食事会議と教会

先程、何故かへたりこんでいたマリーナ君に声を掛けたら、「ひぃっ!CEO!!」と叫ばれてしまった。


まぁCEOとは会社の代表を表す英語なので、そうだと答えたら気絶してしまった。


アルトス君達が回収して行ったが何だったのだろうか……?


しかし、この世界の文字はどうなっているんだ?

アルファベット?


どうもあの神とやらは、ちょくちょく異世界人をこの世界に招いてる様なことを言っていたので、どこかで英語や日本語が使われているのかもしれんな。


ともあれ。


私も魔力の使い過ぎで倒れた事だし、もう今日はこの辺で休もうと言う話になった。




「ふぅん?つまり、バーバレスト家は武門なのか。」


「はい。父はかなり厳しい人で、一人娘である私に他の騎士達と同様の訓練を施しておりました。自他共に厳しい人柄です。」


「本来、娘であるマイヤには戦闘訓練をする必要はないのですが、武門の娘たれ、とご当主手ずから訓練を施されておりました。私の目から見てもかなり実戦的な内容でした。」


「しかし、そんな父も、よる年波には勝てず、昨年の冬頃、病に倒れました。」



大きな天幕に、幾つも取り付けられたLEDランタンの明かりの下、色とりどりの食事が並べられている。


テーブルの上にはイノシシ肉を使ったステーキやシチュー、腸詰め、パンが並んでいる。


雇った冒険者の1人であるレティ君が元猟師だったらしく、彼女が大きなイノシシを仕留めてきたらしい。


まぁいくら大きいとは言えこの人数だ。

社員達の食事は私がチートで出した。


ちなみにアルトス君達はチートの食事ではなく、私と一緒にイノシシ料理を食べている。

いや、この場合は私がアルトス君達に食べさせて貰っているが正解かな?


自分で出したものを取り込むのが何だか嫌なのだ。


モリー君とマイヤ君を皆に紹介し終え、バーバレスト領の現在の状況を聞いている。


予定通り行けば、明日商談をする相手なのだ。

情報は少しでも多い方が良い。



「なるほどなるほど!侯爵が亡くなったタイミングでマイヤ君とモリー君を結婚させ、モリー君を侯爵に添えようとした訳だ。」


パクリとイノシシ肉の分厚いステーキを食べる。

美味い!


下処理が良いのだろう。

少々の獣臭さがむしろアクセントとなって、岩塩とニンニクチップと合わさった暴力的な旨みが私の舌を襲う。喜んで蹂躙されようじゃないか。



「モリーは身分こそ騎士階級でしたが、騎士団長を務め、社会的にも認められた立場の人間でした。

―――小さい頃からそうなるように色々と手を回したのに……!それをあの叔父が……!ぐぎぎぎ。」


「マイヤ。落ち着け。社長の御前だぞ。」


まぁ10年計画の成功直前で、身内の叔父にひっくり返されたんだ。

さもありなん。


「……お恥ずかしながら、油断していたと言うのはあります。不相応にも騎士団長を任せられ、5年かけて騎士団の面々からは信頼されていたと自負していたのですが……。」


しかし、その騎士団にも裏切られた、と。

説明を引き継いだモリー君が苦い顔で告げる。


この短い間でも、モリー君が責任感のある実直な人間だと分かるし、それなりに騎士として優秀だったのだろう、が……。


「軍閥だ何だと言っても、軍だけで国は回せん。

官僚等の文官も取り込むべきだったんだろうな。」


所詮、軍や騎士団は国や領地の暴力装置だ。

どれだけ頑張っても領地の管理は出来ん。


腐敗や癒着だと問題があっても、官僚制度がなくならないのはそれなりに理由があるのだ。


「えぇ。本来は官僚の掌握は私がするつもりだったのですが、叔父上の方が1枚上手だったのでしょう。……まぁもう過ぎたことですが。」


だろうな。


年下の上司が年上の部下を管理するには、完全に好きにやらせるか、完全に屈服させるしかない。

中途半端が1番だめだ。


屈服させる方法は、実績や実力で黙らせる。

権威や権力で押さえつける等など。


残念ながらマイヤ君には、叔父と比べてどれも足りてなかったのだろう。



「その叔父とやらはどんな人間なのですか?」



フラウ君が会話に入ってくる。


確かにそうだな。モリー君とマイヤ君的には領地や地位に未練がないのであれば、我々のやる事は決まっている。


商売ぼったくりだ!!




「マイヤの叔父上、レブナント様は文官寄りの方ですね。かなり信心深い方で、聖刻印教の信者です。毎週教会に顔を出しているようですね。」


ほーう?教会ねぇ。



「取り立てて珍しくもない、よくある貴族っぽい。

聖刻印教の熱心な信者は貴族に多い。ウチも一応、全員が信者。」


「こら。レティ!俺達はあくまで部外者なんだぞ!す、すいません。タチバナ様。」


「いやいや、オブザーバーの感想と言うのも貴重な意見だ。ちなみにアルトス君も信者なのかい?」


「おぶ……?え、ええ。基本的には平民も産まれた際に行う〝命名の義〟で入信しますし。

俺の場合は、ラインバックの家名を頂いた時の〝加名の義〟の際にさらに追加の洗礼も受けました。」



命名の義ねぇ?

キリスト教圏なんかである洗礼に近そうだな。


話を聞く感じかなり大きな宗教っぽい。

産まれた時に名前を付けるのと同時に洗礼するなら、ほぼこの国の全員が信者となる。


つまり、貴族や王族も信者な訳だ。


王権神授説とか言ってた中世ヨーロッパを連想するな。まぁ日本では近代になっても天皇家は現人神やら何やら言っていたし、そんなもんだろう。


宗教、ねぇ……。


案外その教会とやらは、使えるかもしれんな。



「例えば、教会の権威を使って交渉を有利に進める、と言うのもいいかもしれんな。」


「そ、そんな事可能なのですか!?」


アルトス君が動揺している。

まぁ信者の人間からすると、教会を利用するなど考えた事もないかもしれんな。



「いや、そんな大それた事は考えてはいないがね。

ドライセル男爵に書いてもらった紹介状はあるが、あくまでもこれはマイヤ君のお父上に宛てた紹介状だ。レブナントに対しては少々弱い。」


と言うより、最悪会ってすら貰えないかもしれん。


「あぁ。なるほど。そこで教会からも紹介を貰いたい、という訳ですか。」


「そうだ。まぁどの程度影響があるかは分からんがね。多少お布施をして、レブナントを紹介して貰えないかなって話だな。まさに、神頼みさ。」


「そう上手く行くかねぇ?教会は全人種の守護者をお題目に掲げた独立組織だ。特定の人種や国に肩入れはしないぞ。旦那。」


ワイルドに肉を噛みちぎりながら、カテリナ君が注意をしてくる。


彼女は肉を食う様が実に似合うな……。



「その辺も含めて神頼みさ。」



ふふん。まぁそれなりに勝算はるがね。


私の考えでは、その教会とやらは間違いなく腐敗している!!


何せ種族問わず、平民どころか、貴族やら王族すらも信者。しかも地位が上がれば熱心な信者も多いと来たもんだ!


つまり、寄付金は湯水の様に流れてくるし、信仰と言う名目で地位や名誉もドバドバだ!


これはもう棚からぼたもちどころの騒ぎじゃない。

空から大量に金塊が降ってくる様なもんだ!


これで腐敗しないはずがない!!


人間とは、より良きを求めて行動する。

今より優れた環境を、今持つ物より優れた物を求め、より高みを目指そうとする。


そして言い方を変えれば、より楽な状態を、より便利な物を欲しているのだ。


私から言わせれば、向上心も堕落も同じ事だ。

それは国や世界が変わろうが、人が人である限り変わることはない!


つまり、ちょっと寄付金を積んでやれば喜んで手を貸してくれるはずだ!


なーっはっはっはっ!!!

何なら本当に金塊を空から降らせてやっても良い!

そんなもの幾らでもチートで出て来るからな!


……いや、それは当たったら危ないな。




「さ、明日の商談が無事に決まる事を願って、今日は楽しくやろうじゃあないか!」


よーし。明日は頑張るぞ!!

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