社長は戦争がお嫌い
『何故、何故だ……。マイヤール。モーリアス。
何故神に、CEOに降ったのだ……。』
教会の連中が紹介してくれた高級宿の一室。
ダレン君が魔術を使ってフラウ君達の布告の様子をリアルタイムで見せてくれていた。
あの後アルトス君達とは別れ、部屋に帰った時にダレン君がこんな事が出来ると教えてくれたのだ。
遠見の魔術と言ったか?
これはめちゃくちゃ便利だ!
要はドローンの映像みたいなものだが、社印を起点に映し出せるらしいので、社員達がいつでも監視出来ると言う訳だ!
現在は中空に浮かんだモニターでは、泣き崩れたレブナントにモリー君とマイヤ君が声を掛けている。
うんうん。
卑怯者っぽいキャラが困難を前に漢気をみせるのは王道展開だよね。
こうやって皆で一致団結して魔王と戦うんだよね。
って、バカ!!
何で私が魔王役なんだよ!
単なる商人だぞ!
思いっきり戦争をする流れになってるじゃないか!
ムスッとした顔で虚空に映る映像を眺めていると、
慌てた様子でダレン君が声を掛けてくる。
「す、すいません!社長!不愉快ですよね!折角の社長のお慈悲を断るなんて!今すぐフラウさん達に言って侯爵以下この領地の全員を皆殺しにしますので!」
「いやいやいやいや!!違うよ!?ダレン君!」
サラッと皆殺しとか言うダレン君を必死に止める。
最近気付いたのだが、ウチの社員達は地球で言う所の“ブラック社員”だな……。
1人で残業とか早朝出勤とかをして周りにも同じ仕事量を無言で強要するブラックな社員である。
所謂、社畜だな。
一昔前だとモーレツ社員とか企業戦士とか言われていたやつである。
ブラック企業経営者の私としては、非常に歓迎すべき人材なのだが、ブラック社員のせいで私の仕事量が増える事が多々あるので、そこまで好きになれない人種である。
しかし、うーん。困ったな……。
このままだと戦争一直線だ。
勘弁してよフラウちゃーん……。
いや、マジで。
って言うか、何で贈物渡しに行ったら即開戦みたいな話になってんの?
そんなに異世界って物騒なの?馬鹿なの?死ぬの?
いや、このままだと死ぬのは私だ。
駄目だ。思考が纏まらない。
……ハッキリ言って私は戦争反対派だ。
いや、勿論単なる商売人たる私が戦うとか論外だ。
別に人道的にどうこう言うつもりはない。
なんせブラック企業経営者な訳だしな。
単純な話、戦争をしても長期的に見たらあまり儲からないのだ。
焼畑農業みたいなものだな。
うまく動けば一時的には儲かるが、長続きしない。
むしろ当事者である国から有形無形の財産を召し上げられる事すらあるだろう。
実際、体制側とベッタリやるのも考えものである。公共事業に1度くい込むと、儲けが少なくても作り続けなければならないと言うジレンマがある。
そして何より、戦争が起こると人口が減る。
基本的に経済力=人口である。
人口が多ければ多い程、働き手も買い手も多い。
つまり、市場が大きい訳だ。
日本なんか良い例だ。
日本人は小国とか小さな島国とか自虐するが、日本は世界第10位の人口を有している。
つまり、基本ベースは大国なのだ。
技術力だなんだと言うのは二の次、三の次だ。
それなりに教育を受け、そこそこに購買力のある
1億人が経済を回せば、そりゃあ儲かる訳だ。
私から言わせれば、戦後起こった高度成長なんかもある意味単純な話だ。
貧乏な7000万人が全力で経済をぶん回し、その勢いのまま20年後には1億人に人口を増やしたのだ。
そりゃあ高度成長だってするさ。
しかし、戦争になると人がバタバタと死んでいく。
つまりは経済的機会の損失なわけだ。
「―――なるほど。つまり、大量に人が死ぬ戦争とは我社の損失に他ならない、と言う事ですね!」
「確かに……。顧客が居なくなると言うのはそれだけで損失だよな。」
「確かに、いくら俺たちでも騎士団と戦えば損耗もするだろうし―――あ。い、いえ!大丈夫です!
国とだって戦ってみせます!任せて下さい!」
ダレン君達お子様組達に事情を話してやる。
……うん。1人おかしな事を言う奴がいるな。
別に君達を戦場に放り込むなんて事はしないから。
しかし、この子達やけに話し方が大人びているな。知らない間に魔術なんて使えるようになっていたし。
私の知らない所で努力しているんだろうか?
「ちなみにダレン君。これ、向こうと話をするなんて出来るかい?」
「社長を向こうにお送りする事も出来ます!」
ほぉ!瞬間移動なんてことも出来るのか!
さすが異世界だ!
やっぱり私が直接出向くしかないか……。
◇◇◇◇
突如としてバーバレスト家の屋敷、その応接室の床に魔法陣が浮かび上がる。
それは紋章。5つの花弁を持つ白い花。
橘の花の紋章だ。
「中々感動的な場面だ。和解とは少し違うが、お互いを認め合う様は心打たれるものがあったよ。」
魔法陣から1人の男が現れる。
少し癖のある黒髪。
万象を値踏みする大きな黒い瞳。
片頬を上げてニヤリと笑う不敵な男。
タチバナである。
「な、何奴!?」
侯爵の周りを警護していた騎士達が慌てて腰の剣に手を掛ける。
その刹那。
黒い嵐が室内に荒れ狂う。
嵐が過ぎた後には、両手の骨を折られた10人の騎士達が転がる。
「控えろ。下郎共。」
「社長の御前よ。頭が高いわ。」
タチバナを守る様に左右にログとソフラが控える。
「ようこそおいで下さいました。社長。
どうぞこちらに。」
優雅に一礼をしたフラウが穏やかな笑みで1番上座のソファを譲る。
うむ。と鷹揚に頷き、タチバナはソファに座り足を組み、目の前の震える侯爵に声を掛ける。
「はじめまして、侯爵。私がタチバナ総合商社、
本気で土下座をするので、さっきまでの話と2人の暴挙はなかった事にして欲しい言う本音を押し込め、今日も今日とてタチバナは嗤って商談に挑む。
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