宣戦布告
ふっふっふっふっ。
はーっはっはっはっはっはっはっは!!
いやぁ笑いが止まらん!
あの司祭!実に話の分かる奴だった!
ちょっとスイッチがどこにあるか分からない系の危ないヤツだが、まぁ私に危険はないだろう。
騎士団の護衛付きで教会に案内された。
何やら是非とも歓待させて欲しいとの事だ。
もちろん構わない!
ゴマをすってくる奴は大好きだ!
はーっはっはっはっはっはっはっはっ!!
教会の方は豪華と言うより質実剛健な感じだ。
頑丈な壁に囲まれた背の高い石造りの建物で、中は木でできた長椅子が並ぶ礼拝堂の様だった。
ふむ。まるで地球で1番メジャーな十字架をシンボルにした宗教の教会みたいだな。
やはり世界が変わっても人のやる事は変わらんようだ。
礼拝堂の1番奥に大きな十字架と輪っかを組み合わせたシンボルが鎮座している。
ふむ?地球の例の宗教は磔刑台がモチーフだったが、こっちはどうも違う様に見えるな。
「我等が人類種の守護者として戦う為の剣と盾をモチーフにしたシンボルです。ご興味がおありですか?タチバナ様。」
後ろから司祭が声を掛けてくる。
さっきまでのプッツン具合が嘘のような柔和な笑顔を浮かべている。
あぁ、なるほど。
これは磔刑台ではなくて剣と盾を図案化した物なのか……。
そう言えば、せっかく中世ヨーロッパ風味の世界に来たのに、そう言った武器を触った事がな―――。
ピカッ!ゴトリ。
私の足元にシンプルな剣と丸盾がゴトリと落ちてくる。
「…………………………え?」
「…………………………おふっ。」
どうやら無意識的にチートを発動してしまったらしい。このチートの発動には呪文や動作などはなく、
単に私の意思だけで発動するからな……。
「た、た、た、た、タチバナ様……?」
うん。めっちゃ司祭が動揺している。
……取り敢えず不敵な笑みを浮かべておく。
私の経験上、商談等で困難な時や追い込まれた時には、根拠もなく不敵に笑うというのは効果的な場合が多い。
いわゆる、ハッタリだな。
商談に限らず、割と勝負事の秘訣だと思う。
そして相手を動揺させ―――。
「…………ふっ。何か気になる事でも?」
「い、いいえ!何も!?お、おや?こんな所に立派な剣と盾が!気付カナカッタナー!タ、タチバナ様の物ですか?」
ゴリ押しである。
まぁ別に本当の事を言ってもいいのだが、どうもフラウ君達の反応を見るに、私はあまりチートは人に見せない方が良いと考えている。
「うむ。これは、あー、そう!侯爵へのお土産だ。
何でもバーバレスト家は武門なんだろ?
それにレブナント殿は熱心な
「な、なるほ―――。え!?け、剣と盾をレブナント様に!?」
む?何やら司祭が狼狽え出した。
この世界ではそれは失礼にあたるのか?
「何か慣習上問題がありますか?」
「い、いえ!むしろ慣習に則っているかと……。
ただ、かなり古式の作法でしたので、少し驚きました。まさかタチバナ様がご存知でしたとは……。」
あぁ、なるほど。
私がこの地域の人間でないのは見ただけで分かる。
何せ黒髪黒目の人間なんて少ないからな。
つまり、外人が古来の作法に則った事をやり出したので驚いたと言う訳か。
「はっはっはっ。私は古い田舎者でしてね。
では、これをレブナント殿に―――。」
「社長。お話中の所、失礼致します。
その剣盾の布告の使者。是非とも私にお任せ頂けないでしょうか。これでも私はハイエルフ。
古式の作法にも通じておりますので……。」
私の後ろに控えたフラウ君が90度のお辞儀、最敬礼でお願いして来る。
ふむ。まぁ確かに何となくエルフは古い仕来りに詳しそうなイメージがある。
それに、このぶち切れるポイントがよく分からない謎地雷司祭だけに任せるのも少々心許ないしな。
やはりここは我社の社員を派遣するべきだろう。
「あぁ、そうだな。フラウ君。
君が行ってくれるなら安心だよ!人手がいるなら何人か連れて行くと良い。」
「では、フラウとマイヤ、それにログとソフラをお借りしても良いでしょうか?」
まぁこの後は司祭に紹介してもらった宿屋でダラダラするつもりだったので問題ない。
「勿論だよ。私の方は、そうだな。ダレン君達子ども組と街でもブラブラしてお菓子でも買ってやるかな。」
何せゆっくりこの世界の街を観るのは初めてだからな!
◇◇◇◇
剣盾の布告。
それはここ100年程、このエルエスト王国では行われた事がない布告だ。
シンボルマークである十字架と輪の組み合わせも、盾を背負った剣、つまり平和を守る為に戦う姿を形どったものである。
それを相手に送る意味とは、争いか安寧を選ばせると言う意味であり、つまり―――
宣戦布告である。
『フラウより社員各員へ通達。たった今、社長より剣盾の布告を行うと仰せつかった。』
タチバナ総合商社社員に刻まれた聖痕が共鳴し、フラウの言葉をタイムラグなく全社員に共有する。
橘の花の紋章のスキルのひとつ。
社印ネットワークである。
タチバナはグループ通話の様なスキルと理解していたが、それは間違いではない。
しかし、そのスキルが共有するのは言葉だけではなく、感情、知識や経験すらも共有する。
おぉ!と言う驚きと歓喜の感情がネットワークに響き渡る。
元奴隷ばかりの社員達だが、ネットワークからフラウやモリー、マイヤの知識が植え付けられ、剣盾の布告についても過不足なく理解していた。
『これより、ここは潜在敵性地となる!!
各員!力を解放せよ!!』
平均レベル70オーバーの神話の軍団がその魔力を解放し、バーバレストの街を覆い尽くす。
化物の本気の威嚇を前に、小動物達は街から逃げ出し、街に住む人々は門戸を閉ざし、家の隅で震えながら神に祈る。
魔力を一切感じないタチバナだけを蚊帳の外にし、事態は大きく動いていた。
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