ヘッドハンティング
「私達が駆け付けた時には、既にあの二人は襲われておりました。野党共は倒したのですが、その時にはもう……。」
痛ましそうな顔でソフラ君が教えてくれた。
近くで見てみると騎士の方は全身傷だらけで血を流し、真っ白な顔をしている。
女性の方は胸元にぶっとい矢が刺さっており、深紅のドレスをどす黒く染め上げている。
一応、2人とも息はある様だが、素人目から見ても重症だ。
「一応、マリーナが回復魔術をかけはしたが、傷が深過ぎて意味がなかった。……2人ともそう長くはないだろう。」
カテリナとか言うごつい女戦士が頭をかきながら近寄って来た。
「おいおい、なんてこった。他に生存者は?」
「それがおかしな事に、襲われたのはあの貴族のお嬢ちゃんと騎士の2人だけ。それに見てみな、旦那。あの野盗共の使っていた武具。汚れちゃあいるがやけに装備が良い。揃いの金属鎧なんて、まるでどこぞの騎士団みたいじゃあないか。」
雇い主である私に配慮してくれたのだろう、鎧や武器だけを死体から剥いで纏めてくれている。
厳つい見た目の割に、なかなか仕事の出来る奴である。
確かにカテリナの言う通り、鎧も剣も似たような規格の製品だ。
「あー、つまり、なんだ。貴族の厄介事に首を突っ込んでしまったという事か?」
「お家騒動か、他の貴族がこの領地にちょっかいを掛けてるのかは知らんがね。まぁ間違いなくバーバレスト侯爵絡みではあるさ。」
それ取引相手ぇっ!!
おいおい。さっさと商談をして一儲けしようとしていた矢先にこれか!
いや、待て!まだ下手人が他領とか他国の場合がある!それならばこの2人が討たれた情報を正確に伝えれば費用の回収が出来―――。
「……こ、この度はご助力、か、かたじけない。」
血を流し過ぎたのだろう。
真っ青な顔をした騎士が口を開く。
「ちょっ!あんたは魔術が効かないくらい重症なのよ!?喋るな!あんた達!もっとしっかり押えて!とりあえずでもいいから傷を塞ぐわよ!」
傍らで包帯を巻いて少しでも血を止めようとしているマリーナ君とウチの従業員達。
どうやら、魔術も万能ではないらしい。
「こ、の傷だ……。もう俺は助か、らん。それならマイヤール様を、彼女を頼む!」
「な、なりません……。モーリアス。私の愛しい騎士。貴方と共に生きたい。それ、が私が唯一望んだ事で、す。死ぬる時も一緒に―――。死後の世界までは叔父上も追っては来ない……。」
「何を馬鹿、な事を!君、はバーバ、レスト領の正当な、後継者なんだ……!」
「貴方と、一緒になれぬの、なら、そんな地位など、無用の直物、です。」
はい来たアウト。
お家騒動確定です。
やはりあの野盗共(仮)は、野盗じゃあない。
この娘の叔父とやらが放った刺客なのだ。
バーバレスト侯爵が存命かどうかは知らないが、どうやら当主交代の話が出たのだろう。
そして、この矢で撃たれた瀕死の娘。
この娘こそが侯爵唯一の直系で、正当後継者なのだろう。
この騎士との結婚と同時にバーバレスト領を継ぐという段取りだったのだろう。しかし、この娘の叔父が横槍を入れた、と言う訳か。
割とよくある、チンケなお家騒動だ。
「ホント最低ね。当主の座なんて物の為に、自分の姪を殺そうとするなんて……!」
マリーナ君としても色々思う所があるのだろう。
献身的な治療をしつつも、怒りを顕にしている。
「確かにな。マリーナ君の言う通り、当主の座が欲しいなら、直接彼女を狙うのは下策だ。
そこはもっと平和的かつ穏便に陥れるべきだな。
彼女の口から当主の座を是非とも譲りたいと言わせるのがベストだろう。」
「穏便に陥れるって何なのよ……。」
強引なM&Aで会社を乗っ取っても、中々上手く行かないからなぁ。
真綿で首を絞めるように、ゆっくり着実に乗っ取りをするべきなのだ。
「まぁ要するに、強引な手段で事を急いては、仕損じるって事だ。中途半端に強硬手段に出るなら、むしろ1度ぶち壊して、1から作り直す方が早かったりするもんさ。」
いや、案外そうしているのかもしれんな……。
既にこの娘の叔父とやらは、領内の掌握を終えており、最後の見せしめとして2人の命を狙ったのかもしれん。
……さて。どうしようかなぁ。
私としては、この2人がどうなろうが関係ない。
1番楽なのはコイツらを見捨てる事だ。
そうしてドライセル男爵から貰った紹介状を使ってこの娘の叔父とやらに商談を持ちかければ良い。
何ならコイツらの死を伝えてやればきっと良い取引も出来るだろう。
……ふむ。しかし、貴族。
貴族ねぇ。
コイツらを取り込んでしまうのも、一計かもしれんな。
我社は、勢いでタチバナ総合商社なんて名前は付けても、現在はどこにも届出すら出していない非合法組織だ。
つまりは、野良社員である。
ここが異世界だろうが何だろうが、商売をするには国か領主かギルド何かの許可がいるだろう。
税制何かの情報も調べねばならない。
このまま非合法でやっても良いのだが、どうせやるなら表の世界で手広くやりたい。
しかし、社長の私は異世界人で、この世界の法律が分かっておらず、大部分の社員は元奴隷の無教養ばかり。
そもそも、市民権すらないのだ。
体制側の人間の取り込みは必須と言える。
唯一フラウ君が知識人ではあるが、エルフと言う異人種の為、人間の国の法律には明るくないらしい。
つまり、税金対策や法務等の事務を担当出来る人間が欲しい!
よし。ここはその線で行こう!
さて、こちらの方針は決まったので、交渉をしようと並んで横たわる2人を見下ろす。
……これ話が出来るのか?
どう見ても2人とも瀕死である。
騎士の方は、巻かれた包帯がどす黒くなるくらい
血だらけで、顔色は白を通り越して土気色だ。
娘の方は胸に親指より太い矢が突き刺さり、吐く息はヒューヒューと変な音を立てている。
うーん。私としてはコイツらに死なれると不味いのだが、どうしたもんか?
先に傷を治す方が良いかもしれ……。
カッ!!!
そんな事を考えていると私の右手が光り出す。
何これ!?何これ!?
光が収まり、目を開けると……。
そこは真っ白な空間だった。
お、おい!また神の空間か!?
辺りを見渡すと、そこには豪華なドレスとスーツを着た男女が立っていた。
「こ、ここは―――?」
「な、なんで私は―――?胸の矢傷もない……。」
どう見てもさっきまで倒れていた2人です。
あー、これ分かったわ。
またチートのせいだ……。
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