森林伐採と社員達
帰らずの森の縁部に大きな篝火が幾つも掲げられ、
夜にも関わらず伐採作業が続けられている。
「近くで見ると本当に大きいな……!」
屋久島の縄文杉みたいな巨大な木がやたらめったら生えている。
こんな大きな木の群生地なら昼間でもこの森の中は真っ暗だろう。
「社長。オーガの群れは片付けてありますが、それでもあまり森に近づき過ぎない様にして下さい。
魔物は基本的に夜行性ですので万一の場合がございます。」
一応、冒険者が警護に当たっておりますが、とフラウ君が付け加える。
確かに、この辺りを中心にして冒険者が何十人も警護しているようだ。
うむ。こういう所は敏腕秘書っぽいな!
身の丈を超える程の大きな斧を持ったドワーフ達が大木に取り付き枝を落としている。
枝だけでも普通の木くらいの大きさがあるな。
「ここいらの木は『魔樹』と言う魔素を大量に含んだ樹木じゃ。特徴はなんと言ってもその硬さじゃ。鉄鋼樹なんて呼ばれる事もある木でな。普通の斧じゃ傷1つつかん。その性質は―――。」
ザップ氏が色々技術的な説明してくれる。
まぁ要はファンタジー要素満載の硬い木だな。
「何にせよ、この木を切り倒さないと開発は出来ないという事だな?」
「そうなるのう。儂らが1本切るのに5日かかる。
幹周が大体40mじゃから1キロ四方開拓するなら、ざっくり600本以上伐採せねばならん。しかもこれは抜根は計算しとらん。」
あー。根っこを処理しないとまた生えてくるしな。
切るだけじゃ駄目なんだよな。
ちなみにこの世界の単位は地球と同じだ。
センチ、メートル以外にもインチもヤードもある。
木を切り倒すだけでざっくり8年かかる計算か。
無税の期間をもっと要求すれば良かったかもしれんな。
「まぁ良い。取り敢えず道具を変えよう。私の世界……いや、国の道具の資料を出すから作れないかフラウ君とザップ氏で検討してみてくれ。」
丸鋸とかチェンソーとかをファンタジー素材で再現出来れば作業効率も増すだろう。
私の力でなんかこう、一気に出来れば楽だったのになぁ。流石にそれは無理だろう……。
カッ!!
え?
ズズンっと大地が揺れ、バザバサと鳥が飛び立つ。
私が見ていた辺りの木が纏めて真っ直ぐな木材になって地面にバラバラと転がっている。
恐らく、私の視界に入っていた木が加工済みの木材に変化したのだろう。
何を言っているか分からないって?
安心した前。私も分からない。
「な、なんだ!?」「敵襲か!」「木がなぎ倒され……いや、成形されている……?」
「いちいち騒ぐな!社長のお力じゃ!」
騒ぎ出した冒険者をザップ氏が一喝する。
「し、社長?」「あ、あれがあの……!」「ほ、本当にいたんだ……!」「お、オイ!目を合わせるな!」
「殺されるぞ!」
コソコソと話しながら俯く冒険者達。
君たちの中で私はどういう存在なんだ?
◇◇◇◇
開発拠点の中に複数あるいくつもテーブルと椅子が置かれた食堂と呼ばれる大天幕。
そこで見た目の悪い男達と女が1人が酒を飲んでいた。雇われた冒険者の5人組のパーティ、栄光の白斧のメンバーだ。
いつもはこの食堂も人がごった返しているのだが、
今は彼等達しかおらず、がらんとしている。
今日は社長が現場の視察をするという事で、多くの冒険者達が警護に駆り出されていたのだ。
「ちっ。何か外が騒がしいな。セレスタお前ちょっと見て来い!」
「え、あ、は、はい。」
「さっさと動け!本当にてめぇは使えねぇな!」
ガシャンと酔った大男がセレスタと呼ばれた女の足元に酒瓶を投げつける。
「お、おいおい。そんな事してると社員の奴らに睨まれるぞ?っつーかこんな所でサボってるのが見つかったら……!」
「そうだぜ、ガンドフ。アイツら本当にやべぇんだぞ……。」
「しかも今日は社長が視察するとかでアイツらピリピリしてんだ。へ、下手したら殺されちまう。」
青ざめた顔で大男を窘める仲間達。
先日、酔った勢いでタチバナの事を悪く言った冒険者が社員達に殺気混じりの警告を受けたのだ。
あまりの殺気にA級冒険者も含めた全員が身震いしたのは記憶に新しい。
しかし、酔った大男。ガンドフには響かない。
「おいおい!あんなガキ共に何をビビってんだぁ?
俺達はB級冒険者!栄光の白斧だぞ!?
魔導具が手に入った今、もうA級も、いや、S級も夢じゃあねぇ!そうだろ!?」
報酬の先払いで貰った魔宝玉が付いた大きな斧を掲げてガンドフが言う。
「え、あ、あぁ。そ、そうだな。そうだよな。」
「そ、そうだよ!俺達ぁ栄光の白斧だ!」
「そ、そうだな。そんな俺達がちょっと位ここで酒呑んでても文句は言われねぇよな!あんなガキ共何て怖くねぇ!!」
「……で、でも他の冒険者の人達はちゃんと働いてますし……。」
セレスタと呼ばれた女が苦言を呈す。
「あぁん!?てめぇセレスタ!何をビビってんだ!
本当ならタチバナとか言う野郎が俺達に頭を下げ―――!」
ぞぶり。
突如、ガンドフの身体が影に沈む。
「―――僕らの社長が何だって?」
大天幕の隅に少年社員ダレンが立っていた。
「ひっ!?」
「お、俺は何にも言ってねぇ!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
「ねぇ。質問に応えなよ。」
ダレンが口を開くと更に加速度的にガンドフ達4人の身体が影に沈んで行く。
「何をまどろっこしい事をしているの?ダレン。
こんな奴等さっさと処罰すれば良いじゃない。」
茶色のおかっぱ頭のやけに目が爛々とした少女がダレンに声を掛ける。
その首には5つの花弁を持つ橘の花の紋章が刻まれていた。
抜けるような白い肌をした細身の少女は、体重を感じさせない軽やかな動きでガンドフの側まで歩き、その頭に手を置く。
「あんた達冒険者が私達の陰口を叩いてるのは知ってる。でもそれは別に良いの。」
次第に少女の小さな手に力が入り、メキメキとガンドフの頭蓋が悲鳴を上げる。
「でもね。あの方を悪く言うのだけは許さない。
絶対に。絶対にだ!」
「止めろ!ルーミエ!!殺すな!」
ダレンが叫ぶ。
メギィ!
ガンドフの頭蓋にヒビが入る音が響き、彼は泡を吹いて気絶した。
「ふん。別に殺しはしないわ。だってそうでしょ?
私達は社長から直々に、直々に!殺し殺される事は我社の利益を損なう事なのだと教えを説かれたんですもの。」
恍惚とした表情でルーミエと呼ばれた少女は笑う。
その姿は神の神託を受けた巫女か信仰に狂った狂信者の様だった。
「はぁ……。君達『
「そうかしら?『
基本的にタチバナの為に笑って己の心臓を抉れる社員達だが、それぞれ性格が違う。
社印が刻まれた場所で傾向があるのだ。
社員の中でも狂信的な者が多く、血の気の多い過激な集団だ。タチバナの為なら喜んで手を汚すし、自分の生命も一切考慮しない。
極論、もしタチバナが転びそうになった時、それを防げるのであれば、己の首を迷いなく差し出せる危険思想の持ち主達だ。
その異様な信仰心は他の追随を許さない狂信者の集団である。
社印はその名の通り腕に発現する。
特にドワーフ達が大量に参加してからは、その技能向上の為に禁忌に触れる事も平気で行う危険な集団になっている。
ちなみにログとモリーもここに所属しており、
元奴隷の社員達の多くは
そしてだからこそ、タチバナの言葉を絶対視し、そこからズレた行動をした者は確実に処罰しようする処刑人でもある。
ちなみにフラウを始め、1部の女性社員は女としてタチバナに使える事を願った者が多く、社印はその下腹部付近に発現している。
その名称は
女としての独占欲とタチバナの為だけに向けられた無限の母性を併せ持つ最悪の
「そいつ等どうするの?」
「サボった時間は47分くらいだから、その10倍。
8時間くらいは僕の影の中でお仕置だ。死なない程度に痛めつけてから回復させてを繰り返すよ。」
「……やっぱりアンタら
信仰に狂った少女と寡黙な処刑人の少年が笑う。
「あ、あ、あの、その。わ、私は……。」
怯える女が口を開く。
「ああ。SのB級冒険者のセレスタさんですね?
貴女は巻き込まれただけみたいですし、特に処罰はしません。口頭注意くらいです。まぁ次はありませんが。……え!?」
「社長の事を悪く言う奴らを止めようともしてたしね。問題ないんじゃないかしら?次はないけど。
……うそ!?」
ダレンとルーミエが弾かれたように振り返る。
「おや。ダレン君にルーミエ君じゃないか。
もう9時だぞ。まだ起きてたのか?」
何も知らないタチバナと、折角食事に誘われたのに邪魔者がいて不機嫌な顔をした
やっぱり
ダレンとルーミエは心の中で大きなため息と共に呟いた。
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