第19話「自動戦闘検証」


「乗らねぇのか?」


 ギルド前に留まった、いつもの乗合馬車の爺さんがクラウスを不思議そうに眺める


「ん? いや、今日はいいや」

「ほ! ついに堅気になるか──ええこっちゃ!」

 なにか勘違いする爺さん。


「ちげーよ……」


 いちいち、うるせー爺さんだな。

 なんだよ、堅気って!


「今日は近場で狩りだよ。いつもの安心安全、みんな大好き『霧の森』さ」

「あんなとこ、お前さんしか行かねーよ。……にしても、そうか、もうダンジョン化したんだな」


 先日クラウスが正常化した『霧の森』は一定期間を過ぎて魔素を蓄積し、再びダンジョン化していた。

 それを、ギルドのお知らせ板で確認したクラウスは、躊躇なく、使用札をかけてそこに向かうことにした。

 もちろん、他の使用者は誰もいない。


「そうだよ。じゃー行ってくるわ」

「あ、あぁ、気を付けてな」


 爺さんの心配そうな目線を感じつつ、装備を整えたクラウスは街の外へ向かう。


 もちろん、近場ゆえ今日は歩き。

 『霧の森』は、狩場にしては珍しく町の近場にあるのである。


「──にしても、クエストも余りまくってんな……」

 依頼板にびっしり貼られた『霧の森』関連のクエストの数々。

 誰も行かない不人気狩場ゆえか──。


 パラリ。


 クラウス手元には、その依頼書クエストが多数ある。

「霧のせいで見通しが悪いから、皆敬遠するんだよなー」

 たが、クラウスには【自動機能】がある。


 そのため、不人気狩場との相性はバツグンだ!

「まず、これから片付けるか」

 クエストの中から数枚抜き出すと、斜め読み。


 ──『魔物の退治』×5枚。


 まずはこれの達成を目指す。


 一枚あたり、ノルマの魔物を退治すれば銀貨20枚という、不人気狩場のわりには中々高報酬クエストである。

 もちろん、たくさんの魔物を仕留めれば追加報酬も得ることができる。


 それが、毎度おなじみの『霧の森』。

 晴れて?正常化期間が過ぎ、再び『霧の森』がフィールド化しているのだから行かない手はない。


 【自動機能】が覚醒した今、『霧の森』はクラウスにとって美味しい獲物だ。


「よーし、クエストついでに、今日は『自動戦闘』の検証をするぞ! そろそろの『霧の森』の魔物くらいなら楽勝だし、……手馴らしにはうってつけだ」


 霧の立ち込める森に降り立つと、スウゥと空気を吸ってスキル発動。


 さっそく『気配探知』で、魔物の気配を探るクラウス。

 ……いつもなら目視で探していた魔物も、『気配探知』Lv3のおかげで早速発見。


「お、さすが、近場のわりに不人気狩場────やっぱり、魔物の数だけはたくさんだな」


 気配の中にはおなじみの雑魚。ゴブリンとコボルトの気配。

 上昇したレベルの身体能力をいかして一気に肉薄したクラウスは、気配のただなかに突っ込む。


「ギャギャ?!」

「グルルルゥ?」


 サッと周辺を見回すと、驚いた顔のゴブリンが5体と、コボルトが10匹ほど。

 集団としては多いが、個体としては脆弱────……全員雑魚!


「脆弱脆弱ぅぅぅう……! 上位種はいないな。ならば、まずは殲滅!!」


 いきなり自動戦闘を倒すのもあれなので、まずは実験のために数を減らす。

「ギャギャァアアア!」

「グルォォオオ!!」

 突然現れたクラウスにも負けず、ゴブリンたちが一斉に襲い掛かる。


「一匹を残して、全部逝けぇ!」


 タッ! トトトトトン!!


 ゴブリンたちの一撃をいなすと、集団の中に躍り込むと、黒曜石のナイフを振るい、戸惑うゴブリンの首を複数切り落とす。

「ゲギャァァ!」

 その血が噴き出る前に、身を翻し今度はコボルトの群れに突っ込む。


「しぃぃぃッ!」


 その勢いで持ってあっという間にゴブリンとコボルトを半数ほど殲滅すると、今度は態勢を取り戻しつつある残りのゴブリンを切り伏せる。


「ゲギャァァアア!」


 ようやく得物を構えたゴブリンであったが、あえなく全滅。

 あと、コボルト数匹。


「よーし、残るコボルトは……武器持ちだけは逝ってよし!」


 フンッ!!


「キャイィイイン!?」


 逃げ出そうとしたコボルトを追撃し、素手の一匹を残してあっという間に殲滅すると、

「悪いな。お前らを放置すると近隣の村を荒らすんだろ?……だからさ、」


 魔物は放置すれば、勝手に食い合いレベルアップして凶悪になる。

 そして、さらにレベルアップした個体が増えていけば、いずれ狩場は破綻はじょうし、ついにはダンジョンやフィールドから溢れ出す。

 そんな、モンスターパニックを事前に防ぐのも冒険者の務めなのだ。


「────……こっちもこれが仕事なんだよ! かかってこい!」


 そういって、腰を抜かしたコボルトにあえて武器を渡す。

 ゴブリンの使っていた棍棒なのでコボルトにはなじみのないものだろうが、それはいい。


 武器を持たされたことで、逃げようとしていたコボルトが踏みとどまる。


「よーし、それでいい。魔物なら逃げるな! 最後まで戦えッ!」


 逃げる背中に興味はないんだ。

 それに逃げられたら検証が台無しだ。


「──────【自動機能オートモード】起動ッッ」


 ステータスオープン!!

 ──スキル『自動戦闘』!


 ブゥン……。


 ※ ※


 《戦闘対象:コボルト》

  ⇒戦闘にかかる時間「00:00:01」


 ※ ※


 わぁお、一瞬かよ?

 なら、検証開始だ。


 数を増やせばどうなる……?



「キャィン?」



 微動だにしないクラウスを訝しむコボルトだが、その姿を無視してクラウスは検証を続けた。

 ジリジリとコボルトが近づいてくるが、お構いなしだ。


 ブゥン……。


 ※ ※


 《戦闘対象:コボルト×2》

  ⇒戦闘にかかる時間「00:03:12」


 ※ ※


 お、複数指定可能か。

「ふーむ……。コボルトを×2に指定もできるのか──。そうすると、戦闘時間が増えたぞ?」


 ……ということは、コイツを仕留めても、そこから3分以内にコボルトがいるという計算になるのか。

 なるほど、移動時間も戦闘時間になるみたいだな……。


「…………あ、魔物は複数選べるのか!」


 ステータス画面に浮かぶモンスターの名称。

 それを追加指定すると、


 ※ ※


 《戦闘対象:コボルト×2、ゴブリン×1》

  ⇒戦闘にかかる時間「00:03:13」


 ※ ※


「む。戦闘時間がほとんど変化なし────ということは、コイツとは別のコボルトは、ゴブリンを含む群れにいるということだな」


 つまり、

 【自動機能オートモード】での戦闘は、敵の距離などを関係なしに、指定した数を殲滅するために最短距離で最適な戦闘をすると見積もられる。


 そうでなければ、戦闘時間が1秒しか変わらないなどありえないだろうからな。


「よし! どんどん検証だ!!」


 手早く殲滅し、徐々に徐々に森の奥へ。

 その間にも若干の検証を含めていく。


 すると、目の前のコボルト以外に、近隣にいると見積もられる群れはコボルトが6匹、ゴブリンが3匹の小集団らしい。


 その後にコボルトやゴブリンの数を増やしてみると、戦闘は3分以内には終わらず10分以上かかっていた。


「なるほど……大体わかってきたぞ」


 自動戦闘は指定した数の魔物を殲滅する。

 そして、それに掛かる移動時間、戦闘時間を正確に案出し、「必ず戦闘」をする。


 問題は────────……「必ず」勝てるかどうかだ。

 もし勝てないなら、こんな危ないスキルはない。



「…………よしっ!」



 だが………………。

 もし、「必ず」勝てるなら────こんな無敵のスキルもないだろう。


「────……実験開始だ!」」

 霧の森の魔物なら、よほど下手を討たない限り、今のクラウスの敵ではない。

 『自動戦闘』開始──!



 ステータスオープン!!



 ブゥン……。


 ※ ※


 《戦闘対象:コボルト×7、ゴブリン×3》

  ⇒戦闘にかかる時間「00:03:30」


 ※ ※



「自動戦闘、発動ッッ」



 フッと、いつもと同様に意識が飛ぶ────…………そして、

 ────…………そして、気付いたときには、


「プはぁっぁああ!」


 ……ふぅ!


 ガクンと膝の力が抜けるような感覚。

 そして、予想通りの光景が────……。


「や、やっぱり……?」


 ドロリと手が血にまみれる感触。


 ちょうど、黒曜石のナイフを引き抜いたところらしい。

 構えを解いた状態のクラウスが突っ立ち、目の前には血を噴き出すゴブリンの遺体。


 その目にはもはや何も映しておらず戦闘が終わっていることを指していた。



 必ず・・勝てている…………。

 しかも、無傷??



「…………じ、『自動戦闘』ヤバすぎだろう!?」



 クラウスの驚愕のセリフが響くと同時に、

 ドサドサドサッと、一斉に倒れるコボルトやゴブリンの体。



 ……戦闘したという意思もないまま、クラウスは勝利していた。



※ ※



「ま、まだまだ検証しないとわからないことだらけだけど……。今のところすべての戦闘に勝利している? しかも、無傷で……」


 もっと格上と闘ってみないと確実とは言えないが、疲労感と軽い筋肉痛以外に負傷らしい負傷をしていないクラウス。

 それどころか、集団戦であったはずなのに、まったく無傷なのだ。



「と、とんでもないスキルなんじゃないのかこれ──?」



 ただのユニークをも凌ぐ性能。

 それこそ、チートや何かと言われるそれ──。


 い、いや。まだ過信は禁物だ。

 もっともっと検証しないと────!!


「幸い、霧の森は検証にはうってつけだぜ!」


 勝手知ったる森の中。

 しかも、雑魚ばかりだ。


 まずは雑魚を仕留めつつ────……ホブゴブリン戦で検証だ!!


「よ~し! 確かめるぞーーー!!」


 まずは、

「くくく。目標、『霧の森』の全モンスター! 我、『霧の森』の魔物を殲滅せんとす────!」



 いっけぇっぇぇえええ!

 俺──────……!




 『自動戦闘』────発動ッ!





 ゲギャァァァアアアアアアア!!


 ……その日、霧の森には魔物たちの悲鳴が一日中響いていたとかいなかったとか────。

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