さすらいの行商人編

異世界の風景

ふははははははははははははっ!



まんまと神からチートをせしめれたぞ!

しかもあの後、言葉やら風土病なんかの対策もして貰った!


事前情報によると、この国はマギウスガルド大陸の真ん中に位置するエルエスト王国と言うらしい。

いわゆる中世ヨーロッパ風の剣と魔法世界との事だ。


人間族が中心の国なので文化的にも比較的馴染みやすいだろうとの事だった。


人間族と言うからには人以外の種族もいるのだろうか?


私自身はあまり漫画やゲームには明るくないが、それなりに楽しみである。


それはよりも、だ。



目を開けるとそこには、広大な麦畑が広がっていた。


地平線ははるか遠く、前後左右見渡しても黄金色の麦が風に揺られている。


人っ子一人いないし、建造物もない。



……どないせぇっちゅーねん。




◆◆◆◆



「あっはっはっはっ!馬車から転げ落ちたのか!」


「えぇ。落ちたショックでテンパっている私に気付かずそのまま仲間の馬車は走り去って行きましてね。仕方なくドボドボ歩いているうちにここに迷い込みまして……。」


「え、いや、それって捨てられ……」

「やめろ。その可能性は考えたくない。」


「あ、ああ。そうだな。うん。馬車なんか振動が凄いし、人が落ちても気付かない……よな?」


「まぁ幸い多少の売り物は持っているのでこれでどこで宿を取れたらと思っているのですよ。」




あの後、1時間程麦畑を歩いているとようやく人里にたどり着いた。


遠目から見たところ、数百戸ほどの集落だ。

石と木材を使った家が寄り集まっている。

道は殆どが石畳で舗装され、大量の麦や野菜を乗せた荷馬車が往来していた。


この世界が中世ヨーロッパ風だと考えると町と呼称しても良いかもしれんな。

うろ覚えの知識だが、中世じゃあ数万人もいれば大都市だったはずだ。


町の周囲は簡単な柵で囲われており、1箇所だけある入口には門番が2人立っていた。


今は門番の詰所にて絶賛取り調べ中という訳だ。




門の横に併設された詰所は、かなり殺風景な部屋だった。


石を積み上げたプレハブと言ったイメージか?

外装こそ漆喰で整えられているが、窓も小さく入口は一つだけ。


何やら部屋の隅にボロボロの布で巻かれた大きな荷物が置かれている。


何だか変な匂いがするし、不衛生な部屋だなぁ。



そんな部屋の部屋の真ん中の机を挟んで、日に焼けた大柄な兵士が私の適当な作り話に爆笑したり哀れんだりしている。


彼は中々良い奴だ。


流石に住所不定無職の異世界人と素直に言う訳にもいかないので、ちょっと間抜けな行商人という設定で話しているが、さっきから中々良いリアクションをとってけれる。


歳の頃は20代半ばくらいか?

日に焼けた肌と金髪が眩しい中々のナイスガイだ。


この町の治安維持を目的とした兵士、つまり騎士とかそう言った類なんだろうが、全く偉ぶらず、気さくな兄ちゃんと言った風体だ。



「まぁこの町に行商人も来るからな。泊まるところくらいはあるぞ。」



だろうな。

この町の人口から見て、あの広大な麦畑は余分過ぎる。余剰分は税やら売却やらでこの町から運び出してるのだろう。


つまり、町の人間以外が出入りしているのだろう。


中世の村社会は排他的な場所が多く、人の行きかいが極端に少なかったらしいが、この町は比較的開けている可能性が高いと思ったのだ。



「まぁ揉め事を起こさないならこの町の立ち入りは問題ない。こっちもさっきまで捕物があって疲れてるし、荷物確認だけさせてくれ。」


「分かりました。あ、この町でこういった物を買い取って頂ける所はありませんか?」



私はそう言いながら肩掛けカバンに手を入れて拳に力を込める。


手が淡く光るとカバンの中に両手より少し大きい皮袋が現れた。


どさりと皮袋を机の上に置くと、訝しげに騎士の兄ちゃんが皮袋を開ける。



「こいつは……宝石か。凄いな。ルビーにサファイア、エメラルド、コイツはガーネットか?」


先程まで気さくな雰囲気だった騎士の顔が強ばる。



ふっふっふっ!

これこそ!神から貰ったチート!


俺が知る物であればどんな物でも無制限無尽蔵に生み出す事が出来る力だ!


名前は特にない。


別にカバンはなくてもチートは発動するが、人目を気にしてカバンの中で発動させるようにした。


注意点は生み出す物の大きさに応じて魔力なる不思議な力が消費されるらしい。


魔力の説明はよく分からんが、体力みたいなものらしい。いきなり大きな物を生み出すと、とても疲れるとの事だ。


反面、この宝石の様に小さく、単一素材の物はほぼ無尽蔵に生み出せる様だ。


ふははははははははは!

これぞ正にチートだ!




「よし。今からアンタを拘束する。」


「なんで!?」


ま、まさかここで私を亡き者にして宝石をがめるきか!?

待て!欲しいならそんなもん幾らでもくれてやる!



「当たり前だ!こんなもん街中でひょいひょい出されたらパニックになるわ!アンタも要らぬ犯罪に巻き込まれたくはないだろ?」


「それはそうだが、拘束されるのは……」


「要は保護だよ。保護。

こんなもん見ちまったら、騎士としてアンタを町で自由にブラつかせる訳にはいかん。」


治安は良い町だが、流石に襲われる可能性が高過ぎると言う事らしい。


おぉ!良い奴だな。こいつ!


「それにいちいち買主を探さなくても、そんな宝石買えるのはこの町じゃ領主のドライセル男爵くらいだ。ちゃんと渡りはつけてやるから安心しろ。」


「ご、ご提案はありがたいのですが、しかし、何でまた私などにそんな親切に……。」


お前は神か?


私が訝しげな顔をしていると、若い騎士は苦笑しながら手を振る。


「犯罪を未然に防ぐのも騎士の仕事なんだよ。

……アンタもこうはなりたくないだろ?」



示された先にあるのは、この部屋に入った際に目についたボロボロの布の塊……。

いや、違う。


これ、人だ。


顔面が変形するほどボコボコに殴られた、恐らく若い女が倒れていたのだ。


そりゃあ変な臭いがするはずだ。

顔からどころか下半身からも様々なモノが垂れ流されている。


なるほど。

この世界はかなりデンジャラスらしい。


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