第26話「昇級試験」
「ふぁぁあ……やべ、緊張して眠れなかったのに、今になって眠くなってきた」
眼をしょぼしょぼさせながらクラウスはギルド前に待機していた。
普段よりも早い時間のためか町の通りの人影はまばらだ。
「だけど、こいつ等は俺と同じ気分だったみたいだなー」
ざわざわ
ざわざわ
まだまだ眠気の漂う町とは打って変わって、ギルド前には複数の男女がそわそわとしている。
剣士、盗賊、魔術師、僧侶、拳闘士──……まぁ色々だ。
ただ、明らかに
「──これ、ほとんど今日の受験者かー」
落ち着かないのか仲間内でボソボソと話しているかと思えば、ライバルにガンを飛ばしてバチバチと──。
そして、クラウスも今……なぜか
「……おい、お前」
「はー……もう少しゆっくりしていけばよかったかなー。でも遅刻したくないし」
「お前!……おい!」
「そうだ。今のうちの装備品のチェックをしておこう」
「こら、聞けよッ!!」
ガツッ!
「あだッ! な、なんだよ! 気付かないふりしてんだから、空気読めや!」
「なんだとッ!」
チビっ子のくせにすげー好戦的。
「なんだお前は? こんな時に、こんなとこでもめ事を起こす気か?!」
せっかく無視していたのに、
「お前が無視するからだろ!!」
理不尽……。
「……はいはい。ごめんごめん。可愛い可愛い──じゃあね」
こんな奴に構っていられない。
必殺『
「うん。わかればいいんだ────って、おおい!」
ガシィ!
ち……ダメか。
「ちょ! しがみつくなしッ!! イタイイタイ! 足痛い」
「だー! 隙あらば逃げようとすんじゃねー!」
あーもう。
なんなんだよ、コイツ……。
「わかったから、なんだ。要件を言え、要件を──」
少年??は、体をすっぽりと覆う安い生地でできたローブに、バンダナのようなものを頭にグルグルと巻いている。
ちょっと小汚い感じもするけど、申し訳程度にローブから出ている杖は霊光石付きの
「おまえー。感謝しろー、僕の仲間にしてやる!! 今日の中級の試験限定だがな!」
あっはっは! と、ふんぞり返って笑うガキをしばらく見た後──……。
「…………そーゆーの間に合ってるから」
「うんうん。よしよし! 僕の名は────って!」
ちょぉぉぉおおお!
ガバチョ!!
「だー!! もう、しがみつくな!!」
なんなの?!
なに? 馬鹿なの? 死ぬの?!
「うるさい! 無視していこうとするなぁ!」
いや、無視するよね?
普通でしょ?
ほら、他の人みんな目をそらしてるよ?!
「聞けよぉ!」
「さっきからなんなんだよ──友達はよそで探せ、よそで!」
「友達じゃない! 仲間だ! 仲間にしてやるって言ってるの!」
「いらねーよぉ!!」
仲間とか、そーいうのは間に合ってます!!
だからぁ……もぉ──。
「はーい! 皆さん、お待たせしました。これより受付を開始しますので、試験代金の銀貨10枚を用意してお待ちくださ~い」
朗らかな顔をしたテリーヌが手を叩きながら全員の注目を集めている。
朝日の下の彼女はキラキラと輝いており、何人か野郎冒険者がポーっと見とれている。
まぁ…………美人っちゃ美人なんだけどね。
「はぁ? 馬鹿なこと言わないでください。
馬鹿みたいな塩漬け依頼もあるのに、
一日やそこらで終わるわけないじゃないですか。
馬鹿ですか?」
と、先日の彼女のやり取りが頭にフラッシュバックする。
うん……。
あの人の
「はーい、そこの間抜け面した、
びくぅ?!
何人かの冒険者がテリーヌの口調を聞いてギョッとしている。
そして、
「いやいやまさかテリーヌさんが……」と、言いつつ首を振ってしまった。
(うん……。騙されてるよ君ら。
な~にが「某クラウスさん」やねん……。
………………って、をーい!!
つーか、某クラウスってなんだよ!
それ、『某』つける意味ないから!!
「ったく……。年増のくせに」
そう、あれがテリーヌの素の姿。
いつも猫を被って────いだだだだだ!
「テリーヌさん、顔! 顔つかまないで……!」
「ハヨ、ナラベっ──ツッテンダロ、ゴラぁ」
いだだだだだ!
顔が、顔が潰れるっ!
表情に黒い影を差したまま、笑顔でクラウスの顔面をアイアンクローしつつ、無理やり列に押し込むテリーヌ。
「うふふふ。元々
「ぶっ殺すぞ! クソあまぁ!!」
誰の顔が、潰れた顔じゃ!!
「あ゛あ゛ん?! 誰がクソアマやて?!」
いだだだだだ!
ごめんなさい、ごめんなさい!!
メリメリメリぃぃい!
一斉に目をそらす冒険者たち。
さっきのガキですら口笛を吹いてよそ見してやがる……!
「ゴラぁ、失礼なこと考えてないでさっさと並べや」ポイす。
は、はーーーい!
すでに、早出の冒険者たちはソロやパーティで固まって列を作っていた。
そして、結構な大金である銀貨10枚を何とか工面して払っている。
「はーい。潰れた顔の某クラウスさん。銀貨10枚。耳を揃えて秒で払え」
ちょっパヤでな!!
「わかりましたから、わかりましたよ!」
もう、なんなの?!
(……俺なんかしたぁ?!)
何でか知らんが、先日からクラウスに対するアタリが強い。
「何でだと思う?」
「心読まないでください──はい、受験料」
「(チッ)はい、確かに……。──私らがサービス残業して処理を終えたクエストから換金した10枚、確かに受け取りました」
うわ。
舌打ちしやがったよコイツ。
「いや、そんなこと言われても……」
ジロッ!
「すんません……」
おれ、仕事しただけやん……。
残業
「はい。記入終わりました。では
「はい……。
いちいち聞かないでよ。
「あ! なら!! く、クラウス、クラウスー。ぼ、僕が仲間────……あぅちッ」
何もないところでズデ~ン!! と転ぶ、さっきのクソガキ。
ジャラジャラジャラジャラ……! ジャリ~ン♪
「おいおい、大丈夫か?」
「いててて……あ! お金ッ」
さっきから、やたらと付きまとうガキが仲間とか抜かしながら列に割って入り、テリーヌの前で小銭をぶちまける。
ワタワタと搔き集めるメリムを手伝ってやると、
「あーあーあー……。銅貨ばっかじゃん」
「あららー。この意地悪なお兄さんに邪魔されたんですねー。いいですよ、私と
え? 今の俺が悪いの?
「エエから、さっさとギルドの二階にあがっとけ、オリエンテーションはじめっからよー」
「あ、はい」
さーせん……。
ワタワタと小銭を集めているガキを置いて渋々ギルド二階の会議室に集合するクラウス。
中はすでに冒険者で埋まっており、空いている席に着いたクラウス。
(やっぱ、みんな若いよなー)
クラウスも若いと言えば若いのだが、ここに集まっている少年少女とは一回り程年を食っている。
まぁ、中にはオッサンやおばさんもいるのだが、彼らは冒険者後発組で兼業の人たちだろう。
普通は、ここにいる大半のように、専業冒険者は15歳で冒険者になり、さっさと中級並の経験を積んだものが大半なのだ。
下級であるE~D級など、普通はすぐに卒業するもの。
卒業できない連中はとっくに冒険者に見切りをつけているか、どこかでゴブリンかオークの苗床になっているはずだ。
それでも────。
それでも、
ようやくここまで来た……!
……ついに、
(ついに、中級冒険者への道が開かれたんだ……)
そう実感すると、試験待ちの冒険者たちに交じり、一人こぶしを強く握り締める。
3年も下級冒険者を続け、「ベテラン下級冒険者」と呼ばれながらも、誰も潜らないような下級の狩場で細々と……。
転機が訪れたのは【
『自動資源採取』が使えるようになって初めて、クラウスは冒険者として開花したのだ。
(そして、今日だ……。今日から俺は先に進んだ連中の背中を追い──いつか追い越してさらに高みを目指してやるんだ)
一人、そう決意する。
しかし、大きな期待と希望に胸を膨らませているクラウスとは裏腹に、刻一刻と人の紡ぐ輪が迫る。
この日、この瞬間のクラウスは知らなかった……。知る由もなかった──。
まさか、中級への昇任試験の最中に、
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