冒険者ギルド

ふふっ。

ふふふふ。

ふはははははははははははははははっ!!



いやぁ楽しい!

まさか期限付きとはいえ、無税にして貰えるとは!

やはり権利者の知り合いは素敵だ!


しかもこの世界は独占禁止法も何もないからな!

癒着だろうが談合だろうがやり放題だ!


夢が広がりまくって果てが見えんな。



さてさて。何にせよ全ては開拓に成功してからだ。

開拓自体はチートを使えば何とでもなるだろうが、

問題は道中の安全確保だ。


周りの反応を見る限りはウチの社員達もそれなりに強いと思うのだが、所詮は素人。


ここはやはり本職の冒険者を雇うのがベストだろう。今ならアルトス君達もこの都市にいるかもしれんしな!



◇◇◇◇



冒険者ギルドは街の目抜き通りの外れにある。


頑丈そうな二階建ての建物で、日々様々な依頼を受けるべく、腕に自信のある荒くれ者や生活に困った者達が出入りをしていた。


そんな者達が屯するため、ギルド内は必然的に荒んだ雰囲気になっている。



「おぅおぅ兄ちゃん!女に囲まれて良いご身分じゃねぇか!1人くらいこっちに―――ぶぼっ!」


「て、手前!やりやがっ―――げぶっ!」


「これでも喰ら―――がふっ!」


「お、俺達のバックには―――ぐはっ!」


「え、いや俺関係―――ごふっ!!」



「あれ?1人間違えたか?」

「別に良いんじゃない?コイツら同じパーティーみたいだし。」


絡んで来た4人+1人を一瞬で倒したアルトスが手に着いた返り血を拭き取りながら、マリーナと話す。


アルトス達白雷の牙ブリッツ・ファングはその実力とは裏腹にまだ歳若いパーティーだ。


特にアルトス以外は見目麗しい女性で固められており、ギルドに入れば毎回何かしらの形で絡まれていた。


当然、その対応にも慣れたものだった。



ギルドの1階は依頼の伝票を貼ったボードと手続き用のカウンター、そして簡単な食事を取れる休憩スペースを兼ねている。


絡んで来た5人が座っていたテーブルを占領して食事を注文する。


「ギルド内でお酒をだすのも考えものじゃない?

何でどこのギルドでも1階は酒場なのよ。

毎回酔った馬鹿に絡まれるこっちの身にもなって欲しいわ!」


「元々は冒険者間での情報収集やコミユニケーションを取るためのスペースなんだよ。それがいつの間にか酒場になったのは、まぁ荒くれ者の多い冒険者ならではかもね。」


「どこのギルドでも味は悪くないのが救い。」


「まぁ細かい事は良いじゃないか!ようやくタチバナの旦那の仕事も終わったんだ!乾杯しよう!」


カテリナの声でグラスを重ねる白雷の牙ブリッツ・ファングの面々。


先日レブナント侯爵との商談の終了を持って彼等の仕事は完了していた。


タチバナからは依頼の延長料金も含めて1人あたり金貨5枚が支払われている。



「いやー、あの旦那はやることなすこと無茶苦茶だが、金払いは良いな!」


「1人1日金貨1枚以上。騎士よりも高給。」


「そうね。騎士団長レベルでも1日銀貨数枚くらいだったかな?新しい杖でも買おうかしら?」


タチバナ的には4日間の拘束で専門職を雇い入れる場合、1人あたり50万位という日本の価値観で支払っているが、彼等からすると破格の待遇だ。



「ああ、マリーナの言う通り、武器を買うでも良いかな?手持ちのお金と合わせればそろそろ魔法玉をつけた魔剣に手が届きそうなんだ。鎧でも良いけどお金がなー。そう言えば知ってた?この街に凄腕のドワーフの職人がいるらしい。後で皆で行ってみないか?買えなくても目の保養になると思うんだ!」


早口でまくし立てる姿は完全にマニアのそれだ。

アルトスは武具マニアの残念イケメンである。


「嫌よ。武器屋に行くとあんた長いもん。」

「またアルトスの病気が始まった……。」

「私も武器は欲しいけど、アンタとは行きたくないねぇ。ってか武器を見るのが目の保養って何なのさ?」



「まぁまぁ。大人の男と子どもの違いは遊ぶおもちゃの金額の違いだけなんて言うだろ?……ふむ。

今度の依頼の報酬は武具とか魔法玉の方が良いかな?」


「いや、旦那。そうは言っても毎回だぞ……え?」

「流石に付き合いきれない……!?」

「魔法玉なら確かに嬉し……は!?」


「報酬が武具の件、詳しく教えて下さい!タチバナ社長!!!」



空いた5番目の席にタチバナが足を組んで座っていた。



「私達に気付かれずに同席するなんて、相変わらず旦那はめちゃくちゃだな。全く気づかなかったよ……。」


頭をかきながらカテリナが呟く。


アルトス達が油断していたと言うのもあるが、この世界に置いて魔力を一切持たないタチバナと言う存在は異質だ。


高位の戦士になればなるほど、細かな魔力の動きを持って周囲の気配を察知している。


歴戦の戦士たる彼等はそれ故に魔力を持たないタチバナに気付くのが毎回遅れてしまうのだ。


イタズラに成功した子どもの様にタチバナが笑う。


「君達がいてくれて良かったよ。もし良かったらまた仕事を受けてみる気はないかい?今度はもうちょっと長期になると思うんだが……。」


「受けます!受けるので武具の件を詳しく!」


タチバナに真顔で詰め寄るアルトス。


「すまん。旦那。アルトスは腕と顔は良いんだが、武器が絡むと頭が残念なんだ……。」


「ちょっ!アルトス!勝手に依頼受けるの決めないでよ!」


「シャチョーの依頼を受けるのはやぶやかではないが、内容は聞いてからにしたい。」


「残念イケメンの類だったのか……。ほら、アルトス君。これあげるからちょっと黙ってようか。」


タチバナが懐に手を入れ、チートで作った小さな黒いナイフを取り出してアルトスに渡す。


何となく適当な魔剣と念じれば魔剣が出てくる正真正銘の狡いチート能力だ。



「ふ、ふぉおおおおおお!す、凄い!小さいのにズッシリとしたこの重み!この黒色!間違いなく魔鋼製のナイフ!柄の部分にあるこの赤い宝石はルビー!当然のように魔宝玉だと!?こ、効果は!?効果はなんだ!?オーバルタイプのブリリアントカットでこの配置、込められた魔術式から考えると……吸血!?そ、そうか!!」


何やら楽しそうにアルトスがナイフをおもむろにオーク材で出来た分厚いテーブルに突き刺す。


じゅああああああっ!!


突き刺した箇所を中心に一気に机が干からびていく。


「やはり!刻まれた魔術刻印は『万物の血の吸収』!生物を刺せば血を吸い、無機物を刺せば万物の血たる水を吸い込むのか!タチバナ社長!

この魔剣の銘はなんと言うんです!?」


「え、いや、特にない……かな?」


「な、ならば僕にこの魔剣の銘をつける栄誉を頂けないでしょうか!?じ、実は僕こういう魔剣とか好きでして……。魔剣の名付け親になるのが夢だったんです!!」


「うん。それは分かる。まぁ好きに付けたら良いんじゃないかな?」


タチバナの一言でぱあっと顔を輝かせるアルトス。


「ありがとうございます!!よし、この魔剣の銘は『吸血刃ヴァンパイア・エッジ』だ!やった!小さい頃からの夢が叶った!!」


嬉しそうに黒いナイフを頬ずりするアルトス。

反対にどんどん目から生気が抜けて行く白雷の牙ブリッツ・ファングのメンバー。


「あー、旦那。ちょっと言い難いんだが……。」


カテリナが言い難そうに声を上げる。


彼女達としても依頼内容こそ聞いていないが、タチバナからの依頼を断るつもりはない。


しかし、報酬が吸血刃ヴァンパイア・エッジと名付けられたあの魔剣1本と言うのは問題だ。


報酬をメンバーで分けれないのだ。


本来であればあの魔剣を売るなりすれば大金が手に入るだろうが、アルトスのあの様子では魔剣を手放す事はしないだろう。


せめて幾らかでも良いから全員で山分け出来る追加の報酬が欲しいと言うのが本音だ。



「安心してくれ。あのナイフは私個人がアルトス君に上げたものだ。報酬とは別さ。」


タチバナはカテリナに向かって、皆まで言わなくとも分かっていると鷹揚に頷く。



「まだ魔剣を貰えるんですか!?何をすれば貰えます!?ここの領主の首ですか!?確かアイツはモリーさんやマイヤさんを襲った悪人―――痛い!!」



「アルトス。テメェ何を騒いでやがる!後、その件は内密にしとけって言っただろうが。」


そこには分厚い筋肉に包まれた大男が立っていた。



◆◆◆◆



「俺ぁボルドー。このギルドの長をやってる。怪しいもんじゃねえ。だから、威嚇するのを止めてくれ。チビりそうだ。」


何やらいきなり現れてアルトス君を殴った大男が私に話しかけてくる。威嚇?なんの事だ?


よく見るとボルドー氏は暑くもないのにめちゃくちゃ汗をかいている。


……もしかして冷や汗か?


周りを見ると私の横に立つフラウ君と目が合う。


私が冒険者ギルドに行くと言ったら着いてきたのだ。まぁ彼女は気付けば秘書的な立ち位置にいるからな。さもありなん。



「社長に不用意に近づいて来ておりましたので、少々警告をしたまでですわ。」


「少々?この惨状がか?」


何やら汗だくだくのボルドー氏に言われてよくよく周りを見渡すと、冒険者っぽい筋肉隆々の男達が壁にへばりつき涙を流しながら震えている。

中には粗相している者もいる。


何?殺気?殺気なのか?


ニコリと笑うフラウ君。

君、顔は可愛いけど、やる事が過激過ぎない?



「そもそも、アンタらはアルトス達に依頼しに来たんだろ?それなら表の依頼主用の玄関から入ってくれよ。こっちは冒険者用の勝手口だ。」


ほお?ギルドは入口が2つあるのか。

イギリスのパブみたいだな。


「冒険者なんざゴロツキみたいなもんだからな。

依頼主に変に絡む奴も多いから極力顔を合わせない配慮なんだが、まさか依頼主に冒険者が絡まれるとは思ってなかったぜ……。」


私としては絡んだつもりはないのだが……。


「そこの刃物好きに依頼なんだろ?良かったら俺達ギルドも1枚噛ませてくれよ。?」


ボルドー氏が私の名前を口にした瞬間、にこやかに笑っていたフラウ君が鬼の形相に変わる。

ボルドー氏の周囲に5つの花弁が描かれた魔法陣が浮かび、中から無数の社員達が飛び出して来た。


君達何してんの!?



「―――ボルドー様。万一、いえ、億が一私の聞き違えの可能性もあるので確認を致します。

今、社長のご尊名を呼び捨てにされませんでしたか?」


ギリっと社員の1人の手刀がボルドー氏の首に食い込み血が流れる。


手刀で血が流れるって何!?



「―――た、タチバナ殿、いやタチバナ様!色々お噂は聞いております!是非1度お話をさせて頂きたい!少々お時間を頂けませんでしょうか!?」


ど、どうどう!フラウ君!

いつもの可愛いフラウ君が私は好きだな!

だから笑って笑って!ね?社長のお願い!



タチバナ総合商社 社長の噂⑤

社長を呼び捨てにすると殺される。

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