社長は勝つのがお好き

ふはっ。ふはははっ!

ふはははははははははははははははっ!!


生き延びた!生き延びたぞっ!


まさか商談に王都までわざわざ出向いたら、ウチの従業員が商談相手を北京ダックにするとは……。


つーか、彼奴らブラック社員どころかガチの犯罪者じゃないか!?いや、テロリストか?しかも宗教を拗らせたタチの悪いやつだ。


チートで復活させて勢いで乗り切ったが、下手をしなくてもその場で官慶に取り押さえられて殺されてもおかしくなかった!


そりゃあ確かに私は悪人寄りだよ?

実際、地球では脱税やら何やらでお縄を頂戴もしたさ!


でもあれはやりすぎだろう!


まぁいい!二度とウチの従業員を連れて商談なんかせんぞ!!


え?そんな危険な奴らを罰しないのかって?

尖ったナイフ所か安全装置のない核弾頭みたいな奴らにそんな事出来るわけないだろ?


ホント、なんでこうなったんだ……。



「あ、あの……タチバナ様?」


見ているこっちが申し訳なくなりそうな程恐縮した顔でアーノルド氏が声を掛けて来る。


「あぁ、すみません。少し考え事をしてえりました。―――どうです?中々の物でしょう!」


「は、はい。素晴らしいお屋敷です……。」



商人ギルドの話の後、皆で物件を見学に来たのだ。

一応レジナルド君には買うとは言ったが、まだ本契約前だからな。


粗があったら追加の値引き交渉をしてやる!



「どうです!タチバナ様!アーノルド様!素晴らしい物件でしょう!」


どこぞの通販会社の社長さん、いや、今は会長か?

ばりの特徴的な高音でレジナルド君が屋敷を案内する。


「場所も物も間違いなく1級品です。ただ、先程お話した諸事情のせいで貴族位の方々としては買取りにくい為、長い間塩漬けになっていたのです。」


スニード氏が補足説明をしてくれる。


レジナルド君も駄目ではないのだが、メリットばかり話してデメリットも話さないのはなぁ……。




元々は没落した子爵だか伯爵の屋敷だったらしい。

金と地位に任せて王都の中心街の一角に建てられた広大な屋敷だ。


何ヘクタールなのかは分からないが、かなり広い庭と母屋、複数の館で構成されている。


少し野暮ったいが、イギリスのカントリーハウスみたいな造りだな。


まぁ王都の中心にこんなどデカい物を作ったせいかその貴族の財政は悪化、さらに様々な横領やら不正が発覚し取り潰しになったらしい。


出る杭は打たれると言うか、絵に描いたような転落模様だな。


そんな訳でこの屋敷は王都の腐敗の象徴の様な扱いを受けており、引き取り手のないまま商人ギルドが管理を押し付けられていたのだそうだ。


しがらみの多い貴族連中には買いにくい物件だが、何のしがらみもない私達の様な小金を持った一般人なら気にしなくて良いと言う訳だ。



「し、しかし、こんなお屋敷を本当に私が頂いても良いのでしょうか……。」



うんうん。これだよ!これ!

嬉しいんだけど扱いに困る物を押し付けられたリアクション!


こう言うのを求めているんだ!


間違っても感涙しながら土下座したり、謝罪として殺して欲しいと嘆願したりではない!!


実にアーノルド氏は常識的で好感が持てる!



「勿論ですよ!ここをアーノルドさんの住居兼店舗にしたらどうかと思いましてね!」


「こ、ここを店に……?」


「ええ!百貨店と言いましてね。ここを5階建てくらいの建物に建て直して様々な高級品を並べようと思っているんです。」


「つ、つまりこの国、いえ、王都に住む貴族向けの超大型商店という訳ですか……。し、しかし、王都の貴族より……あ、いえ、何でもございません。」


……ん?今何か言葉を呑み込んだか?


何だ?私への不満と言う感じでもないな。

まるでこうした方が良いという考えを私への配慮で呑み込んだ様な……。


「アーノルドさん。もしかして何かお考えがあるのでは?」


「い、いえ。私などの意見などとても……。」


やはり図星か。

恐らくアーノルド氏としては私との業務提携は非常に魅力的だと感じているのだろう。


実際、とんでもない売上を叩き出した訳だしな。


だからこそ、私に意見して機嫌を損ねてしまうことを危惧しているとみえる。



「ふむ。確かに私の方が年上ですから商人歴としては私の方が長い。しかし、この国での経験は貴方の方が長いでしょう。私では見落としていたり、知らぬ知識もまだまだ多い。

これでも、私は貴方を頼りにしているんですよ?」


今回の売上の最大の功労者はアーノルド氏だしな。

私では貴族への伝もなければ知識もない。


時間を掛ければ似たような事が出来るかもしれんが、この辺はアーノルド氏に一日の長がある。



「そ、そこまで仰っていただけるなんて……き、恐縮です……!」


照れまくるアーノルド氏と3歩下がって微笑ましく夫を眺める妻のアンネ氏。


いつもスカーフを頭から被っていて表情も分かりにくいが結構な美人さんだ。


実に羨ましい限りだな。


……ん?


私達のやり取りをまるで値踏みをする様な目線でスニード氏が見つめている。


完全に商売人の顔だ。


「立ち話も何ですし中に入りませんか?立派な応接間もございますので、込み入ったお話は腰を据えて致しましょう!」


先程の表情が嘘のように人当たりの良い笑みを浮かべてスニード氏がアーノルド氏に声を掛ける。


「え、いや、でもこんな立派なお屋敷を使うなんて……。」


「はっはっはっ。何をおっしゃっているんですか。ここは貴方様のお屋敷になるんですよ?」


朗らかに笑いながらアーノルド氏を屋敷に誘うスニード氏。


貴方様のお屋敷になる、ねぇ?



「くくっ。狸親父め。ちゃんと商売人をしているじゃあないか。」


「……社長?」


ボソリと笑う私にフラウ君が何事かを尋ねてくる。


「恐らくだが、私の百貨店を作る案よりもアーノルド氏が言いかけた案の方がより儲かる可能性が高いんだろう。」


そしてそのアーノルド氏の案ではこの屋敷は必要ない。


買うとは言ったがまだ本契約前だ。


最悪、この話がなくなると読んでスニード氏は私ではなくアーノルド氏に営業を掛け始めたのだろう。



「つまり、あの狸は社長に損をさせようとしたのですね?」


ザワりとフラウ君の空気が剣呑な雰囲気に変わる。


「あぁ、違う違う。スニード氏の様なタイプなら流石に損するのが目に見えているのなら止めて来るはずだ。」


短いやり取りしかしていないが、それくらいは分かる。


「自分に利益がない100%の得を私にさせるより、自分にも利益があって尚且つ80%の得をさせる方を選んでいたと言う話さ。商人なら当然の選択だよ。」


「そ、そうなのですか?」


フラウ君の剣呑な雰囲気が薄れる。

ふぅ。危ない危ない。


本当に導火線に火がつきやす過ぎる。


「それに百貨店の案を出したのは私だしね。

より利益になりそうな案に気付いていたが黙っていたと言うのを咎める事はできないだろう。」


スニード氏は社外の人間だしな。


くっくっくっ。信用出来るが油断ならない取引相手。控えめに言って最高だ。


「なんと言うか……楽しそうですね。社長。」


「あぁ、そうだな。ああ言うスニード氏の様な相手や私から踏んだくろうとする相手をねじ伏せる。

私にとって最高の瞬間さ。」


そうやって勝利を積み上げ、1代で大企業を立ち上げたのだ。


こう言うとまるで戦闘狂のようだが、別に戦う事は好きではない。私は勝つ事が大好きなのだ!


さぁ、どんな話が聞けるのか楽しみだ!

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