第14話「自動戦闘」

 スケルトンナイト。

 ダンジョン化した墓所の守り手として、深部に棲息するアンデッドモンスターだ。


 主に中級以上のダンジョンにいる中級クラスの魔物で、装備する得物によってその強さが激しく分かれる──。


「──のよ!」

「解説ありがとう!!」


 怒鳴るクラウスにビクリと震える少女は、それでも気丈にクラウスを睨むと、口から泡を飛ばして罵り始めた。


「ちょっと、アンタ! こんな美少女に向かって幽霊だの化け物だのはないんじゃない?!」

「は、今そんなこと言ってる場合かよ! つーか、自分で美少女とか言うなッ!」


 見た目は十代前半化そこら。

 リズと同じくらいだろうか?


 銀に輝く髪に、紅い勝気な瞳。

 そして、体の線が浮き出るようなぴっちりとした皮のスーツ。


 ……チッパイなので、凄いスリム。


 ごん!


「いっだ!──いいいっだぁぁあ!!」


 チッこいくせに凄い攻撃力。


「今、いやらしい目線で見てたでしょ!」

「見てねぇわ! 見るほどねぇだろうが!!」


 ごん!


「いっだ!! いっだぁぁぁああああ!! 今殴る? ここで殴る?」

「うっさい! 失礼なこと言うからでしょ」


 この子、何?

 ピコピコ笹耳を動かして────……薄闇に溶け込みそうな褐色の肌。


 あ、

「ダークエルフ?!」

「ティエラよ!! 種族で呼ぶなバーカ!」


 いや、そんなこと言われても初対面の人の名前なんて知るかよ────って、喋ってる場合じゃねーーー!


「カカカカカカカカカ!」


 まるで無視するなと言わんばかりに、スケルトンナイトが剣を振り上げる!


「ちぃ! 行き止まりだなんて──」

「は? 知ってて連れてきたんじゃないのかよ?」


 違うわよッ!


 そう叫んで、ティアラが背中から二刀を抜き出し目の前でクロスするとスケルトンナイトの一撃を受け止める。


 ブゥン!

 恐ろしい勢いで振りぬかれるいかめしい剣!


 ──ギィン!!


「うぐ……! コイツぅぅ……。並みのスケルトンナイトじゃないのよ……!」


 ギギギギギギ……。

 火花の散る剣と刀。


「コカカカカカカッ!」

「な、並のスケルトンナイトなら、中級のアタシが押し負けるはずが───……く、強いッ」


 まるで、ただのスケルトンナイトなら倒せると言わんばかりのティエラ。

 だが、今の彼女はスケルトンナイトに押し込まれ強がりを言っているようにしか見えない。


 ちょ、

「ちょ……大丈夫かよ?!」


 大丈夫じゃないんだろうけど──。


「こ、ここは任せて逃げなさい……」

「いや、逃げろもなにも、お前が連れてきたんじゃん」


「イイから早くッ!」


 あ、はい……。

 言われるままに、そーっと、スケルトンナイトの脇をすり抜けていくクラウス。


「コカぁぁあ!」


 グルッ!?


「ひぇ?!」


 ソロソロと逃げ出そうとするクラウスを見とがめると、グルリと首を捻じ曲げて睨むスケルトンナイト。

 ティエラとつばぜり合いを続けているため、クラウスを構う余裕はなさそうだが、その空っぽの眼窩が「テメェ、逃げんじゃねぇぞ」と言っているかのようだ。


「早くッッ!」

「わ、わかったよ──」


 初めて会った少女に罵倒されながらクラウスは脇をすり抜け少女たちがやって来た方へと走り抜けていった。

 その背後では、苦しそうな吐息とともに、剣を弾き、剣戟を繰り広げる音が聞こえてくる。


 キンキンッ! ギィィィイン!!


 軽い音、重い音────次第に重い剣戟の音ばかりが響いてくる。


 だけど、クラウスには関係のないこと──……。


「俺に何ができるってんだよ……!」


 下級冒険者でしかないクラウスに、スケルトンナイトが倒せるはずが──……。

 ここは中級だという彼女に任せた方が、


「────って、そんなカッコ悪い真似ができるかよ!!」


 女の子一人に任せて、オメオメと逃げ帰って────どの面下げてリズに「ただいま」って言うつもりだ?!



「ち……!」



 すぐに取って返したクラウスは、

 二刀を使って何とか凌いでいるティエラに、容赦ない攻撃を繰り広げているスケルトンナイトに襲い掛かった。


「おい、骨野郎!?」

「コカッ?!」


 グルん!! とすぐに振り向いたスケルトンナイト。その何も移さない表情に一瞬怯えるも、クラウスは掛け声とともに切りかかる。


「お前の相手は俺だぁぁぁ!!」


 ビュン! と風を切る黒曜石の短剣がスケルトンナイトの首を狙う!


 ガァン!!

 しかし、その一撃はスケルトンナイトの古臭い盾によって防がれてしまった。


「うぉ! コイツ──?!」


 ティエラを剣で捌きつつ、さらにクラウスを盾で相手にしてまだ余裕を感じさせるとか──!!


「ばか! 何で逃げなかったの?!」

「女の子には優しくしろ────って、義妹に常日頃から言われてるんでね、ってうわ!」


 食っちゃべっている間に、スケルトンナイト二正面同時攻撃。

 剣はティエラを、そして、クラウスには、


「コカカカカカっ!!」


 どがぁぁあ!!


「ぐぁッッ!」


 強烈なシールドバッシュを食らい、壁に叩きつけられるクラウス。

 その一撃で、あばらでも折れたのか激痛が走り、吐血する。


「か、かは……」


 い、息ができない……。


「な、なんてこと! ちょっと、大丈夫!?」

 大丈夫なわけあるか……。


 くそ、これが中級の魔物の本当の強さか……。


 先日、同様に中級の魔物であるロックリザードを倒せたのは本当に僥倖でしかなかったらしい。

 まさか、これほど実力に差があるとは────……。


「だ、だけど……!」


 だけど、まだ終わらない。

 クラウスには奥の手がある!!


「く……! 動けるなら逃げなさい! 今度はアタシが絶対に抑え込むから──」


 無理だっての……。

 どこの誰だか知らないけど、ティエラだって傷だらけじゃないか。それで、逃げろとは片腹痛いぜ……。


「言われなくても……!」


 逃げるってのはさ、ティエラの手を借りるまでもないんだよ。


 そう。

(──俺にはこれがある……!!)



 ブゥン……!


 ※ ※ ※


スキル【自動機能オートモード


能力:SPを使用することで、自動的に行動する。


ピコン⇒Lv1

    自動帰還は、ダンジョン、フィールドから必ず自動的に帰還できる。

    Lv2

    自動移動は、ダンジョン、フィールド、街などの一度行った場所まで必ず自動的に移動できる。

    Lv3

    自動資源採取は、一度採取した資源を、必ず自動的に採取できる。

    Lv4

    自動戦闘は、一度戦った相手と戦闘し、必ず自動的に戦闘できる。


 ※ ※ ※


「へッ……。かつて、有名パーティやギルド、そして騎士団のスカウトさんたちには外れスキルなんて言われてたけど、こんな使い方もあるんだよ──」


 クールタイムは終わっている。

 いつでも発動可能……!!



 ──スキル『自動帰還』!



 そう。

 自動帰還についている特殊な効果──。

 『自動帰還』は、ダンジョン、フィールドから「必ず」自動的に帰還できる。


 そうとも────『必ず・・』自動的に帰還できるんだ!!


「ピンチの時はこうやればよかったんだよなー……ゲホゲホッ」

「いいから、はや、く……もう──もたないわ」


 ぐ。

 言われるまでも、ないッ。



 ブゥン……。


 ※ ※


 《帰還先:クラウスの家》

  ⇒帰還にかかる時間「06:45:33」


 ※ ※



「──はつどぅ………ッ」






 そして、家に────……。

 リズが待っているあの家に!



   お兄ちゃん……!



「……く」



   お兄ちゃんッッ!!



 で、できるわけねぇ…………。

 できるわけねぇだろ!!


「できねぇよ!!」

 一人で、オメオメ逃げかえれるわけねぇだろ!!


「すまんリズ────……夕飯には間に合いそうもない、」


 だけど、

 それでも、


「胸を張って『ただいま』って言いたいんだ! 俺は────」

「ば、バカッ!? に、逃げな」


 いやだ!

 逃げるもんかッッッ!!



「こうなったら出たとこ勝負だ!!」


 そうとも、ぶっつけ本番ッッ!!



「──────【自動機能オートモード】起動ッッ」


 ステータスオープン!!

 ──スキル『自動戦闘』!


 ブゥン……。


 ※ ※


 《戦闘対象:スケルトンジェネラル》

  ⇒戦闘にかかる時間「00:13:21」


 ※ ※


 おいおい、スケルトンナイトなんかじゃねぇぞコイツ?

 なんだジェネラルって。じょ、上級モンスターじゃねぇか!!


 いや、

 ──まぁいいや。


 今、大事なことは……。


「はは……。少なくとも13分は戦えるんだ? 下級冒険者の俺が──」


 す、スケルトンジェネラル上級モンスター相手に!


 ならば、やってみせろ、

 ──スキル『自動戦闘』!


「何をするつもり! 早く。早く──」

「うるさい!」


 俺が相手だ骨野郎ッ!


「早く、逃げなさいッッ!」


 そのティエラの悲痛な声を最後に、クラウスの意識は飛ぶ。

 気絶でも、ましてや逃げたわけでもない。


 戦うために、




 自動で……。

 一度戦った相手と戦闘し、必ず自動的に戦闘するために!!




「自動戦闘、発動ッッ」





 フッと、いつもと同様に意識が飛ぶ────…………そして、

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