通り、『嘆きの渓谷』に人を送ったわ。探知に
ん?
「だけど、あそこでマンドラゴラを発見することはできなかったの」
「あ、はぁ」
まぁ、そうだろうな。
自動資源採取を使っても1本しかなかったし……。
「そんなものをよくもまぁ……」
呆れたような笑っているような顔のサラザール女史。
だけど、少し吹っ切れたような顔で言う。
「──まぁいいわ。冒険者が手の内を隠すのはよくあることだし、それを無理やり教えろという権限はギルドにはありませんからね」
その代わり監視をつけている──とは、サラザール女史は明かしていない。
「え、えぇ、企業秘密です」
「そ。企業秘密ね」
肩をすくめるとそれ以上言わずに、マンドラゴラを手に取るサラザール女史。
「──前にも言ったけど、結構お高いのよ、これ」
「あ、はい」
(やったぜ! 買い取り金額で魔石GETするぞー!)
一瞬、目を$マークにしたクラウスであったが、次の瞬間肩透かしを食らうことになる。
「だけど、残念ね」
「へ?」
そっと、マンドラゴラをテーブルに戻すとサラザール女史は言う。
「お高かったのはつい先日までのこと。……マンドラゴラを始め、毒消し草や魔光石──これらの価格は著しく低下しているの」
「え?!」
な、なんで?!
「何でだと思いますか?」
「…………えっと──」
ガチャ。
その時扉が開いて、片で息をしたテリーヌさんが入室する。
お茶でも持ってきたのかと思えば、ササーとサラザール女史に近づき耳打ち。
そして、ジロリとクラウスを見たかと思うと、
「……クラウスさん」
「は、はいぃ」
すさまじい迫力で睨まれて、思わず背筋が震える。
「需要と供給って言葉知ってますか?」
「あ、はい……。あの欲しい人と売りたい人の関係っすよね?」
「そーそー」
ニコニコとしたテリーヌであったが、次の瞬間顔を般若のように変化させて、
すぅぅぅ……。
「あんなバカみたいな量を持ち込んでくれば値崩れするに決まってんじゃないですかーーーー!!」
キーーーーーーーーン
「あびゃあ?!」
耳鳴りがするほどの至近距離で怒鳴られ、プルプルと震えるしかないクラウス。
ギルドマスターの部屋の仕立てのいいソファーの上で小さくなってしまった。
「その辺にしておきなさい、テリーヌ」
「も、申し訳ありません」
それだけ言うと、一礼して去っていく。
「ごめんなさいね。悪気があったわけじゃないんだけど──」
困ったような表情のサラザール女史。
「本来は、達成頻度などを考慮して買取品の代金を決めているのだけど、これほど一度に大量の依頼品の達成があるとねー」
頬に手を当てため息一つ。
「アナタたち冒険者には、もちろんクエスト達成の正規料金をお納めします。……しかし、覚えておいてくださいね」
そこで初めてサラザール女史が殺気にも近いオーラを放出して言う。
「……何事も程々にしてくださいということを────!」
ニコォ
「は、はいぃぃい!」
思わず平身低頭して謝るクラウスであった。
そして、この時は詳細を知るよりもなかったのだが、この後ギルドの受付で成功報酬を受ける段階になってテリーヌに一言嫌味を言われたのだ。
「…………供給過多で、素材の相場がガタ落ちですよ──……つまりギルドは大赤字です」
「す、すみません……」
クラウスがここ数日で持ち込んだドロップ品の量が尋常でなかったがために、比較的高価で取引されていた矢毒ヤドリや、毒消し草が大暴落してしまったらしい。
おまけに、本来なら中級以上が受けるクエストのドロップ品すらクラウスが納品してしまったため、消滅した依頼もいくつかあったらしい。
まぁ、具体的にはロックリザードやマンドラゴラ系の依頼なわけで……。
「次からは、受注できる依頼の数に制限が掛かるかもしれませんねー。……誰かさんのせいで」
「す、すんません」
重ね重ねすんません……。
そうして小さくなったクラウスに、追い打ちをかけるようにテリーヌさんが一言。
「はぁ……。というわけで、クラウスさんの実績は十分と認められました。中級試験の資格を認めます」
「へ?」
…………いま、サラっと重要なこと言わなかった?
「
「ギルドは大赤字?」
いや、
「そんなどうでもいい──」
「んだとごらぁああ!」
さ、さささ、さーせん!!
「はぁ…………中級認定試験、受けてもいいってことです」
ペラっと、一枚の紙を差し出される。
そこには一言。
『中級試験資格認定証(Dランク試験)』
「え…………。お、──おぉ!」
おおおおおおおおおおおおおおおお!!
「き、きたーーーーーーーーーーーー!」
これだ!! これが欲しかったんだよ!!
「はー……凄い喜びようですねー。……まぁ普通に冒険者をしていれば、1~2年で認定されるものですからね。
カウンターに顎杖をつきながら興味なさげにいうテリーヌさん。
どことなく「優秀な人」を強調された気もするけど……。
……すんませんね! 優秀じゃなくてぇ!!
「で、どうします? 試験日は3日後ですし、準備が間に合わないなら後日やり直すこともできますけど──」
「やります!!」
やります、やります!
やらないでかッッ!!
「あ、はぁ……。やる気十分ですね? そんなに昇級したかったんですか?」
そりゃそうだろう。
誰が好き好んで下級で甘んじているものか!
「ベテラン下級冒険者の陰口はソロソロ返上したいんですよ! 当然じゃないですか」
「そうですかー。まぁ、そう言うなら登録しておきますね。受験番号は──45番です。3日後、朝一でギルドに集合になります」
おぉ、とんとん拍子に話が進んでいくね!!
「では、当日よろしくお願いします────あと、」
ジャリン♪
「本日の依頼料です──お納めください」
キラキラと輝く金貨と銀貨の山~……。
~ ギルド報酬 ~
『毒消し草の採取』(ノルマ10本)×10枚⇒銀貨100枚
『石化草の採取』(ノルマ5本)×3枚⇒銀貨45枚
『マヒ消し草の採取』(ノルマ5本)×3枚⇒銀貨45枚
『燃える水の採取』(ノルマ
『あぶく水の採取』(ノルマ
『
『
『矢毒ヤドリの採取』(ノルマ5本)×3枚⇒金貨7枚、銀貨50枚
『矢毒キノコの採取』(ノルマ20本)×10枚⇒銀貨400枚
『嘆きの岩苔』(ノルマ3個)×1枚⇒金貨6枚
『頭虫火草』(ノルマ1個)×1枚⇒金貨8枚
『魔光石(特大)の採掘』(ノルマ3個)×5⇒銀貨30枚
『魔光石(極大)の採掘』(ノルマ1個)×3⇒銀貨60枚
『魔光石(大)の採掘』(ノルマ10個)×40⇒銅貨2000枚
小計、金貨21枚、銀貨864枚、銅貨2050枚 なり
以上ッッ!!
ほかに、素材の換金代が〆て金貨59枚、銀貨31枚、銅貨70枚なり。
(内訳はポイズンフロッガーの毒腺が銅貨130枚、
ザトウムシの素材が銀貨4枚、
大鬼ヤンマの素材が銀貨13枚、
沼スライムの素材が銅貨350枚、
蠢く泥炭の素材が金貨1枚、
スワンプグールの素材が銀貨150枚、
走り
鳴きトカゲの素材が銀貨26枚、
蠢く霞の素材が金貨5枚、
レッサーイビルバットの素材が銀貨80枚、
マンドレイクが金貨40枚、
色付き魔石の合計が金貨10枚と銀貨50枚)
全部合わせると────……。
ひーふーみー……。
ちゅーちゅーたこかいな……
「げ……! 金貨89枚、銀貨16枚、銅貨20枚……?!」
「は~い。計算くっそ大変でしたー」
あ、はい。すんません……。
ゲッソリとした顔のテリーヌさん。
そして、手伝いに駆り出されたギルドの職員。
なんかすっごい刺さる視線を感じる。
彼らはみなぐったりとしていた……。
「では、まだ後日──……」
ちなみに、ギルド職員の場合、これで仕事は終わりではない。
クエスト品は依頼主に提出し、書類作業。さらには、素材なんかは問屋に卸して値段交渉。
品質の保持のための処理もまだまだ残っている……。
「あ、あははは……。なんかすんません」
真っ白の燃え尽きているギルド職員を尻目にクラウスはスタコラと退散していった。
カランカラ~ン♪
クラウスの鳴らす軽やかなカウベルの後で、
「お、おね~さまー……」
ボロッ……。
ギルドの裏口から小汚い恰好のティエラが顔を出す。
「あ~ら、ティエラ。遅いお帰りで──」
ジト目で睨むも、ティエラも反論する気にもなれないらしい。
「し、しょうがないじゃないですか!! 今日のアタシの移動距離わかります? わかりますか、おねー様!!」
「たかだか下級の狩場を3個でしょ。腐っても中級なんだから、それくらいでピーピー言ってないで、ギルドマスターに報告してきなさい」
うぅ……。
「お、おねー様、アイツ何者なんですか? もう、なんていうか……」
「それを調査するのが仕事でしょ? さっさと報告報告!」
「あーい……」
涙目になり、ダークエルフの笹耳も心なしかシュンと垂れさがる。
そして、トボトボと────……。
「あ、ティエラ」
「は、はい?」
ニコリ。
「次の中級試験、お手伝いよろしくね!」
「ひぃぃぃいいい!!」
受験者よりも試験官の方が大変と言われる冒険者ギルド昇任試験。
その試験官という栄誉(ほぼ奴隷)ある任務につけと言われたティエラは嬉しさの余り歓喜の声を上げたとかあげなかったとか──。
「いーーーーーーやーーーーーーーーーーーー!!」
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