王国動乱編
神魔都市『シトラス』
エルエスト王国の中心にある王都より西に側にあるバーバレスト領。
その中間地点にある魔境、帰らずの森に突如として街が出来た。
その噂は瞬く間に冒険者を中心に広まった。
何せその街には驚くほど高性能な魔力が込められた武具が格安で販売されていると言うのだ。
その他にも様々な効能を持つポーション、魔草、聖草、そして良質な魔石や魔宝玉等など、希少な素材で溢れている。
そしていつの間にか大陸中の戦士や魔術師が挙ってこの街に訪れる様になった。
その街の名は『シトラス』。
タチバナ総合商社の本拠地である。
ふふ。ふふふふ。
ふははははは。
あーっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!
笑いが止まらんとはこの事だ!
いやぁ生きるって素晴らしい!!
着手から約1ヶ月、村の開拓はほぼ軌道に乗った。
森を切り開いて出来た100ヘクタールを超える広大な平地のど真ん中にチートで建てた白亜の館。
その館の西側にある執務室で私はふんぞり返って座っている。
館は中央の本館と左右に広がった東館と西館を備えた地上4階、地下2階建ての作りだ。
全体の雰囲気は16世紀のパッラディーオ建築が取り入れられ、どことなく古代ギリシアやローマの建築を彷彿とさせる。
うん。まぁ要するにホワイ○ハウスである。
この世界の雰囲気にマッチした豪華な館という条件で生み出したらこうなった。
ちなみに第2候補は国会議事堂だった。
まぁこの建物も現代でバリバリ使われている現役選手だが、ベース自体は近代の建物だしこれで良いかと思っている。
楕円形の執務室には、机の後ろに南向きの大きな窓が3つあり、北端には暖炉がある。
たまにニュースで見るあの部屋だ。
部屋を飾る家具は全て私がチートで出した。
と言うよりもこの館を出した時にまとめてセットで付いてきたのだ。
やっぱりチートは便利だな!
商売も軌道に乗っているし、向かう所敵なしだ!
ふはははははははははは!
……しかし、別に文句はないのだがこの街は『白亜の館』を中心に同心円状に広がっている。
何故、社員達は都市を円形にしたがるのだろう?
ニューヨークや京都みたいに碁盤目状の都市の方が区画管理からすると楽だと思うのだが……。
「社長。ボルドー様が起こしになられました。」
椅子に座ってクルクル回っているとフラウ君に声を掛けらた。
おぉ。もうそんな時間か。
確かそんな約束をしていたな。
執務室の大きな扉からのっそりと筋肉質の大男が入ってくる。
「わざわざ時間を貰ってすまねぇな。タチバナ社長。」
「別に構わんよ。シトラス冒険者ギルドの件だったかな?」
シトラス冒険者ギルド計画。
元々バーバレスト冒険者ギルドに大量の魔導具を納めていたせいか、開拓期後半から冒険者達がウチの売店目当てで出入りする様になった事に端を発する計画だ。
私としても在庫処分が出来て現金収入になる冒険者ギルドはお得意様だし、断る理由は何もない。
「ああ。なんせ国外からも冒険者がこの街に詰めかけてるからなぁ。ギルドとしても最低限この街に管理組織を常駐させときてぇんだ。冒険者何て所詮は荒くれ者の集まりだしな。」
そうなのだ。
この街の住人はウチの従業員200名足らずだが、その10倍以上の冒険者達がこの街に出入りしている。
その他にも魔術師ギルドやら商人ギルドの関係者も混じって混沌とした状況となっている。
「まぁ冒険者達が何か諍いを起こしたなんて話は聞いてないし、普通にしてくれるならむしろどんどん来てくれて問題ないがね。なんせ今でも供給の方が多いんだ……。」
ウチの開発部の連中、セレスタ君の空間魔法とやらで在庫問題が解決した瞬間に生産量をさらに上げやがったのだ……。
「……ここで面倒を起こす奴なんかモグリだよ。
しかし、まだ在庫で頭を悩ませてんのか?
アンタが作るのを止めたらいいだろうに。」
「あー、それはそうなんだが、こうなった原因は私にもあってね。止めにくいんだよな……。」
実はさらに生産効率が上がったのには事情がある。
その原因は私の思い付きなので、中々止めろと言い難いのだ。
「何にせよ取引量が増えるのは良い事だ。
これからもよろしく頼むよ。シトラス冒険者ギルド長殿。」
「まだ正式決定じゃあないがな。ま、乗りかかった船だ。こちらこそ頼むよ。町長殿。」
◇◇◇◇
シトラスは中心にあるタチバナの個人宅兼社屋である『白亜の館』を中心に同心円状に広がっている。
大雑把に分けると白亜の館、生産施設や社員の居住区、販売店、そして外周側に宿屋等の外部の人間が出入りする設備が固まっていた。
その外周部の中でも比較的街の出入り口に近い位置に冒険者ギルドの建物が建てられている。
「―――つくづく仕事が早い連中だ。
もう殆ど出来上がってるじゃないか……。」
真新しい建物を眺めながらため息をつくボルドー。
タチバナへの挨拶も早々に建設中のギルドを見学に来たのだ。
パッラディーオ建築の特徴たる列柱を用いた、優雅な作りだ。所々施された彫刻は職人技が光る。
まるで貴族の館の様だなとボルドーが呟く。
街作りの際にイメージ写真としてイタリアのヴェネツィアの近くのヴィチェンツァの画像を社員達に見せていたので、まさに貴族のカントリーハウスがモデルになっている。
建物自体の大きさもバーバレスト冒険者ギルドの比ではなく、王都にあるエルエスト王国本部よりも巨大であった。
「中も綺麗。さすがタチバナ総合商社、良い仕事をしている。」
無表情にフンスと鼻を鳴らすレティ。
今回はボルドーの護衛を兼ねて白雷の牙もこの街にやって来ており、タチバナとボルドーが話している間に抜け駆けして中の見学も済ませていた。
「見た目は優雅だが、建物の配置も建材もえげつないねぇ。タチバナの旦那がいる白亜の館を中心に社員達が詰めている建物が建ってやがる。しかもこの街の建物は全て魔樹製。この白い漆喰みたいな素材もレンガも普通の物じゃあないね。」
レティの隣にいた戦場経験の豊富なカテリナが感想を述べる。
「平和な国だと街を綺麗に見せようと四角く街を区切って幾つも大通りを作るんだが、ここは違う。
不要な大通りを作らずに要所要所に建物を置いて警備してる。守りやすく攻めにくい、そんな都市計画に沿っているみたいだな。」
「おいおい。穏やかじゃねぇな……。
まるで―――。」
戦場経験の長いカテリナの話を聞いて、内心冷や汗が止まらなくなるボルドー。
「―――まるで戦争を想定した要塞の様ですよね。」
突然声を掛けられてビクリと震えるボルドー。
恐る恐る振り返ると、そこにはにこやかに笑う社員のログとソフラが立っていた。
「え、あ、あぁ。そ、そうだな?」
動揺を隠せず挙動不審になるボルドー。
余計な事に気付いた自分は殺されるのではないかと気が気ではない。
「ははっ。あんまりギルド長をいじめないでやってくれ。ログ君、ソフラ君。」
2人の背後からアルトスが爽やかな笑顔でボルドーの杞憂を笑い飛ばす。
「開拓は終わったとは言え、帰らずの森は今だ健在だもの。魔物の襲撃に備えてこの街の主要施設を中心に砦の様な街にしてるのよ。」
マリーナが補足する。
「ええ。その通りです。社長のタチバナも人は石垣、人は城、人は堀と申しておりました!
その言葉の通り我々社員一同が迫り来る脅威から一丸となって社長をお守りする所存です!」
言葉の意味は諸説あれど本来はそんな意味ではないのだが、社員達は物理的に武田信玄の言葉をタチバナの言葉と解釈した結果こうなった。
「旦那がそんな事を言ったのか?」
「はい!」
「そう言う意味じゃあない気もするけど、貴方達らしいわねぇ……。」
「違いない。」
あははと笑う白雷の牙の面々とログとソフラを後目にボルドーの焦りは止まらなかった。
(理由はどうあれ、首都の真横に砦を作った様なもんだぞ……!?しかもタチバナが生きている限り無補給で永遠に戦える超越者の軍隊だ。不味いなんてもんじゃあねぇ!)
ボルドーの予感通り、これより自体は国中を巻き込んだ騒動へ発展して行く。
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