第55話「ゲインの戦い」
「こんなところで何やってやがる!! ゲぃぃぃイイイイイン!」
クラウスの叫びがこだますとき、
ゲインの野郎はわざわざ超低空を飛んでいったかと思うと、急旋回をかけてニヤリと笑って見せる。
それだけのために最接近し、再び上昇────。
「はっはっは! 決まってるじゃないかッッ!」
さっ! と、手を振り、航過しざまにドラゴン?の周囲にクランメンバーをばらまいていく。
「──コイツは……。──このアークワイバーンは、おれ達の獲物だ!!」
「は、はぁぁあ?!」
(……獲物だぁ?! 何言ってやがる──)
ひゅるるるるるるる…………!!
ズタンッッ!
クラウスの疑問に答える暇もなく、ゲイン達は怪鳥を急降下させると、地表スレスレで空中で急制動を掛けながら『特別な絆』の面々が降り立っていく。
「グレン・ボグホーズ! 参上!」
「チェイルさんだよぉ!!」
「ミカ・キサラギ────」
スタン!
スタタタタタタタン!!
「レイン以下20名──降下完了」
「同じく、アベル・カーマイン以下20名、異常なし」
扇状にズラリと並ぶメンバーたち。
ユニークスキル持ちを先頭に、背後にレインとアベル 率いる高Lvのメンバーとレアスキル持ちが居並ぶと中々に圧巻だ。
しかも、それぞれが格好つけつつ、己の得物をクルクル回したりしつつ、意味のないポーズを取っている。
……町がこんな惨状にありながら──。
最後に、
ゲインが「とぅ!」と掛け声を変えつつガルドを降り立つと、回転しながら着地し、半身に変えてポーズを取る。
うまい具合に『特別な絆』のメンバーがずらりと並ぶそのど真ん中に着地。
「呼ばれて登場! 世紀に最強パーティが……一つ!! 『特別な絆』見・参・ッ・ッ」
どからともなく、ジャーン! とか、効果音が聞こえてきそうな気がする。
……っていうかこの期に及んで経験値だとか、獲物だとかマジかこいつら?
しーん…………。
「お、おにいちゃん……この人たち──誰?」
めっちゃ不審者を見る目のリズ。
うん、その眼は正しい────。
「あ」「あ」「あー……お前らー」
そして、今の今まで手をつなぎっぱなしだったことに気付いて、クラウスとリズは顔を赤らめて、パッと解くと、メリムの茶化しが入る。
「………………た、ただの大道芸人だ」
ズルゥ!
「誰が大道芸人だ!!」
いや、お前らだよ……。
目立つの大好き、
派手なことが大好き、
「……あ、大道芸人だね」
「だろ!」
納得のリズと、「ウンウン」と頷くメリムと────シャーロット。
「誰・が・大・道・芸・人・だ!」
っていうか!!
「シャーロット! お前はこっち側だろ──戻ってこい!!」
「えー…………」
なぜか、クラウスの腰にしがみついて嫌々をアピールするシャーロット。
先日以来やたらと懐かれているが悪い気はしない。
……リズちゃんの目が怖いけどね!!
「は・や・く!」
「はーい…………」
もっともなツッコミに渋々頷くシャーロット。
トボトボ『特別な絆』の輪の中に戻っていく姿を見てちょっと同情。
「まったく──……はやく輪に入れ! ポージングが決まらんだろうが」
ポージングって、お前──。
確かに、ユニークスキルメンバーの一角にシャーロットが入れそうな隙間がある。
渋々そこに加わったシャーロットが、「にゃーん。シャーロットだよぉ」とかいって、猫のポーズで隙間を埋める。
…………『特別な絆』完全メンバー勢ぞろい!!
ばばーん。
「…………あははは。ダサッ」
真面目くさって格好をつけてるメンバーはまだいいけど、
堅物のレインさんなんか、顔まっかやぞ?
あれ、絶対嫌がってるよね?!
そーいうのパワハラとかセクハラ言うんやで?!
知ってる? ゲインさんよー!!
「あそこって、お兄ちゃんが前にいたクランじゃ──」
「あー……うん。今日ほど抜けて正解だと思った日はないわ」
あそこに加入したままだったら、クラウスもあそこにいたんだろうか……。
「ばーん! オートモードのクラウス、爆誕!」
(…………うん。これはないな!)
ニコォ!
「おい、クラウス!! なんで、微妙な顔して笑ってんだ!!」
「いやー。ちょっと、ワークライフバランスについて真剣に考えてて──」
ゲインのツッコミにも、ニヨニヨ笑って返すしかできないクラウス。
「ち! この輪に入れなくてがっかりしているんだろうが──あいにくだったな!!」
「いや、その輪はちょっと────……。切実に今を楽しんでます。はい、割とマジに」
そのやり取りがすでに漫才だとか芸人のそれなのだが、ゲインは気づいていない。
それどころか……。
「はは! 負け惜しみを────」
『ギィィィェッェエエエエエエエエエエエエンン』
「おっと、君を忘れていたね」
その時、
まるで無視するなと言わんばかりにアークワイバーンが咆哮を上げる。
「まったく、ヒーローの登場シーンを邪魔するとは、所詮は獣か」
ワザとらしく肩をすくめるゲイン。
獲物だとか言っておいて、忘れて他も何もないものだが──。
まぁ、余裕を作為しているのだろう。
ゲインは頭をガシガシと掻きながら言った。
「よくもまぁ、こんなところまで逃げてきたもんだ────おかげで、とんだ大取物だよ」
『ギャァオォォォオオオオオオオ!!』
はぁ、やれやれ、とため息をつくゲインにいら立ったのか、アークワイバーンが再び咆哮する。
そして、
キィィィィイイイイイイン!
また、ブレス発射の兆候が両の口に集まり始める。
あの──厄災のごときブレスが……。
「フフフ、登場シーンを待つこともできないらしいな。馬鹿の一つ覚えのブレスかい────?」
ブレス発射直前にも限らずゲインは余裕綽々だ。
くっくっく……!
「見せてやろうかッ────ユニークスキル保持者の戦いというものを!!」
「「「おう!!」」」
『特別な絆』の高Lv筆頭のレインが剣を手に一歩前にでる。
そして、ゲイン率いるユニークスキル保持者たちが、得物を携え、スキル発動の構えを取る。
「──……調教の時間のようだ。ユニークスキルー……行くぞっっ!」
「「「おう!」」」
「行くぞッ!!」
「「「おう!!」」」
「「「「おぉう!!」」」」
気合十分。
厄災の目と言われるアークワイバーンと、
ユニークスキル保持者と高Lv冒険者たちの戦いが始まった。
そして、激闘が辺境の町の一角を燃やし尽くしたとき。
『特別な絆』のメンバーを中核とした戦いのバランスは、ゲイン達へと傾きつつあった。
「よし! フォーメーション! 切り替えッッ」
「へっへー! いくぜぇぇええ! スキル『原子分解』」
『ギィェェェェエエエエエン!!』
ボサァァ……! と、細かな粒子状となって消えていくアークワイバーンの皮膜。
すでに、何発ものグレンの攻撃を食らっていたアークワイバーンの空を舞うための皮膜は穴だらけになりつつある。
「よし! 空を飛ぶ手段はもう使えないッ!! 一気に追い込むぞっ!────『
ゲインのユニークスキル【時空操作】の『
ピクリともしないアークワイバーンを見て、レインたち、高Lv組が大剣を手に、手足を狙う。
「はは! いいぞ! 押しているぞっ!」
ゲインの高笑いとともに、確かにアークワイバーンがその黒い体を鮮血に染めていく。
レインたちの剣劇が滅茶苦茶にアークワイバーンを刻んだかと思うと、その血煙の中から手足をズタズタに切り刻まれた姿が現れる。
「いける……!」
「いけるぞ!!」
「俺たちが──『特別な絆』が超上級の魔物を押しているんだ!」
ゲイン達の喜色が声をなって零れ落ちる。
未だ『特別な絆』側に脱落者はおらず、その一方でアークワイバーンが次々に傷を負い、傍目にも防戦一方であった。
「ゲインのやつ…………。言うだけのことはあるな」
クラウスは、傷だらけになった体を、家から引っ張り出した椅子に落ち着けると、リズの治療を受けながら唸るように言った。
腕がひどく痛んだが、見れば骨にひびが入るほどのケガを負っていたらしい。
どうやら、アークワイバーンの最初の一撃を受け止めたときの負傷だろう。
今の今まで気づかなかったのはアドレナリンのおかげだろうか?
「もう、……無茶ばっかりしてぇ、馬鹿なんだから!」
目に涙を湛えたリズが、心配させたお返しだ! とばかりに包帯をギュギュー! と絞った。
「いだだだだ! む、無茶するなよ!」
「しらないッ!」
プイッとそっぽを向いてしまったリズの頭を、治療が終わったばかりの手でポンポンと撫でてやる。
「大丈夫……。俺は死なないよ────何があってもリズのもとに帰ってくるし、今までだって帰ってきただろ?」
【自動機能】の『自動帰還』の帰る先は「クラウスの家」──……すなわちリズの元だ。
「ばか……」
コツンと、額を肩に押し付けられる感触を確かめつつ、クラウスはゲイン達の戦いを見るともなしに見ることになってしまった。
別に観戦するつもりで残ったわけではないのだが、避難勧告を出す間もなく、街は大きな被害を受け、今もまさにアークワイバーンと『特別な絆』の戦闘によって誰も近づけない有様だ。
それは去る者も同じ。
下手に動こうものなら、アークワイバーン、『特別な絆』双方からの流れ矢に晒されそうなのだ。
それくらいならジッとしている方がいい。
幸いにも────。
「うわ! なんか来る──!」
「おっけー!!」
メリムの声にクラウスが反応し、破片を叩き落す。
さっきからこのコンビネーションで、危機を凌いでいる。
メリムの【直感】と、クラウスの迎撃。
アークワイバーンは倒せなくても、自衛だけなら何とかなる────。
何とかなる、と思っていた。
(それにしても、強い…………)
戦闘が開始されてからどれほどの時間が経っているのだろうか?
防戦一方に見えるアークワイバーンも、どうやらまだまだ致命傷は負っていない。一見して、押しているように見える『特別な絆』も決め手に欠いているようにも見えた。
だから、どちらも強い────……。
規格外の強さを誇るアークワイバーンと、
常識外れの強さを見せる『特別な絆』。
だが、一体で何十人もの人間を相手にしているアークワイバーンに対して、素晴らしい連携見せる『特別な絆』であったが、それはすなわち────……。
『ギィェェェェェエエエエエエエエエン!!』
唐突。
そう、まさに唐突としか言えないことが起こる。
「な?!」
「く……でけぇ声出しやがって────」
羽を破り、
手足をズタズタにして、いよいよ腹部と頭部を攻略しようとしていた矢先のことであった。
大声を張り上げたアークワイバーンに『特別な絆』が一瞬だけ動揺する。
そして、アークワイバーンはそのすきを見逃さななった。
いや、初めからこの瞬間を狙っていたのかもしれない。
「ひるむなッ! ただの断末魔の叫び────」
「違うッ! 逃げて、ゲイン!」
バッと身を挺してゲインとアークワイバーンの間に割って入ったミカ・キサラギ。
その体が────。
「げふっ…………」
ポタタタ……と、血が滴る音が響く。
けれども──。
「いたたた……! み、ミカ、貴様ぁぁ──戦闘中にふざけるなど………………え?」
ミカに突き飛ばされ、しこたま腰を強打したゲインが怒りの声を上げる。
だがその目の前には──。
「み、ミカ…………?」
ボタッ……。
ボタッ……。
ボタッ……。
「ミ──────…………」
ゲインの目の前に、なにか真っ赤なものが────ドサリと。
「え? う、うそだ、ろ? なんで、……なんで────ボロボロだったアークワイバーンに……」
何で、腕が、
何で、羽が、
何で、頭が、
何で、何で、
「何で、また、新しく生えてんだよぉぉぉぉおおおおお!!」
『『『ギェェェッェェェェッェェエエエエエエンン』』』
ゲインの絶叫が響き渡った時、
アークワイバーンの
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