第13話「霊光石」
ビュ──!
粘液のついた黒曜石の短剣を血振りすると、歯にこびりついていたケイブスパイダーの粘液が振り払われる。
油のつきにくい黒曜石の短剣はこういったときに扱いやすくていい。
「さて、近隣のモンスターは殲滅したし、そろそろ試してみるか」
念のため、気配探知を使うも、周辺数十メートルにはモンスターの気配はない。
隠れていても、下級のモンスター程度なら「気配探知Lv3」で見落とすことはない。
もし見落としたなら、よほどの強敵か強者だろう。
だが、ここは安心安全の下級ダンジョン。
「よーし、右よし、左よし、全部よーし!」
というわけで、
ブゥン……。
※ ※
《採取資源:霊光石》
⇒採取にかかる時間「00:33:10」
※ ※
多分、取れる質は悪いだろうけど、ないよりはいい。
さぁ、こい!
霊光石────。
「………………──発動ッ」
フッと、いつもの【自動機能】を使ったとき同様に意識が飛ぶ────…………。
そして、気付いたときには、手に握りしめられた淡い光を放つ鉱石と……。
「え………………………?」
そこは見慣れた夕闇鉱山の岩壁などではなかった。
薄気味悪い穴の沢山開いた暗闇の中……。
ど、どこだここ?
ようやく、周囲を窺う余裕ができた時。
いつものように、意識が戻ったクラウスは手に淡く光る鉱石を握りしめていた。
それもこぶし大とかなり大きなものだ。恐らくそれが霊光石なのだろうが──。
だが、
今それは重要ではない……そんなことよりも──。
「ひぃ!!?」
気付いたときには、悲鳴が口から洩れていた。
だ、だって────……。
「じ、人骨?! うわッ!!」
パキパキ! と何かを踏みしめる音。
さらに音に驚き飛び上がれば、手に持つ霊光石の光に揺れる周囲に空間。
そして、淡い光に照らし出されたのはびっしりと空間を埋め尽くしている白骨の山だった。
「ひぇぇぇえ! ちょ、ちょっと!? ど、どこだよここは────!!」
慌てて脱出しようとしたクラウスだが、どこから来たのか判然としない。
それどころか、ここはドン詰まり通路の行き止まりのような場所であった。
「う……。や、やべぇ……! もしかしてなんか変な場所を掘りぬいたのか──?」
古い鉱山には、古代のドワーフの隠れ墓所があるなんて聞いたことあるけど、……まさか、『夕闇鉱山』に?!
足元に散らばる人骨は相当に古く、小柄な体格のものばかり。
一見すれば子供の骨のようだが……。
これって、
「や、やっぱり──ど、ドワーフの墓所なの、か?」
ボロボロに風化した意匠はどことなく、街のドワーフが好んできているそれに近い気がする。
なにより、小柄ながらがっしりとした骨格の骨が多数だ。
いや、じっくり骨を観察してる場合じゃない。
ここはなんかマズいぞ!
「……くそ!」
どうも、変な場所に迷い込んでしまったらしい。
『自動資源採取』は忠実に霊光石を採掘してくれたのはいいが、まさか隠された墓所をぶち抜いて内部にまではいってくれるとは……。
本当に自動機能はこういったところが危険極まりない。
だが、幸いというかなんというか、踏み荒らした骨の後がクラウスが進んできた道を示してくれていた。
そうだ。まずは落ち着け。
閉じ込められたわけじゃない……。
「で、出口はある──。落ち着いてゆっくり戻ろう。入ってきたんだから当然出口はあるはずなんだ」
せかっくなので入手した霊光石は鞄にしまい込み、代わりに明かり代わりの魔光石(特大)を取り出す。
「……ダンジョン化した墓所だったらスケルトンに囲まれているところだな──おっかねぇ……」
どうやら、風化した骨が散らばるのみで、アンデッドの類ではなさそうだ。
それでも十分不気味な空間ではあったが……。
しーーーーーーーーーーん。
静まり返った不気味な墓所をクラウスがゆっくりと歩いていく。
パキリパキリと骨を踏みしめる音だけが深々と墓所に染みわたっていく。
耳を澄ませば何者かの息遣いが聞こえそうな気がするが、ここはクラウス以外は死に絶えた死者の世界……。
「こ。こえぇぇ……」
不安定に揺れる魔光石の明かりが不気味な陰影を作り、不意に何かが飛び出してきそうで気が気ではない。
自動機能で無意識化で動いているクラウスは、ここを一人で来たというのだろうか……。
「端から見てたら相当いかれてるな──」
自分で言うのもなんだが、不用心かつ蛮勇もいいところだ。
「と、とりあえず、今のところ危険はなさそうだけど、慎重に行こう。何が潜んでいるか──」
そうして、ゆっくり進み始めてクラウスだが、
「きゃーーーーーー!!」
「うぉわ?!」
突如響き渡った悲鳴に飛び上がるほど驚かされることになった。
※ ※
きゃーーーーーーーーーー!!
絹を裂くような女性の悲鳴。
まるでバンシーの声だ!!
「ぎゃあ!!」
思わず漏れるのはクラウスの野太い悲鳴。
で、でででででで、でたーーーーーー!!
通路内に響き渡った女の悲鳴にクラウスは思わず首をすくめる。
そりゃ、突然自分以外の声が木霊せば誰だって驚くだろ?!
しかも、夕闇鉱山はクラウス以外には誰もいないはず────その上、隠された?通路の中だぞ。
だが、果たして、
「きゃああああああ! 誰かぁああああ!!」
パキバキパキキキキ!!
と、激しく骨を踏み荒らしながら曲がり通路の端から少女が飛び出してきた。
「う、うぉぉわっぁああ!! 女の子の霊だーーーー!!」
物凄い勢いで走り込んできた少女に驚いてクラウスはわき目もふらず逃げ出す。
「ちょ、ちょっと! アンタ! 誰が幽霊よ────って、ああああああ、きたーーーーー!!」
ガッシャガッシャ!!
激しい足音を立てるものがもう一人。
だけど、それを確認する間もなく、クラウスは少女から逃げようと狭い通路を右往左往。
「た、たたた、たすけて! ごめんなさい! あげます! なんでもあげますからぁぁあ!」
「ちょ、ちょっと落ちついて! って、あああダメ、落ち着いてらんないんだったわ!!」
ガッシャガッシャ!!
「コカカカカカカカカカカカカカカ!!」
少女に続いて通路から飛び出してきたのは、鎧を身に着けた白骨死体────……。
「ぎゃあああああああ!! 骸骨!? 骸骨ぅぅぅ?!
ひ、人の骸骨が動いとるぅぅぅうう!
ケタケタと笑う人骨が、武装して通路から飛び出してきたのだ!
これでビビらないやつがいたら、逆に凄いわ!!
って、落ち着け!!
ただのアンデッドだ────ダンジョン化した墓所にはよくいる……。
「す、スケルトン?!」
「違うわよ!! スケルトンナイトよ!!」
正解を教えた後、クラウスと少女はさっきの通路の端に追い詰められてしまった。
す、スケルトンナイト?
スケルトンナイトって、たしか──……。
「は、はぁ?! それって中級モンスターじゃ……」
「コカカカカカカカカカ!!」
ひぇぇえええ!!
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