ヘッドハンティング
何だかとんでもない事になってしまった。
うん。またなんだ。何だかまた私のチートがやらかしてしまったらしい。
幹周40mクラスの大木がチートのせいで木材に変換され、大量の材木の山が出来てしまった。
素材としてはかなりレアらしく、ドワーフ達は狂喜乱舞し、まともな作業が出来なくなってしまった。
取り敢えず大量の木材を片付けないとどうにもならないので、その辺はザップ氏に丸投げしてフラウ君と夕飯を食べに来た。
はぁ、ホントそろそろ在庫の置き場を考えないとなぁ。
これだけ魔法やら魔術やらある世界なんだから保管場所くらい何とかならんものなのか?
フラウ君達も簡易の保管魔術は使えるらしいが、保管期間が短いらしく使い物にならないし……。
「お疲れ様です。社長!」
「今からご夕食ですか?」
食堂と呼ばれる大天幕に行くとダレン君とルーミエ君と女の冒険者が居た。
聞けば彼等は拠点の見回りをしているらしい。
……労基的に問題ないのか?
いや、この国には労基はないが人道的にさ。
2人はどう見てもティーンエイジャーだ。
そんな2人をこんな時間に働かせるのは良くないと思うのだが……。
「ほら。ダレン、ルーミエ。社長も仰っているわ。早く寝なさい。」
「……それ、フラウさんの私情入ってません?」
「あら、ルーミエ。社長のお言葉に逆らうの?」
「社長のお言葉は絶対です。でも、この状況じゃあねぇ?」
何やらフラウ君とルーミエ君の間でマウントの取り合いが始まってしまった……。
こうなると私の経験上面倒臭い事になる。
ちらりとダレン君に何とかしろとアイコンタクトをすると、何やら死地に赴く覚悟を決めたような顔になった。
そこまでの覚悟がいるの!?
ぐぅー。
ダレン君が口を開く直前、目の前の冒険者風の女性のお腹が鳴った。
歳の頃は10代後半くらい。
緩くウェーブのかかった亜麻色の髪を肩まで伸ばし、その細い体を革の胸当てで包んでいる。
何となくだが、まだ駆け出しな感じがするな。
「え、あ、す、すいません!一昨日から食べてなくて……。」
なぬ?食事は3食用意する様に言っていたはずだが……。
「え、えっと、その、同じパーティの人達にお前のにはこんな食事は贅沢だって……。」
さっきまで剣呑な雰囲気だったフラウ君とルーミエ君がコロッと態度を変える。
「それは可哀想に……。社長。彼女の分の食事を用意しても?」
「食事は大丈夫よね。」
「ええ。彼等の罰は8時間のつもりでしたが、16時間にしましょう。貴女はゆっくり食べると良い。」
お腹の音1発で元奴隷だったウチの社員達の心を掴んだ様だ。
中々やるなぁ。
今のは計算ではなく天然だな。
案外、こういう子に営業をさせてみると大きな案件を決めて来たりするんだよなぁ。
「ふむ。なら彼女の分も用意をしてくれるかい?
常備している食材が足りないのなら私が―――」
「ご安心を!街から買ってきた物もありますし、森で採れた物も大量にありますので!」
何やらフラウ君に被せ気味に報告される。
やっぱりチートで飲食物を出すのは良くない様だ。
◇◇◇◇
―――なんでこんな事になってしまったんだろう。
セレスタは自問自答する。
テーブルの上には色とりどりの料理が並べられ、美味しそうな湯気を立てている。
全てあのフラウと呼ばれる秘書が用意した物だ。
「社長!このオーガ肉のステーキ美味しいですよ!
私が取り分けますね!」
「あらルーミエ?野菜もしっかり取りなさい。
社長もサラダは如何ですか?」
「あぁ、うん。貰おうかな。」
あの後タチバナ以下社員達も食事がまだだと言うことで、なし崩し的に皆で食事を取る事になってしまったのだ。
(うぅ。何でこんな事に……。こんな事ならガンドフさんに着いて行くんじゃなかった……。パーティの皆は大丈夫かなぁ。殺さないって言ってたし、大丈夫だよね?)
ガブリエラは栄光の白斧の初期メンバーではない。
新人冒険者の頃にそのスキルを見込まれてガンドフ達にスカウトされたのが切っ掛けだった。
セレスタはスキル持ちの冒険者だ。
実力的にはそこまで高くはないが、そのスキル故にB級冒険者パーティのメンバーにスカウトされた。
しかし、レベルはまだ低く戦闘技能者としても経験もない為、かなり粗雑な扱いを受けていた。
『アイテムボックス』
発動方法は人によって様々だが、自分専用の亜空間を持っており、そこに様々な物を保管し任意に取り出す事が可能なレアスキルだ。
ダレンが使った影魔術の様に魔術でも再現可能なスキルではあるが、最大の特徴は保管期間だ。
魔術ではせいぜい1日。
超越者たるタチバナ総合商社社員でも数日もすれば中に入れたものは時空の彼方へ消えてしまう。
しかし、セレスタのスキルであれば、セレスタの寿命が亡くなるまでは全て消えずに保管出来る、非常に稀有なスキルの一つである。
大量の在庫に困っているタチバナからすると何がなんでも欲しいスキルだが、この世界ではそこまで有用なスキルではない。
あれば便利程度の認識だ。
そもそも冒険者達はアイテムボックスのスキルが必要なほど長期間移動することがない。
ひとつの町を拠点とし、そこから長くて数日、短ければ日帰りで行動する。
確かにアイテムボックス持ちは重宝されはするが、それよりも探査や戦闘に有効なスキルの方が求められやすい。
商人にとっても、行商人の様な営業スタイルであれば確かに有用ではあるが、ここは誰もが産地地消を前提に考えている中世世界。
そこまで重要視される事はなかった。
―――やっぱり私は冒険者に向いてないのかなぁ。折角B級冒険者パーティに誘われてもミソッカスみたいな扱いしかされないし……。
はぁ、頑張ってるんだけどなぁ。
「何やら心配事かい?ええっと、セレスタ君と言ったか……。」
「え!?あ!はい!セレスタです。
いや、その。……私は冒険者に向いてないかなぁなんて、ハハッ。」
不意にタチバナに声を掛けられてテンパるセレスタ。言い終わってから何を言っているんだと自己嫌悪に陥る。
「あぁ、危険な仕事だろうしね。無理をするのは良くないな。」
「あ、はい。それもありますし、その……。何と言うか私のスキルは割と重宝されるスキルです。でも、逆にそのスキルしか取り柄がなくて……。」
「スキルねぇ。どんなスキルなんだい?」
今ひとつスキルの意味が分かってないタチバナは気のない返事を返す。
「あ、はい。アイテムボックスって言うスキルでして―――」
「それはあれか?なんでも保管出来るスキルかい?」
食い気味にずずいとセレスタに詰め寄るタチバナ。
彼は自分の欲求には正直な男だ。
「え、はい。あ、で、でも制限はあります。
私の亜空間の入口は掌にあるので、あまり大きなものは入りません。えっと、大体4~50センチ四方くらいの物なら何とか……」
「い、いくつくらい入るんだい!?重さは!?」
「え、えっと、量に制限はない……ですかね?
重さも特に……。」
「例えばこんな刀とかは……」
そう言いながらタチバナが豪奢な刀を生み出す。
漆黒と黄金で装飾された豪華な太刀だ。
「こ、このくらいならいくらでも……。こんな感じです。」
シュンっと鞘に入った黄金色の刀が切っ先からセレスタの掌に吸い込まれる。
「セレスタ君。冒険者辞めてウチに来なさい。」
「ふぇ……?」
「君は月にいくら稼いでる?ウチに来て貰えるならその10倍は支払おう。」
「じゅ!?そ、それって銅貨10枚も!?」
「……ウチは月に金貨1枚だ。」
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