開拓事業プレゼン
ギルド長の部屋はギルドの2階の奥にあった。
簡素な机の上には大量の処理待ちの書類が置かれている。
何だか煩雑なオフィスだな。
「汚くてすまねぇ……です。タチバナ様」
フラウ君を見て焦りながら口調を改めるボルドー氏。フラウ君どうどう。
「話しやすい口調で構いませんよ。
それで?ギルドとしてはどうしたいのです?」
取り敢えず応接セットのソファに腰を下ろして真意を尋ねる。
対面にはボルドー氏。
私の後ろにフラウ君が立って控えている。
アルトス君達はめいめい立ったり座ったりして私達の話を聞く体勢だ。
先程召喚されたウチの社員達は壁際に直立不動で控えている。
「助かる。ギルド長なんて立場にいるが、見ての通り学のない冒険者崩れなんでね。腹芸も苦手だから正直に言うぜ?バーバレストギルドとしちゃあ仕事のない冒険者達に仕事を回してやりてぇんだ。」
「……それは単に実力がないだけなのでは?」
「まぁそうとも言うがな。だが、誰もが最初は新人だろ?この辺は魔素が多いせいか高ランクの魔物や魔人が出てくる。新人や実力が足りない者に振るにゃあちょっと難しいんだよ。」
なるほど。ボルドー氏の言いたい事は分かった。
しかし、問題は私が下位層の冒険者を雇うメリットはあるのかと言う話だ。
「タチバナ様は行商人なんだろ。人足はいても損はないんじゃないか?下位ランクとは言え冒険者。
レベルだって10以上はある。荷物持ちになら充分使えるはずだ。護衛や戦闘はBランクの
要はアルトス君達と下位冒険者をセットで売りたいわけか。ご一緒にポテトも如何ですかってな。
ボルドー氏にはスマイルが足りんな。
……しかし、悪くはないな。
開拓自体は私のチートで行うとしても私も初めての試みなのだ。人手は多くて問題はない。
「候補はどの様な人達が何人くらいいるんですか?」
「お。乗ってくれるのか?そうだな。人数は何人でも良い!E級かF級、Sクラスもいるぞ!」
「Sクラス?それは上位層なのでは?」
「スキルのSさ。強さを表す
ああ、ランクとクラスは意味が違うからな。
確かランクはランキングでモノの優劣を表し、クラスは集団の区別を表すんだっけな。受験の時に覚えた気がする。
しかし、スキルねぇ。
ウチの従業員達が持ってるスマホみたいな力の事か。まぁ確かにあれは便利そうだ。
「……ちょっと嘘。鑑定や索敵みたいに魔術で再現されているスキルもあるから微妙なスキルも多い。私も『嗅覚』スキルは持っているけど、そこまで絶対的なものではない。」
レティ君がフォローを入れてくれる。
そりゃあそうか。それにスキルを持っていてもそれが使えるスキルかどうかは別だしな。
「レティ。てめぇ、せっかく俺が売り込んでるのに邪魔するんじゃねぇよ。」
「シャチョーに虚偽は悪手。必要なものであればいくらでもお金を積んでくれる。誠実さが大事。」
レティ君?買い被ってくれている所悪いんだが、
幾らでもと言う訳ではないんだよ?
侯爵から巻き上げた金貨も限りはある。
支払いがチートで賄える範囲なら無尽蔵でも良いが……。
「……ボルドー様の仰りたい事は分かりました。
ただ、先ずは弊社の依頼内容をご確認されてからで良いのではないでしょうか?それによっても、ギルドからの提案も変わるかと愚考します。」
少しグダグダしてきた所をフラウ君が修正する。
うんうん。流石は私の秘書だな。
このまま説明しても良いかとフラウ君がアイコンタクトをして来るので軽く頷く。
「では、僭越ながら私から我社のプロジェクトを説明させて頂きます。」
控えていた社員達が全員に資料を手渡す。
資料にはタチバナ総合商社土地開発プロジェクトと銘打たれていた。
……いつの間に作ったの?
侯爵からこの話を貰ったのって数時間前だったと思うんだけど?
そういや侯爵との契約書を作る際に紙を何百枚か作って適当に渡したけど、その時?
「目的はバーバレスト領東側に位置する森林地帯の開発。本社及びそれに伴う各種施設の建築を予定しております。」
「東側の森林地帯……帰らずの森じゃねぇか!?」
ボルドー氏が叫びながら立ち上がる。
え?何その不穏ワード。
「ふふ。危険度等級Sランクの禁足地か……。腕が鳴るね。」
不敵な笑みを浮かべてニヤリと笑うアルトス君。
そのSはスキルのSだよね?
スーパーのSじゃないよね?
「開発予定地としては街道に近い森の浅い層になります。現在、我社の社員達が現地で索敵を行っており候補地を絞っておりますので、本格的には1週間程してからの実地となります。」
え、もう現地入りしてんの!?
そんな危険地域に!?
「おいおい。大丈夫なのか!?アンタらいくら超越者って言っても戦士じゃないんだろ?」
カテリナ君が驚いて声を上げる。
だよね!だよね!もっと言ってやって!
「ふふっ。ご安心下さい。社員全員、攻撃魔術や防御魔術は使えますからね。逃げに徹すれば魔王クラスとも相対出来ますわ。」
……君達単なる会社員だよね?
魔王ってゲームに出てくる例のアレだよな?
世界の半分くれる奴。
「何にせよ無茶過ぎんだろ!こんなのはS級やA級の仕事だぞ!?」
青筋を立てて叫ぶボルドー氏。
そうだよなぁ。これはやっぱりレブナント侯爵に掴まされたのかもしれん……。
くそ。私のタックスヘイブンが……。
「―――出来る、かも。地図ある?」
マリーナ君がポツリと呟く。
おや?そうなの?
「資料の4ページ目に付近の地図を載せています。」
「……地図は軍事機密だぞ。後でその部分は回収すっからな。」
地図を見ると王都とバーバレスト領を直線で繋ぐ街道があり、その北側一帯が問題の帰らずの森となっていた。
「ここよ。王都とバーバレスト領の境目にある河の辺り!」
丁度、王都とバーバレスト領の中間にある大きな河がある辺りをマリーナ君が指を指す。
森から流れる河が街道とクロスしている部分だ。
「……オーガの縄張りじゃねぇか。」
オーガ?えっと、あれか。ゲームとかでも出て来る
何かデカくて力の強い人型の鬼!
後、人を食う。―――駄目じゃん!
「あぁ、言いたい事が分かったぞ。奴等は確かにデカくて力が強い。でも、頭が悪いから動きは直線的な脳筋だ。火力さえ用意すれば戦えるって事か。」
何やら合点がいったのか、獰猛な笑みを強めるカテリナ君。
そんな火力なんて―――、あ、魔剣!?
「そうか。私が人数分の魔剣やそれに類する高火力の魔導具を用意すれば良いのか!」
そうだよ。チートがあればいくらでも量産出来る!
さっきアルトス君にあげたナイフは適当に出したが、高火力の魔剣をチートで出せば良いんだ。
何かアルトス君がキラキラした笑顔でこちらを見てくるが一旦無視する。
「……何だか分からんが、取り敢えず火力の問題はクリア出来るって訳か。」
「火力に関してはシャチョー達と私達で充分。
そうなると欲しいのは
「探索はともかく、兵站ならE級やF級でも使えそうだな!よしよし!何人くらい必要だ!?」
レティ君とボルドー氏がこちらを見てくる。
いや、知らんよ。
「あー、まぁトータル50人くらいで良いんじゃないか?私達が40人、アルトス君達が4人、そこに5、6人もいれば充分だろ?そんなに兵站に人数を割かなくても食糧については私が用意しても―――」
「10人くらいいれば良くないかしら?あそこは魔獣や野生動物も豊富だから食料には困らないし。そうよね?フラウさん?わざわざ社長に食事をご用意して頂くなんて申し訳ないわ!
……魔人になられちゃ困るし(ボソッ)」
「え、ええ。そうですね。オーガを狩るついでに食料も調達出来るでしょう。
10人もいれば調理も出来るでしょうし、その他の雑事も任せれますわ。
……魔人になる前に廃人になると思いますけどね(ボソッボソッ)」
何やらマリーナ君とフラウ君が早口でまくし立ててくる。……まぁ良いか。
「よし。話を纏めよう。実行は1週間後。契約期間は取り敢えず1ヶ月。それ以降の契約更新は作業の進み具合を見て決める。」
パンと手を叩いて視線を私に集めつつ皆に確認をする。何事もまとめは大事だ。
「ほ、報酬は!?」
餌を前にした犬のごとくヨダレを垂らすアルトス君。君は本当に残念な子だな……。
「安心してくれアルトス君。契約完了後、全員に魔剣を渡そう。そうだな。アルトス君達には先払いで1振り、契約完了後に追加でもう1振りでどうだ?」
「剣を使うのはウチではアルトスだけ。
私は弓だしカテリナは長斧か長槍、マリーナは杖。その辺はどうなる?」
イタズラする子どものような顔でレティ君が尋ねてくる。
「ふふ。レティ君は商売上手だな。勿論、得意な獲物の魔導具を用意しよう。そうだな。何なら鎧1式でも構わない。」
「相変わらず冗談みてぇな気風の良さだな。旦那。ついでにレティと私を娶る気はないかい?
マリーナはアルトスのだから諦めて貰うがね。」
「クックっ。非常に魅力的な提案だな。カテリナ君。前向きに検討させてくれ。」
「……馬鹿な事言ってんじゃないわよ。」
顔を真っ赤にするマリーナ君とそれをからかうカテリナ君。若いって良いなぁ。
よぉし、話はまとまった!
皆でひと仕事しようじゃないか!
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