第34話「ジャイアントフット」

 ジャイアントフット



 深山の──それも、雪深い地域に棲息し、降雪の中で獲物を探す好戦的な魔物。

 それがジャイアントフット────別名『雪男イエティ』だ。


「くそ! 中級以上の魔物じゃねーか!!」


 何でこんな下級の狩場に────……あ!!!


 そういえば、山に入るときに冒険者に警告されたじゃないか……!

 こんな時に山に入るとアイツらが目を覚ますって!!

 

「……そ、そうだ! 忘れていた!! 冬季間は山岳系フィールドの難易度が変化し、基本は下級の冒険者の立ち入りは制限されるってことを!」


 雪深い季節の山岳系フィールドは、それ以外の時期のそれとは一線を画する。

 それはここ『東雲の深山』でも同じで、冬季だけ限定的に中~上級の山岳フィールドと認定されていた。


 なぜなら、

 まず、低体温が心配される最悪の環境に加え、この時期にのみ発生する凶暴な魔物が確認されているためだ。


 その代表格がジャイアントフット。


 そのほかにも雪ムカデや、

血雪の精霊ブラッドスノウなど、


 寒さに強く、攻撃力も防御力段違いの、血肉を好む凶暴な魔物が目白押し。


 もっとも、その分貴重な素材が取れるため、その時期を狙ってくる冒険者もいるのだが、あくまでも例外だ。


 普通なら雪の時期には、この地域を狩場にしている下級冒険者や中級冒険者に成りたてのものは、近寄ることすらしない。


 マズイ──!

 冬季戦装備もないのに、どうして戦えばいいんだ!


 そうこうしているうちに足音が迫りくる。

 今すぐにでもここを逃げて下山しなければ危険だというのに────!


「「「ごぉぁぁああああああああ!!」」」


 ボスッ!!


 迷っているうちにビッグフットの攻撃が、ゲインが火起こしのために作っていた雪濠を襲い、あっという間に殴り散らかしてしまった。


 ビュゴォォォォオオオオオオオ!!

「ぐ……!」

 途端に吹雪がクラウスを叩きつける。


「ち! せめて、一合くらいは撃ちあわないと自動戦闘もできやしない!」


 自動戦闘の欠点……。




 戦った相手・・・・・しか攻撃できない────!!




 ──シャキンッッ!


 だったら一撃ブチかまして、自動で倒してやる!

 そう意気込んで、いつもの馴染みの黒曜石の短剣を構えると、突進してきたビックフットに真正面から挑む。


「──っく! で………デカい!!」


 ドトッ! ドトッ!!


 と雪の上を平気で走る巨大な足。

 そして、ギラギラと光る赤い目!!


(こ、こぇぇぇえええ!!)


 一撃すれば勝てる……!

 だけど、


 ──…………い、一撃できるのか?!


「「コッフ、コッフ……!」」


 ズザザザザザザッッ!!

 全身から湯気を立ち昇らせるビックフット。


 奴らは全員、白毛混じりの灰色の毛でおおわれており、まるで猿のような赤ら顔がクラウスを真正面から睨みつけたる──!


 そして、咆哮ッッッ!


 すぅぅ……。

「「ごぁおあぁああああああああああああああああ!!」」


 ──ビリビリビリビリビリビリリィィッィィイイ!!


「ぐぅ……!」


 ──戦の咆哮ウォークライ


 ビックフットの固有スキルが発動し、

 ブワッ!! と、全身の毛が総毛立つような感覚に思わず足がすくむ。


 これが生物としての格の差だというのか────!



 ……………………来るッ!!



「こなくそッ!」


 ガキンッ!!

 足音に振り返ったクラウスの眼前にビッグフットの凶暴な顔が迫り、大口でクラウスの短剣にかみついた。


「こっの……!」


 ギリギリギリ……!


「な、舐めるなよ!!」


 一合当てれば、あとは────……。



 クラウスの【自動機能オートモード】の独壇場だ!!



 『気配探知』発動ッ。

 周辺捜索────……!


 ピキィィィイイン!

 脳裏に敵の位置が感覚として表示される。


(ひーふーみー……)

 全部で…………………8体?!


 すかさず、

「────スキル『自動戦闘』ッッ」


 ブゥン……!


 ※ ※


 《戦闘対象:レッサービックフット×8》

  ⇒戦闘にかかる時間「00:10:23」


 ※ ※


「……10分! 行けるッ!!」



 くたばれ!!

 サル野郎ッッッッッッ!


「「「ゴォァッァアアアアアア!!」」」


「おらぁぁぁああああああああああ!」


 負けじと叫び返すクラウス。

 そして、

 気合とともにビックフットを押し返し、素早くスキルを発動ッ。


 次の瞬間、クラウスの意識は闇に落ちていく。

 ……頼むぞ【自動機能オートモード】!!




 ──────発動ッッッ!!




「ゲホッ……! カハァ!」


 そして、目が覚めた瞬間────クラウスは全身を襲う筋肉痛と指の感覚がない事に気付いて、雪の上に倒れた。


「ぐ…………。ど、どうなった?」


 ミシミシと筋肉が悲鳴を上げる。


 だが、かろうじて動く足を踏ん張り、首だけで周囲を探ると、一面に血が飛び散っていた。


「か、勝った……?」


 しかし、その血も猛烈い吹きすさぶ吹雪の中白く塗りつぶされていった。



 ※ ※ ※

 

 クラウス・ノルドールのレベルが上昇しましたレベルアップ

  クラウス・ノルドールのレベルが上昇しましたレベルアップ


 ※ ※ ※


 レベルアップ────……。


 やった! レベルアップしたぞ……。

 ざまぁ、みろ……!


 だけど、今は、今は……。

 そ、それよりも────。


「まず、い……。『自動帰還』で帰らなければ──……」


   寒い。


 スキルのクールタイムまで待ち……。

 そして、「必ず」帰還するのだ。


   寒い……。


(必ず────…………帰る……)


   寒い…………。


(まだか、クールタイム────まだか?)


 あと、一分?


   寒い………………。

   寒い……………………。


 あ、あと──────。


 あと────寒い……。


    「お兄ちゃん!」



「リズ……」

 寒いよ、リズ──。


(な、何を待ってたんだっけ? たしか……あと、1分?)

 1分待ってどうするんだっけ?



 寒くて、何も……考えられない。



 リズ……。

  リズ……。



 ビュゴォォォォオオオオオオオオオ……!



   「お兄ちゃん!!」


「リズ……?」


  リズ……。

   リズ……か?


   「お兄ちゃん、起きて!!」



  リ────…………。

   リ、ズ──……。


「おい!! どこにいるんだよぉ! おーーーーい!!」


 リズ? リズ、か?


「おーーーい! クラウスーーー! さ、さむいいい……!」


 ザクザクザク……。

 

「おーーーーい! ど──」

「り、リズ……」


   寒い…………。


「クラウス?! おい!! ク────……」


   リズ…………。


 雪の上で弱々しく手を伸ばすクラウス。

 その手を「リズ」が優しく包んでくれた────。






「リズ………………」






 そして、クラウスの視界が白く闇に包まれていく────。




 ブゥン……。


 ※ ※ ※

レベル:46(UP!)

名 前:クラウス・ノルドール


スキル:【自動機能オートモード】Lv4

Lv1⇒自動帰還

Lv2⇒自動移動

Lv3⇒自動資源採取

Lv4⇒自動戦闘

Lv5⇒????


● クラウスの能力値


体 力: 327(UP!)

筋 力: 205(UP!)

防御力: 175(UP!)

魔 力: 110(UP!)

敏 捷: 207(UP!)

抵抗力:  74(UP!)


残ステータスポイント「+64」(UP!)


スロット1:剣技Lv4

スロット2:気配探知Lv3

スロット3:下級魔法Lv1

スロット4:自動帰還

スロット5:自動移動

スロット6:自動資源採取

スロット7:自動戦闘



● 称号「なし」

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