教会の在り方
「―――な!?ほ、本当なのですか!?」
「何かの間違いでしょう!?」
「この方達はどう見てもモーリアス団長とマイヤールお嬢様です!」
困惑しながら
ははっウケる。
「い、いえ。この2人は確かにモリーとマイヤと言う名前です。家名もありませんので、平民で間違いありません。ほら、この通り。」
白を基調にした祭服を着た壮年の司祭が動揺しつつも確かな口調で告げる。
司祭の手には手帳サイズの白いガラスの様な金属板が握られており、そこにはハッキリとモリーとマイヤの名前が明記されていた。
・名前:モリー(25)
・犯罪歴:なし
・種族:社員
・レベル:79
・名前:マイヤ(23)
・犯罪歴:なし
・種族:社員
・レベル:65
「簡易の刻印板なので、名前と犯罪歴、種族、レベル程度しか見えませんが間違いなく、この2人はモーリアス団長とマイヤール様とは別人です。
その年齢で超越者とは、とてつもないですがね。
種族が社員と言う初めて聞く種族ですし……。」
ほぉう。面白いな。
こんな風に表示されるのか。
しかし、種族が社員ってなんだろう……?
「これで疑いは晴れた訳だ!いやぁ、ありがとうございます!司祭様。」
「いえ、これも聖務ですので。ええっと、貴方は?」
「私はゴウシ・タチバナと申します。この2人の雇い主、と言ったところですかな。その敬虔な態度に感服致します。これは心ばかりですが、喜捨させて下さい。」
そう言いながら、そっと金貨の入った小さな皮袋を司祭に渡す。
完全に賄賂である。
それを騎士達はボケっと見ている。
くっくっく。喜捨をすると言われてしまっては文句は言えまい!
「え、ええ。貴方に主神アフラーダの御加護があらん事を。あ、えっと、貴方もここに手をかざして頂けますか?一応、規則でして……。」
「ええ。構いません。」
こう言うファンタジー要素たっぷりな道具を使うのは何気に初めてだ。
年甲斐もなくワクワクするな!
「ありがとうございます。タチバナ様。
これで問題は―――。」
・名前:ゴウシ・タチバナ(39)
・犯罪歴:なし
・種族:CEO
・レベル:なし
「―――
溢れ落ちるほど目を剥く司祭。
やっぱり種族の項目バグってるんじゃないか?
モリー君とマイヤ君の表示を見てても、種族ではなく職業だろ。
「た、た、タチバナ様?こ、この
「ん?何か問題でも?確かに私は
「せ、聖獣……超越者の下僕……やはり……!」
何やら司祭がブツブツ言っているが大丈夫か?
まぁ何やら納得している様だし、まぁいいだろう。
「いや、待て待て!何でレベルがなしなんて―――がっ!?」
!?
私に声を上げようとした騎士が体勢を崩す。
ガランっと音を立てて椅子が投げ捨てられる音が部屋に響いた。
「はぁはぁはぁっ!この不届き者め!!破門にするぞ!」
し、司祭様!?何してんの!?
今確実に椅子で騎士を殴ったよね!?
「申し訳ございません。タチバナ様。
ささっ。どうぞこちらへ。こんなむさ苦しい所に引き止めてしまい申し訳ございません!
教会へご案内させて下さい。お連れの方も是非。」
「え、あ、いや。あの騎士は―――」
「そうですよね!早々に処罰させて頂きます!
早速名前を奪って奴隷に―――」
「い、いやいや、そんな―――」
「ですよね!やっぱり一族郎党首を切りましょう!
何せ神敵です!ですから、どうかこの領地はお見逃しを頂ければ!」
何卒宜しくお願い致します!何て言いながら土下座してくる司祭。
いやいやいや。何言ってんだこいつ……。
私が何か言おうとしたら騎士の罪がどんどん重くなって行く。
「いやいや、別にそこまでしてもらう必要はありませんから!彼も職務に忠実だっただけ。私としては思う所はありません!」
「な、なんと!なんとお優しい……!」
滂沱の涙を流しながら土下座する司祭。
完全にヤバい奴だった様だ……。
「……なぁ。こんな危ない奴が司祭で色々と問題ないのか?」
思いっ切り椅子で殴られ気絶している騎士の頭を掴み、お前も謝れと床に騎士の頭を何度も打ち付ける司祭にドン引きしながら、小声でモリー君とマイヤ君に声をかける。
「いえ、ごく普通の対応かと」
「そうですわね。むしろ、かなり冷静な対応かと。」
なるほど。
この世界の宗教家はかなり過激らしい。
まぁ賄賂も受け取ってくれたし、あの対応を見る限りレブナントへの紹介もしてくれるだろう。
あの程度の賄賂でこんな事になるなんて、私が思っていた以上に腐敗しているのかもしれんなぁ。
◇◇◇◇
「貴様ら!!神を前にあの態度はなんだ!!危うくこの地が更地になる所だっんだぞ!!あれは古き聖典に記された人族の荒ぶる神!永劫の混沌を振り撒く者に他ならぬ!!!」
狭い室内に司祭の怒号が響く。
タチバナ一行に領内の入領許可を渡した司祭は対応した3人の騎士に事情を説明していた。
「神ですか……。」
「正直、にわかには信じ難いですね」
「ほ、本当なのですか?」
「ふん。不心得者共め……。
いいか?開名の義は魂の情報を開示する儀式だ。
そして、彼等が人ではないのは間違いはない。
ほぼ全員が超越者だ。ここまでは良いか?」
そこまでは騎士達としても純然たる事実だ。
彼等とて鍛え抜かれた戦士。あの社員なる者達全員が超越者なのは、肌で感じている。
「CEOとはな、とある神のことを指す名称なのだ。この地より遥か東方。今は滅びた人間族の国に伝わっていた古い聖典がある。
その者は人でありながらも人ではない。
平和と騒乱、希望と絶望を与える混沌の申し子。
従う者には聖痕を与え、その配下は地を埋め尽くす程である、と記されている―――。」
それ故に、あらゆる国や種族の伝承を諳んじるのは司祭として当然の教養である。
「人であり人ではない……?あぁそうか!
名前があるのにレベルがないと言うのは―――!」
「従う者には聖痕を与える!?ち、超越者を増やせると言うのですか!」
「嘘だろ……。」
「荒ぶる神CEOの記述は、他の地の伝承でも断片的ではあるが各地で散見される。しかし、それは全て滅んだ国の伝承で、だ。」
ゴクリと3人の唾を飲む音が響く。
沈痛な面持ちで司祭が告げる。
「あの神を領内に気軽に歩かせる訳にはいかん。
人類種の守護者たる
司祭は、まるで今から死地に向かう歴戦の戦士のような顔をしていた。
「正直に言って、私とて恐ろしい……。
しかし、主神アフラーダに仕える道を選んだ時、
この領地を、国を、人類種を守る為なら喜んでこの身を捧げる覚悟をした。誠にすまないが、お前達騎士団の命、掛けてもらうぞ。」
「「「はっ!!」」」
タチバナはひとつ勘違いをしていた。
その1点において、教会は腐敗などしていなかった。
タチバナ総合商社 社長の噂④
社長は神。
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