再びの冒険者ギルドと業務提携
冒険者ギルド。
このマギウスガルド大陸にある様々な国家がスポンサーとなり、運営されている超国家組織だ。
その恩恵により冒険者であれば都市間や国家間の移動も楽に出来るし、武装も自由。どんな仕事を受けるかも己の自由だ。
倒した魔物の素材はそれなりに高額でギルドが買い取ってくれるし、ダンジョンでレアな魔導具なんかを手に入れればひと財産になる。
アルトス君の様に平民から貴族になる冒険者もそれなりにいる。
実際、高ランク冒険者の大多数はメインで活動する国から貴族位相当の地位を渡されているらしい。
この辺は貴重な戦力を国内で確保したい国の思惑が見えるな。
ともあれ、こう言えば割と良さげに聞こえるが、
実際は保証が一切ない個人事業主だ。
しかも完全出来高制のどぎついやつ。
仕事内容も日本の3K仕事が可愛く見えるレベルである。何せここは熊やライオンが愛玩動物に見えるレベルの魔物が跋扈する異世界なのだ。
ま、私は魔物は見たこともないし、そんな事をするつもりはないけどな!
私はブラック企業経営者!
甘い言葉に誘われた馬鹿な個人事業主をこき使う存在だ!
なーっはっはっはっはっはっはっはっ!!
◇◇◇◇
「おいおい、マジかよ……。タチバナ様?」
ギルド長のボルドーは禿げ上がった頭をペシりと叩いて呟く。
ボルドーの目の机には前には2振りの魔剣が無造作に置かれている。
「良い魔剣だ……。素材は
鍔についてんの魔宝玉。この時点で中級から上級の魔剣だな。能力はなんだ?」
「どちらも『鋭利』と『頑強』、『身体能力向上』の3つになっております。」
タチバナの代わりにフラウが答える。
ボルドーのタチバナへの口調が気に入らないので少々慇懃無礼な態度だ。
特に気にした様子もなく、ボルドーの魔剣の批評は続く。
「
いや、この素材と魔宝玉の質ならそれも当然だな。クセのない良いスキルだ。上級魔剣だな。
それに片手でも両手でも扱える剣ってのも良い。
冒険者には人気のあるタイプだ。」
基本的に手で持つ武器は長くて重い方が強い。
しかし、冒険者の殆どは木が生い茂った深い森や狭い洞窟で戦う為、狭いスペースで振り回せる取り回しの良い武器を使う場合が多い。
「……良い物を見せて貰いました。コイツが今度の依頼の報酬って事で良いんですかね?タチバナ様。
確か魔剣を参加した冒険者に1人1本、報酬としてご用意して貰えるはずだったと思いますが?」
慇懃無礼な態度でタチバナを威嚇するボルドー。
ボルドーはタチバナが値段交渉に来たと判断した。
これ程の魔剣を用意するのだから1人1本ではなく、10人で1本にしろとかそう言う類の交渉なのだと思ったのだ。
事実、この2振りの魔剣だけでも、アルトス達を含めた冒険者全員の報酬としてもかなり過剰である。
しかし、物品が報酬の場合は揉めやすい。
単純に頭数で割る事が出来ないからだ。
――まだアルトス達以外の冒険者が決まっていないのが幸いしたな。もう1組は10人規模のパーティーを宛てがうべきか?
一応、1人1本の口約束を推してはみたが、こんな上等の魔剣を見せられちゃあぐぅの音も出ねぇ。
これ1本で金貨100枚は下らねぇぞ。
「気に入って頂けたようで何よりです。今回はこちらを売り込みに来ました。」
「……は?」
「あぁ、報酬の方も問題なさそうで良かった。
勿論、お約束通り1人1本をご用意させて頂きますよ。」
そう言えば雇う冒険者も決めないとなぁ等と口にしながら柔和な笑みを浮かべるタチバナ。
「え、あ、ま、魔剣の買取……?ギルドで……?」
「ええ、細かい所は省きますが、魔剣の在庫が大量にありましてね。なるべく大量に買い取って頂きたい。言い値で構いませんよ?」
交渉事ではストレートな物言いを好むタチバナが、豪速球をボルドーに投げつける。
「いやいや、ギルドも年間の予算ってんがあるんだ!こんなモンほいほいと買えねぇよ!言い値で良いって言っても相場から言っても金貨100枚はすんだろが!」
「ならそれで良いでしょう。フラウ君。後でボルドー氏宛に魔剣を100本納品しておいてくれ。」
「オイオイオイ!マジか!?1本金貨1枚だと!?
本気にすんぞ!?後でやっぱり止めたとかなしだかんな!?」
「ええ、契約書を交わしましょう。なんならそのレートでこれからも販売しますよ?ギルドは安く手に入れた魔剣を冒険者に売るなりすれば良い。」
「冒険者にギルドが……?」
この国において、物の売り買いの全ては商人ギルドの管理下にある。
しかし、何事にも例外は存在する。
商人ギルドに加入する気のないタチバナはこの国の慣例を調べ、その例外に辿り着いた。
それこそが、超国家武装組織たる冒険者ギルドだ。
「冒険者ギルドは冒険者に対してのみ独自販売の権利を認められている。違いますか?」
「え、あぁ。ギルドの予算も無限じゃねぇからな。
薬草や各種ポーション、魔物の素材や食料何かを冒険者向けに販売してるな。ダンジョンでのドロップ品や武具類も多少は扱っている。
……つまり、俺らに商人の真似事をしろと?」
呆れた顔をしつつもボルドーとしてはタチバナの意見を採用する方向に傾いている。
……悪くねぇ手だ。ギルドとしても実力の足りない下位ランクの冒険者に仕事を回せねぇのが問題だったが、魔剣がありゃあ話は変わってくる。
だが、周りの影響はどうなる?
ウチで武器を売ると他の鍛冶屋や商人が良い顔はしねぇ。例えば市民議会でも重鎮である開闢のザップ辺りに睨まれたら―――。
「もう少しまとめた数を定期的に買って頂けるなら金額も勉強しますよ。なんなら他の土地のギルドでも売れば良い。
最近ドワーフのザップ氏と提携を結びましてね。彼が物凄い勢いで武器を量産しているんですよ…。」
「んな!?開闢のザップが絡んでんのか!?
そ、そうか!帰らずの森!あそこの魔力密度は異常だ。つまり、素材の質も高ぇ。素材さえありゃあ技術狂いのザップとその一派がいくらでも魔剣を打つし、販売については文句を言わねぇって事か!」
本当はタチバナのチートで用意した物だが、ボルドーが都合良く勘違いしてくれているのでスルーするタチバナ。
「どうでしょう。冒険者ギルドと我社の業務提携。
受けて頂けますか?」
「……魔剣の買取額を増やそう。金貨1枚じゃあウチが得をし過ぎてる。その代わりなるべく安く買える普通の武器を用意して欲しい。鎧も含めてな。」
「フラウ君。至急今の内容をザップ氏に連絡してくれ。高品質の一点物だけではなく、一定品質を保った大量生産技術を確立させろ。」
「はい!」
フラウに指示を出し終えたタチバナがボルドーと笑顔で向かい合い固く握手をする。
「これからよろしくお願いします。ボルドー氏。」
「こちらこそだ。タチバナ様!」
これを機に、大陸中の冒険者の装備が一新される。
低ランク冒険者や新人達にも買える価格で、超高品質な武具の数々が各地のギルドにバーバレスト領ギルドを通じてばら撒かれたのだ。
ギルドの紋章と橘の花の紋章が刻まれたその無数の武具は様々な伝説を残す事となる。
曰く、ドラゴンと遭遇したC級冒険者がその鎧のお陰で助かった。何故か鎧が光ってドラゴンのブレスを防いだらしい。
曰く、ギルドで買ったナイフを装備していたF級の新人が多数の魔物を倒した。何故かそのナイフを装備すると風の様に素早く動けるようになったらしい。
曰く、ギルドで銀貨10枚で買った剣を振るうと斬撃が飛ぶようになった。
曰く、これって全部魔導具なんじゃね?
後日。
「……タチバナ様よぉ?俺は普通の武具って言ったよな?何で魔宝玉がこっそり付いてんだよ!?
これのどこが鉄の剣だ!?あーん!?全部オリハルコンじゃねぇか!!」
「知らん!既に納品は終わっているんだ!グダグダ言うんじゃない!それに私は一定品質と言ったんだ!魔導具ではないとは言っていない!ほら!さっさと金を払え!びた一文増額は認めんぞ!!納品数を減らされると困るからな!!」
「く、くそ……!俺はアンタらのためを思って言ったんだぞ……!」
「そう思うならもっと買ってくれ……。
もう置き場所がないんだ……。」
タチバナ総合商社 社長の噂⑥
タチバナ総合商社の商品は品質に問題がある。
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