開拓村と行商人

ふふふ。ふはははははははははははははは!

いゃあ!笑いが止まらん!!


何せ冒険者を雇いにギルドに行ったら、冒険者全員が是非雇って欲しいと詰めかけてきたのだ!


何でも報酬に魔剣が出ると言う噂を聞きつけた上位冒険者がボルドー氏を問い詰めたのだそうだ。


まぁ美味しい報酬の依頼を下位冒険者が独占していたらそりゃあ面白くないだろう。


すったもんだあったが、もうややこしいのでボルドー氏も含めてバーバレスト冒険者ギルド127名全員雇う事にした。


取り敢えず期間は2週間。ボルドー氏が他の依頼がどうとか文句を言っていたが、魔剣の数を1人2本にする事で黙らせた。


何せ報酬は掃いて捨てるほどあるからな。

と言うか、そこまでしてもたった254本しか消費が出来ないのが残念だ。


1人3本と言えば良かったかもしれん。



ともあれ、人数が増えてもやる事に変わりはない。

やる事も単純だ。


帰らずの森と街道の間に草原地帯があり、そこに先行チームが拠点を作って魔物退治をしている。

そこに追加する形で冒険者チーム127名を突っ込んだ。


開発をする前の地盤固め、要は魔物退治だ。


戦果はそれなりに出ているらしく、安全を確保出来たと報告が来たのでフラウ君先導のもと、私は現地に向かった。



到着した草原地帯には大小様々なテントがいくつも建てられ、簡易ながら堀や柵もある立派な野営地となっていた。


ちなみにテントは冒険者が持ち込んだ物以外は全て私が以前出したモンゴルの遊牧民が使うテント、ゲルを参考に作られている。


布と木材を使ったドーム状の大型テントだ。


食事は討伐した魔物や森で採れた果実、持ち込んだ野菜等を利用して全員分をまとめて作って配給しているらしい。


装備についてはザップ氏率いるドワーフ達が早速簡易の工房を立ち上げ、冒険者達な社員達の装備の修理や調整を行っているみたいで、鉄を叩く音が辺りに響く。


住民は全員武装していて少々物騒だが、活気の溢れる小さな村のような様相となっていた。


……もうこれで良くない?



◆◆◆◆



「いやぁ、本当に助かりました!タチバナ様!」


「全くですわ。オーガが迫って来た時はどうなる事かと思いました……。」


異口同音に感謝の言葉を述べるアーノルド夫妻。



つい先程、拠点の中央部にある私用のゲルで2人は目を醒ました。


個人用と言っても複数のゲルを組み合わせた巨大な物だ。リビングもあれば食堂、寝室もある。完全にVIP仕様だ。


ちなみに用意したのは先行チームのログ君達だ。

中々彼も分かってきた様だ!


ベットや机などの家具については私がチートで出した。彼等でも用意しようとしてくれたのだが、街から輸送する手間と品質を考えると自分で出した方が楽だからな。



聞くところによると、この2人は行商でバーバレスト領に向かう最中にオーガに襲われたらしい。


そんな時、タイミング良く私達が通りがかったと言う訳だ。



「いえ、特に私は何もしておりませんので……。」


別に遠慮や謙遜をしているのではない。

私は元より一緒にいたフラウ君達も含めて本当に何もしていないのだ。


私には2人を助けたつもりなどサラサラない。馬車が止まったので降りたら真っ黒に焼け焦げた地面に倒れていた2人がいただけだ。


「あの2頭は聖獣ですしね。オーガ程度には後れを取ることはありませんわ。」


フラウ君が軽くドヤる。


そうなのだ。ウチの馬がやったのだ。

ウチの馬は聖獣スレイプニールと言う雷と炎を操る八本足の馬風の何かだ。


頭も良いので目的地まで勝手に走ってくれる。

御者も不要だ。


街道を走っている最中に襲われているアーノルド夫妻を真っ先に発見し、良かれと思ってオーガを焼き払ったらしい。


しかし……。


コンコンとドアをノックしてからソフラ君が入って来た。


格好こそいつものパンツルックの黒スーツ姿だが、腰には細い剣が下げられている。


スーツじゃなくて鎧を出すと言ったのだが、ウチの社員達は社員としてのプライドがどうとか言ってこれを固辞し、スーツ姿で通している。



「ご報告します。アーノルド夫妻が倒れていた地点から半径10キロ圏内を探索した所、馬と壊れた荷馬車、そして散乱した荷物を発見しました。

馬は兎も角、荷馬車と荷物の方はもう使えないかと……。」


やはりか……。

ウチの馬がやらかした様だ。


2人を助ける際の轟音と炎に驚いて夫妻の馬が驚いて逃げてしまったのだろう。


どれだけ賢くても馬は馬。

人間の機微が分からんらしい。


「あー、その、なんと言えば良いか……。」


「いえいえ!命あっての物種です!荷馬車と商品で済んで本当に良かった。」


「そうですわ!こうして夫と五体満足で助かっただけで充分です。お金は持ち出せましたし、また商売をすれば良いだけですわ。」


「そう言って頂けるなら救われます。」


「私はこれでも行商人としては歴が長いので、大体の物はご用意させて頂けます。もし今回の事を気に病んでいらっしゃるなら是非何かあれば声を掛けて下さい。」


アーノルドが革手袋を外して握手を求めてくる。


実に出来た人達だ。

実際問題、保証しろと言われても困るしな。


日本ではこの手の人命救助の場合、起こった被害は基本的に被害者負担になる。


アパートで一人暮らしの老人が鍵のかかった部屋で倒れた時、助ける為に窓ガラスを割っても助けた側に請求する事は出来ない。


つまりその老人が直すべきであり、最終的にはそのアパートのオーナーが負担する羽目になる。


ちなみにこれは過去に私がオーナーをしていた賃貸アパート実際あった話だ。


その老人はそのまま亡くなり、泣く泣く私が窓ガラスの修繕やら亡くなった部屋のクリーニングやらを負担する羽目になった。


まぁ要するに、私がこの2人に負い目を感じる必要はないのだが……。



握手にこたえようとして、彼の手袋が目に入る。


「その手袋、かなりいい物ですな。貴方の手にピッタリと張り付く様に作られていますね。革手袋をその薄さで皺が出来ない位ピッタリに作るのは素晴らしい技術だ。」


実際、地球でもこの技術は中々ない。

高級既製服プレタポルテでも無理だ。

完全に高級特注品オートクチュールの領域だな。



「おや。お目が高い!そうなんです。こちらは南方のナムール国の有名工房でオーダーメイドした物になります。フレアリザードの革の処理と言うのはかなり難しいのですが、向こうは革製品が盛んな土地でしてね!」


マジマジとアーノルド氏を見る。

私の感覚とは少し違うが、現代日本でも通用するスーツスタイルだ。


ちゃんとジャケットの袖から中に着たワイシャツの

袖が見えている。肩や胸周り、着丈も丁度良い。


こちらも間違いなくに高級特注品オートクチュールだ。


見た目が全てとは言わないが、私の経験上だらしない格好をした営業マンの殆どは使えない奴が多い。


そう言う意味ではこのアーノルド氏は中々良さそうな営業マンだ。


取り敢えず在庫の処分先も考えなければならないし、まともな営業が欲しいのも確かだ。


1度話だけでもしてみるか……。



「それなら話だけでも聞いてみませんか?

実は事業の一環でドワーフの工房と提携しまして―――。」

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