脱走奴隷とゴミ山
「え?いや、どういう事?」
予想外の要求に、つい聞き返してしまう。
「な、なんだよ?食いもんだよ!お前達、金持ちは
「スラムのガキだからってバカにしてんのか!?
見た目よりめちゃくちゃいっぱい荷物が入る魔法の鞄があんだろ!?金持ちは皆持ってんだ!」
「そうだそうだ!そんな事、俺達だって知ってる!」
「その大事そうに抱えてるカバンがそうなんだろ!?」
「どうせ良いもん食ってんだろ!俺達にもよこせよ!」
「痛い目にあいたくないなら食いもんよこせよ!」
馬鹿にされたと思ったのか、若者たちが怒り出す。
……コイツら、脅すだけなのか?
ボコボコにされるとか、殺されると思っていたがそんな事もないらしい。
「―――貴方達。社長を前に不遜過ぎるわ。」
フラウ君がパチンと指を鳴らす。
若者達の足元に魔法陣の様な物が現れ、そこから黒い触手が彼等を拘束した。
「ちょっ!?なんだこれ!」
「何だこのニョロニョロ!キモイ!」
「いたっ!いててて!めっちゃ締め付けてくる!?」
「うぐっ!?く、首が……!」
若者達の足元に現れた魔法陣から黒い触手が若者達をかなりキツめに縛り上げている。
な、なにこれ……?
「『
チラっとフラウ君を見るとドヤ顔で説明してくれた。
「さ、流石だね。フラウ君。あー、ただ、もうちょい緩めて上げようか。締め上げ過ぎて死にそうだし……。」
「はい!」
良い顔で拘束を緩めてあげるフラウ君。
危うくコイツらを殺してしまう所だった……。
危うく過剰防衛に……いや、この場合殺してしまっても良いのか?
今ひとつこの国の法律が分からんな……。
「見たところ、この者達は脱走奴隷の様ですね。全員に『奴隷の枷』が付いております。」
よく見ると若者達の首や腕、足にはフラウ君に付いていた黒い金属製の輪っかが付いていた。
「……そうだよ。俺達は脱走奴隷だ。」
観念した様な顔でログ君が口を開く。
ほぉ?フラウ君でも成功しなかった脱走をコイツらは成し遂げたのか!ある意味優秀なんだな。
「それで食料を?普通、そこは金を出せという所じゃあないのか?」
食料は分かる。
よく見るとコイツらはガリガリだ。
恐らく何日も食べてないのだろう。
しかし、普通は金を出せと要求するもんじゃあないのか?
あ、まてよ。もしかして―――。
「はっ!俺らみたいなのが金を使える訳ないだろ?どんな店に行ってもマトモに相手されねぇ。下手すりゃあ騎士に追い掛けられるのがオチだ。」
拘束された脱走奴隷の1人が答える。
やっぱりそうか。
まぁ私が店の主でもコイツらに物を売ることはせんな。だってコイツらは日本風に言うなら逃亡犯だ。
この世界の奴隷の扱いがどうなのかは知らんが、少なくともそれは合法であり、そこから逃げ出したコイツらは違法で、犯罪者なのだ。
「見た目をどうにかすれば取り敢えず買い物くらいは出来るんじゃあないのか?枷を服で隠すとかすれば―――。」
「あー、無理無理。俺らみたいな奴隷にマトモな服なんか手に入らねぇよ!」
イラッ。
「それならそれで誰かに金を払って買ってきてもらうとか―――」
「はっ!そんな愁傷な奴いるわけないだろ!俺らみたいな脱走奴隷を誰が信用するってんだ!」
イライラ。
「だったら服を盗むとか―――。」
「どうせすぐにバレる!所詮俺達はどれ―――」
プチン。
「奴隷奴隷うるさいっ!!もうその言い訳は聞き飽きたわ!それが出来ない言い訳なら、良いだろう!そんなくだらん事を言えない身体にしてやる!」
バキンっ!
手直にいた奴の枷を乱暴に掴み、そのまま力任せに引きちぎる。
「……え?」
バキンバキンと片っ端から奴隷の枷を外して回る。
「ふははははははっ!どうだ!これでもう奴隷ではなくなったぞ!大体だな!お前達は気に入らん!犯罪をするならするで、もっと徹底的にしろ!
路地裏に旅人を連れ込んで、大人数で取り囲んで脅して食料を手に入れる?
馬鹿が!!
何故身ぐるみを全てはがんのだ!?
何故脅す前に問答無用で殴り倒さない!?
あ、そうだ!ちゃんと馬車に人はやっているんだろうな?」
「ば、馬車……?」
「はぁ!?商人の馬車なんか真っ先に確保するべきだろう!
コイツらの話からすると、恐らく見た目よりも色々入る鞄なのだろうが、旅の商人全員がその魔法の鞄を持っていて、そこに何もかもを入れているとは考えにくい。
取り敢えず馬車の確保はしておくべきだろう。
「いや、馬車を捌くルートがないし……。」
「だったら馬を食え!と言うか、捨て値で捌けば買うやつ何かいくらでもいるわ!商人だぞ!?腹黒い事が出来ない商売人なんぞおらん!」
「し、社長。アドバイスが具体的過ぎます……。」
「ふん!この程度の事、誰でも思いつく最低限のことだ!私がこんなに怒っているのはな!
尻に火がついている状況にも関わらず、言い訳ばかりして本気でやろうとしないコイツらの態度が気に入らんのだ!」
まるで、そう―――。
片親で成績が悪いから虐められて当然だと考え、無気力に過ごしていた頃の私のようではないか!
「お前達の下らん言い訳は全て潰してやる……!」
◆◆◆◆
宿場町の外れの大きな橋の下に、彼等の住居はあった。
いやね。住居と言うか、もう完全に野晒だよ。
その辺に落ちていた木の枝とボロボロの小汚い布を組み合わせたテント風のゴミ山の中に脱走奴隷達は寄り集まって生活していた。
私をカツアゲしようとした12名の男達の他に、拠点には24名の女や子どもの奴隷が隠れる様に身を寄せあっていた。
ふーむ。こんなにいたのか……。
中々の大脱走だった様だ。
聞くところによると、私に声をかけてきたログ君がリーダーになって頑張ったらしい。
思った通り、彼はなかなか優秀そうだ。
「取り敢えず飯の前にここを何とかしよう。こんなテント風のゴミ山で飯は食えん。フラウ君、ログ君。何人か連れて手伝ってくれたまえ。」
脱走奴隷の様子を見ると、それなりに飢餓状態になっている。あのお粗末な追い剥ぎもどきや窃盗、ちょっとした狩りをして何とか飢えを凌いでいたらしい。
子どもも5名ほどいるので、あんな様子では男達だけで全員分の飯を確保するのは難しいだろうな。
しかし、女性もいるんだし、身体を使うなんて仕事は駄目なのだろうか?
風俗は古来より続く、列記とした金稼ぎの手法だと思うのだが……。
……あんまり言うとセクハラになりそうなので辞めておこう。
「ま、チートでどこまで出来るかの確認にもなるしな。たまにはこう言うのも良いだろう。うん。」
ブラック企業経営者たる自分がなし崩し的に人助けをしてしまっている現実に言い訳をしながら手に力を込める。
一瞬、カッと光ったかと思うと、目の前にあったボロボロのテントもどきがしっかりとした作りの大きなテントになった。
モンゴルのテント、ゲルの様なイメージだ。
それを取り敢えず2つ。
雑魚寝になるが、まぁ寝れない事もないだろう。
「ふん。やはりな。この前のリフォームの時も思ったが、何も無い所から生み出すより、元からあった物質を変化させる方が楽だ。」
サービスとして、取り敢えず人数分の寝袋も出しておいてやる。
「うぉ!?な、なんだこれ?まさか旦那がやったのか!?」
「え、嘘……。こ、ここに住んで良いんですか!?」
「ログ。ソフラ。社長に対して不遜です。言葉使いを改めなさい。」
ログ君と、女奴隷の1人ソフラ君、そしてフラウ君がやってきた。
ソフラ君はブロンドの小柄な女の子だ。
歳の頃はログ君と同い年くらい。10代後半と言った所か?
女奴隷のリーダー的なポジションにいるらしい。
何やら満足気な顔でネズミが満載のカゴを持っている。……もしかしてそれを食う気か!?
絶対に食わんぞ!!
「すげぇ!ログ兄ちゃん!大量じゃん!」
「今日は何かのお祝い!?」
「これ食ったら母ちゃん元気になるかなぁ?」
ネズミの入ったカゴを持ったログ君にまとわりつく様に子ども奴隷達がやって来た。
……なるほど。
ここではドブネズミ数匹がご馳走らしい。
あんな不衛生な物を食っているのか……。
「ごめんなぁ。これは旦那をもてなす用なんだ。」
「その通りですよ。子ども達。活きの良いネズミは社長の物です。でも安心しなさい。社長は心の広い方です。あなた達にも施しを下さる筈です。」
君もかフラウ君!?
絶対食わんぞ!!
クソっ!善意しかないのがタチが悪い!
……取り敢えずさっさと飯も出すか。
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