第68話「そのスキル──」
「うー……もうお嫁にいけない──しくしく」
「そんな大げさな──。大丈夫、嫁なんぞ行かんでも……」
そもそも、嫁にやる気はない───!!
リズを嫁にだと?!
あり得ん!!
……カッ!!
ドヤ顔で虚空に叫ぶクラウスと、顔を真っ赤にしてクラウスの背中に顔を押し付けてポカポカしているリズ。
「……なんだこの兄妹」
そして、呆れるメリムの定期。
「むー! もう、ステータス嫌い!!」
「はっはっは! まぁ、これも経験だ──。……わかっただろう? ステータスってのはあまり人に見せたり教えていいものじゃないってこと」
うむ。これ幸いに、最低限の冒険者の一般常識を教えておこう。
ま、リズを冒険者にするつもりはないので、たんなるスキルを使う上の心得といったところだけどね。
さて、
「よしッ。じゃあ、再開するぞ」
「え、もう?!」
いや、
「ほれ……。ステータス画面が出たなら、そこにあるヘルプを押してみな……多分、右上にあるだろ?」
「ぶー。お兄ちゃんが冷たい──。へるぷ?……これかな」
ヘルプ、ぽちー
──ブゥゥン……!
※ ※ ※
スキル【
能 力:SPを使用することで、受注したクエストをマーキング表示する。
備 考:Lvによって受注クエストのアクティブ数が上昇
また、Lv上昇によりギルド等の受注クエストの表示等級が上昇
Lv1:近親者クエスト表示は、近親者間に発生したクエストを表示する。
Lv2:??????
※ ※ ※
「って、書いてるよ?」
「……おう」
リズの申告をメモに取りながら、羽ペンの先で頭をコリコリ。
え~っと、受注したクエストをマーキング表示って───??
……え?? ちょ、ちょ、ちょ、ちょいまち───。
ギ、ギルドのクエストと連動してんのこのスキル?!
「おいおい。何だよ、このスキル……」
受注したクエストをマーキング表示するって、どういうことだよ???
「ど、どうかな? い、いいスキルかな?」
不安そうな顔のリズ。
どうやら、自分のスキルに自信が持てないらしいな。
まだ、他者からの客観的評価を下されたことがまだないのだから当然だ。
しかも、このユニークスキル……。そこらのユニークスキルよりも、さらに特殊なタイプっぽい……。
「う~ん」
だが、クラウスも所詮は中級冒険者だ。いいかどうかと聞かれても、これだけでは判断のしようがない。
そもそも、クエストと連動してるスキルが存在するなんて、初めて知ったくらいだ───?
……いや、クラウスの【自動機能】も、触れたアイテムやモンスターに連動するのだから、ありえなくはないか──。
とすると、系統的には、クラウスやメリムのそれに近いといえるだろう。
おかげで、ゲインの【時空操作】やグエン【原子変換】のようなわかりやすい攻撃系ではない分、一見してハズレにも見えなくもない。
…………そう。見えなくもないが───。
「おにいちゃん……?」
「ん、んん~む……」
「ね、ねぇってば……」
「んーむむむむ」
難しい顔で考え込むクラウスを不安げに見上げるリズ。
(……むぅ。……そうだな。ユニークスキルにハズレがあるとは思えないし───)
【自動機能】だって初期はハズレ丸出しだったが、実際はぶっ壊れ性能のスキルだったのだ。
なら、リズのこのスキルも───。
「……うん。今のところなんとも……。未知数なスキルだとしか──」
「あぅ……。そ、そうだよね…………役に立ちそうにないよね……」
ショボンとしたリズ。
だって、どうみても攻撃系とか補助系でもないし、言うならば『
……けども。
「───…いや、そうと決めるのはまだ早い」
そう。
クラウスの勘──長年、ダメスキルと言われていたスキルを鍛え続けていたその勘が告げている。
──このスキルは凄い、と。
「だから、試してみようか。……リズ──まずはステータスをよく確認するんだ。とくに、クエストに関することに何か特殊な表示が出てないか?」
クラウスで言うところの【自動移動】の『行き先指定』のようなものがあるはず。
「え? え、えっと……。受注クエストってのがあるよ?……わっ、何個かあるね」
リズの申告をまとめるクラウス。
ふむふむ。……どれどれ?
ブゥン……。
※ ※
《クエストを指定してください》
●近親者クエスト
※ ※
「って、出てるよ?」
みたいだな。ふーむ……。
聞き取ったメモを手にしたクラウス。矯めつ眇めつ眺めて考える。
(……この説明を読むに、近親者クエストっていうのは、家族間で発生するクエストのことを指すらしいな)
ふむむむ……??
家族間のクエストとな……??
「ん~。もしかすると、
「おつかい??」
『?』顔のリズ。
「た、多分な……? ほら、リズが俺にネギ買ってきてーって言ったら、それがクエストになるみたいな?……ち、違うか?」
言ってて恥ずかしくなってきた。
なんだよ、オツカイがクエストって……。
「う、こ、こういう時は──まずは試してみよう。す、すべてはそれからだ!」
「はーい!」「おー!」
若干、出たとこ勝負気味のクラウスに釣られてリズとメリムが気合を入れる。
…………いや、メリムは関係ないからね??
「なんだよ? クラウス?」
「……言わんでもわかるだろ?」
「……???」
ま、まぁ、もうバレちゃってるからいいけど、くれぐれも口外するなよ……。
そう心に願いつつ、あとでしっかり口止めしておこうと決心。
「よし! そうと決まれば、じゃあ、さっそく実証開始だ!」
「うん、わかったー!」「おー!」
元気いっぱい女子ーズのやる気に突き動かされ、
そして、クラウスの言う通りにリズがさっそく取り掛かる。
「……で、どうしたらいいの?」
「うむ。俺のスキルを参考にしてみるに───その『近親者クエスト』は選択できるはずだ。まず、ステータスから選んでみな」
「え? う、うん」
ブゥン……。
※ ※
《クエストを指定してください》
●近親者クエスト ← ピコン
※ ※
……ブワッッ!!
※ ※
《クエストを指定してください》
●近親者クエスト
〇 家族を守れ
〇 家を修理しよう
〇 クエストを検証しよう
※ ※
「わわわ!」
で、でた!!
「なんか出たよ! お兄ちゃん!!」
ぴょんぴょん跳ねるリズが空中を指さすが、見えん見えん。
「いいから落ち着け」
「う、うん!! え~っと……なんか色々でたよ?! ほらこれ、ほらこれ!!」
「「だから、見えないって」」
これこれー! って、持ってこられても見えないからね?
空中を指さしても、元気よく空気とお喋りする怪しい子にしか見えないからね? もちろん、クラウスだけじゃなく、メリムにも見えないぞ。
「とりあえず、検証するから、まずは紙に書いてくれよ────…………ん、どれどれ?」
リズのメモを受け取り、目を通す。
なぜか、横からメリムも覗き込んでくるので軽くエルボーを食らわしアッチ行けをしておく。
「えぶっ!──な、なにすんだよ!」
「家族のプライバシーだ」
「なんだよ、ケチぃぃ!!」
ケチとかの話じゃねーっつーの! ったく。
……それにしても、なんだこれ??
家族を守れ、とか、家を修理しようって────これがクエスト?? ただの課題じゃねーか!!
(…………いや、待てよ)
この、『クエストを検証しよう』って、これ。……もしかして今の状態を指してるのか???
「ということは───……」
リズに発生した近親者クエストというのは、現時点での『課題』なんかを指すのだろう。
発生条件はイマイチ不明だが、『家を修理しよう』というクエストは間違いなく、クラウス・ノルドール家の再建のことを言っているんだろうし、これは、スキル授与前からのリズにとっての課題だったということ……。
──つまり、クラウスの予想は、おおよそ当たりだったということだ。
いやいや、待て待て。……それはそれとして、これが一体何だというんだ??
クラウスの【自動機能】のように、選択するとなにか変化があるのだろうか?
「んー……。これだけじゃ、わからんな」
「だ、だよね? うー……どうしたらいいの?」
上目遣いのリズの頭を、ナデリコナデリコ。
……うむ。考えてもわからんことは検証しての実践に限る!
「くくく。リズ、こんなときはユニークスキル歴3年のベテランに任せておけ」
「……3年って、いうほどベテランか──」
ゴンッ!
「うぎっ?!」
「だぁってろ!! これでも、ベテラン下級冒険者の二つ名を頂戴したこともあるんだぞ!」
「……それ、二つ名じゃなくて忌み名だろうがー!」
ゴンッ!!
うっさい!!
ベテランはベテランじゃい!!
「むぎぎぎ……! ゴンゴン、叩くなよー!!」
やかましい!
「よ、よーし、リズ。まずは実践だ。……とりあえず、その三つを選んでみな? 念のため、俺もメリムも見とくから」
「え? うん。え? も、もう、やるの?!」
理解の追い付かないうちに実践と聞いて、リズもびっくり。
「やらないとわからんだろうが……───安心しろ、何があってもリズは守るッ」
キリッ。
「お兄ちゃん……」
「いやいや。たかがLv1のユニークスキルだろう?? そ、そんな大げさかぁ?!」
なんか、ポーっと顔を赤らめてるリズの頭を撫でつつ、メリムをジト目で睨む。
「……それ、お前のんときにも言えんのかよ?」
う……。
「…………そ、そうか。ユニークスキルだもんな。……うん。わかった、任せろ、クラウス!」
メリムの言う通り、大げさかもしれないがなにせユニークスキルだ。
メリムはメリムで何か心当たりがあるのだろう──なにせ、こいつもユニークスキル持ちだしな。
実際、Lv1とは言え、ユニークスキルは油断がならない。
……クラウスにも心当たりがないわけじゃないから、なおさらだ───初めて【自動機能】のLv1『自動帰還』を使ったときは仰天したもの。
なにせ、気づいたら家にいたんだからなぁ……。しみじみ
つまり、【自動機能】の自動帰還のように、選んだが最後、勝手に動き出す類のものだってあるということ、
下手をするとユニークスキルを使用しただけでリズが危険な目にあう可能性もあるのだから警戒するにこしたことはないのだ。
──最悪の場合、体を張ってでも止めないと……。
「え、え、え? そんなメリムさんまで?! え? ユニークスキルってそんなに危ないの?! ね、ねえ、大丈夫なの?! もしかして、超危険??」
「「……しーん」」
「いや、しーん……って口で言われても──」
青ざめるリズには悪いが……──ぶ、ぶっちゃけ、わからん。
「……ま、まぁ念のためだ」「うん、念のためな」
息ぴったりのクラウス&メリム。
「ええええ! そんな、なげやりなー」
ううー、嫌だなー。とリズがちょっと涙目。
しゃーないやんけ。実際わからんもんはわからん。
だから、
「……大丈夫───お兄ちゃんを信じろッ!」
きら~ん♪
こういう時は、リズ
「うぅ……なんか、あしらわれてる気がする……」
「キノセイダ───」
「じゃ、じゃあ選ぶよ…」
「お、おう!」
ドキドキ。
「選ぶよ?!」
「おうよ!」「おう!!」
ドキドキ──
「選──」
「「はよせい!!」」
えーい!!
《クエストを指定してください》
●近親者クエスト
〇 家族を守れ ← ぴこん!!
〇 家を修理しよう
〇 クエストを検証しよう
意を決してリズがスキルを選択!
目を瞑って思い切ってのスイッチだ!
その瞬間──────……!!
…………。
……。
その瞬間────────────……。
…………。
……。
その───……。
「…………あ、あれ?」
恐る恐る目を開くリズ。
クラウスもメリムも、ゴクリと唾を飲み込む。
一体何が起こるというのか──……。
「と……」
「「と───?!」」
ゴ、ゴクリ。
「と、とくに何も───??」
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