第45話「中級の狩場」

 ガラガラガラガラガラ……。


「よう、にいちゃん。ついたぜ」


 いつもとは違う乗合馬車。

 冒険者の顔ぶれもほとんど面識がない人ばかりだ。


「ありがとう。帰りも頼むよー」

「おーう。気をつけてなー……。ここは、あんまり人が来ないからよ、俺っチの馬車を逃したら、泊りか歩きになるぜ」


「わかってる。陽の落ちる前には戻るよ」

「分かってるならいいんだ。じゃーなー」


 そういって後ろ手にクラウスを見送る乗合馬車のギルド職員。

 彼は、辺境の町廻りの狩場を回るあの翁・・・ではない。



 ここは別の町────「僻地の町」近傍の狩場だ。

 そして、

 御者の若い男は、その町周辺の狩場を回る乗合馬車の御者だ。

 一見、軽薄そうな雰囲気だが誰にでも気さくに話しかけてくれる──元冒険者だというギルド職員だった。

 コミュ障MAXのクラウスにはありがたい相手だ。



 そう。現在のクラウスは、最近になって新規開拓をはじめた狩場に来ていた。

 その中でも、ここはクラウスが目をつけた割と新しい狩場で──中級以上の冒険者として、転移ゲートが使えるようになって本格的に狩りを始めようとしている場所でもあった。


 その名を『幽玄の清流』という。

 静かな山間を流れる渓流を成す狩場である。


 ちなみに、

 足を運んだのは二回。

 今日で通算、三回目だ。


「……いやー。僻地の町のギルドのお知らせ掲示板にもあったけど、ほんっとにここも無人なんだな」


 この周辺は街の名が示す通り、僻地ということもあり、人の手があまり入っていない地域だ。


 手付かずの自然に、

 雄大な大地と荒々しい山々。


 まさにクラウスにうってつけだ──。


「……さて、誰も見てないよな?」


 キョロキョロと辺りを確認。

 新規狩場で【自動機能オートモード】を使うのだ、慎重にならざるを得ない。


 『気配探知』で確認。


 右よし

 左よし

 空と地面の下にも気配なーし


「よーし、やるぞー!!」


 コキコキと首を鳴らすと、一人気合を入れる。

 そして、いつもの────ウォーミングアップ。


 ──スキル『自動移動』!


 ブゥン……。


 ※ ※


 《移動先を指定してください》


 ●街

 ●フィールド・ダンジョン ←ピコン

 ●その他


 ※ ※


「よ~っし、今日は久しぶりにサクサク狩るぞ!────そして……見せてもらおうか、中級の狩場の稼ぎとやらをッ!!」


 いよいよクラウス、初となる本格的な中級狩場での冒険開始だ!



 ブゥン……。


 ※ ※


 《移動先:幽玄の清流》

  ⇒移動にかかる時間「00:09:30」


 ※ ※


 河原のキレイな狩場で、

 推奨レベルはおおむね中級────。



 さって、狩りますかね。



 ──待っとれい『幽玄の清流』!!



 ……まだ見ぬ、素材に魔物たちよ────!



「とぅ!!」


 シャッ────!



 ※ ※


 いつものように意識がなくなり。

 気が付けば、数回足を運んだ狩場の入り口だった。


「よぉし、今日はやるぞー!」


 勢い込んで狩場に飛び込むクラウス。


 『幽玄の清流』は高山を流れる小流が作る渓谷の総称だ。

 澄んだ水がサラサラと音を立てて流れ、いくつもの支流を作り合流し、清流を形作る。


 そして、豊かな水源を受けて植物ははぐくまれ、竹や柳などの木々をたたえている地形だった。


「よっと! ほっ!……とぉ!」


 そこを、クラウスが軽い足取りで、流れの上にある小さな岩を足場に飛び回っていた。


 軽快に跳ね回って獲物を探す。


 手にしているのは、いつもの黒曜石の短剣だった。

 本当は、もっとグレードの高い短剣を新調したかったが、ここ最近稼ぎが落ち込んでいるので我慢していたのだ。


 だが、使い慣れた黒曜石の短剣も悪くはない。

 なにより、それは研ぎに出したばかりなので新品のような輝きを見せ、陽光に反射する川面の光をさらに反射していた。


 そこに目掛けて、


『ジャァァアアアア!!』


 来たッッ!


 ザッパァァァアアン!!

 川面から顔を出した黒い影が、気味の悪い声を上げて水流を飛ばす。


「アブねッ!」


 サッと身を翻し、一撃を躱すとさらに一撃!


『ジャアアア! ジャァッァアアア!!』


 着地点を狙って、ビュンビュンと水流が飛んでくる。


「──……っと、思ったより怖いな!!」


 綺麗な水面を割って巨大な黒い影が現れるのは中々に迫力がある。

 だが、幸いにも連続攻撃のわりに、一撃一撃の間隙が大きく、躱すのはそう難しいことではない。


「……そこぉッ!」


 なんとか、水流攻撃を凌いだクラウスはサッと懐に飛び込んで短剣で軽く皮膚を傷つける。

(──貰ったぁぁぁあ!)

 その瞬間、ボヨンとした感触を手に感じる。


「うげッ! 気持ちわる──」


 思ったよりもブヨブヨとした体表は、ぬめりに覆われており、短剣ごとき一撃は意に介していないらしい。

 だけど、


「目的は一撃することだ────これでお前も『自動戦闘』で仕留めてやるッ!!」



 ステータスオープン!!

 『自動戦闘』


 ブゥン……。


 ※ ※


 《戦闘対象:ラージサラマン》

  ⇒戦闘にかかる時間「00:02:12」


 ※ ※


 サラマン……。

 サラマンダー?……──オオサンショウウオか!


「よっし! 行ける────」


 一撃しただけで自動戦闘の対象となるのだ。

 これほど、便利なスキルはないだろう。


「1匹相手にしては思ったより時間がかかるけど……」

 相性……?

 いや、

 武器の性能差か……。


 だが、まだやれるはず────!

 


 自動戦闘……発動ッ!



 フッと、いつもと同様に。

 ────…………そして、気付いたときには、


「ゲホッッ……! カハッ」


 荒い息をついてラージサラマンの脳天に短剣を突き刺した状態で意識が戻る。

 やはり、一体とはいえ中級の魔物を相手はまだキツイ。


「だけど、ギルドの資料室で読んだ通りだな……。この辺の魔物は縄張り意識が強いので、ほとんど群れを形成しない」 


 これがためにこの狩場を選んだクラウス。

 下級の魔物ならともかく、中級以上にはまだまだ苦戦すると予想していた通り、一体でも2分以上戦闘時間がかかるのだ。これが複数となればその数字は跳ね上がるだろう。


 だが狩れる────。


 同じように、しっかりと下調べをして行けば中級の狩場でもクラウスは戦える!


「よーし! まだまだ狩るぞぉぉおお!」




 この日クラウスは乗合馬車が迎えに来る時間までひたすら狩り続けるのだった。



 ※ 本日の成果 ※


 ~ドロップ品(討伐証明)~


 ラージサラマンの舌×5

 グレーターニュートの尻尾×10

 走りトラウト×尾びれ×3



 ~ドロップ品(素材)~ 


 ラージサラマンの肉×3

 グレーターニュートの皮×10

 走りトラウトの胆嚢×3

 走りトラウトの×身3



 ~ドロップ品(魔石)~


 魔石(中)×4⇒使用済み

 青の魔石(中)×2

 緑の魔石(中)×1



 ~採取品(草木類・鉱石類)~


 清流の若竹×5

 よくしなる柳の枝×23

 綺麗な岩苔×14

 ガーネット原石×12



 ……以上!!

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