魔剣とチートの名前

タチバナの噂は聞いていた。


何でも数日前にこの都市を襲った魔力圧の原因こそがタチバナと言う異邦の男なのだと言う。


また、とんでもない財宝を無数に持っているらしく、ここの領主に山の様な魔宝玉とアーティファクトを差し出したらしい。


事実、数日前からこの都市には巨大な結界が張られる様になっていた。

それこそがタチバナが侯爵に渡したアーティファクトの効果なのだと言う。


市民権を持つ平民達の集り――市民議会でも話題になっていた。


噂に詳しい者などは、今回のバーバレスト領の御家騒動の黒幕こそこの男なのだと騒いでいるのを聞いた。



しかし、親方ドワーフ――開闢のザップに興味はなかった。


土人族ドワーフ名工十傑に数えられて数十年。

その2つ名の通り、彼の関心は新たな技法や技術の開発にのみ心血を注いでいた。


件の男が工房に来ると聞いても、彼としては面倒だなと一言呟く程度であった。


アルトスと名乗る坊主は若いながらも腕の良い剣士だ。彼の剣を打って欲しいと言う頼み故、見学だけならばと許可を出したのだ。


そしてザップは2杯の酒に打ちのめされた。


ラガービールと言う黄金色のエールを呑んだ時、この酒は今のエールの延長線上に存在する物だと直ぐに気付いた。


恐らく、このままこの国の酒造が数百年煮詰められれば到達されるであろう代物だ。


そして、ニホンシュ。


あの水の様に澄んだ透明な酒にはこの国の酒造とは完全に別系統の技術が使われていた。


あの独特の甘み、麦や果実から造られたものではない。後で聞いたが米から造られた物らしい。


米の存在自体は知っているが、そこから酒を造るというのは未知の技術だ。


少なくともこの大陸に存在する技術ではないだろう。それはつまり、別世界の技術と言える。


そう、タチバナなる男は持っているのだ。

未来の技術と異世界の技術を。


知りたい。欲しい。


常に最新の技術を探求し続けてきた開闢の鍛冶師には、この欲求に抗う事は出来なかった。



◆◆◆◆


「おっそろしいまでに素材の純度が均一じゃのう。

工法的には鋳造が近いかの?しかし、ここまで極まった技術は見た事がない。間違いなく神業と言えるじゃろうな。……しかし、剣としてみたら一流の域は超えれんのぅ。」


「な!?僕の吸血刃ヴァンパイアエッジに何か問題でも!?」


「なんつぅか、純粋過ぎるんだ。1本の無垢材を見てるみてぇだ。剣としてはもうちょいムラがあった方が頑丈になる。その辺は社長に鍛冶師としての腕がねぇから仕方がないのかもしれんがな。」


「で、でも良い剣だぁ。こんな剣を造ってみてぇ。流石は社長だぁ。」



何やらワイワイ話し合ってるドワーフ達とアルトス君。


ドワーフ達の身体には橘の花の刻印がガッツリ刻まれている。


結局、あの後ザップ氏以外のドワーフ達もウチの社員になってしまった。知らず知らずの内に、この工房を買収してしまった様だ。

まぁ別に資本提携は一切ないが……。



「―――さて、ザップ氏。そろそろ結論を聞かせてくれないか?」



さっきからずっと彼等は工房の片隅でああでもないこうでもないと話し続けている。


私?勿論、話に加わらずボーッとしている。

理論だ技術の話は興味がないので、何となく聞いている振りをして座っているだけだ。


参考にと言うことで何本かチートで剣を出させられたりもしたが、基本はボケッとしていた。

だから正直、もういい加減飽きてきた。



「うむ。今回の遠征には儂らが作った通常の武具を社長の力で魔剣に『改変』するのがええじゃろ。

素材変換と魔剣化だけなら『創造』よりも社長のご負担も減るじゃろうしな。40人分となると流石に在庫がないから多少は『存在模倣』をして貰う形にはなるじゃろうが……。」


し、知らない間に私のチートに名前が付けられている!?


ザップ氏に言わせると、私のチートには2つの力で成り立っているらしい。


曰く、『創造』と『改変』。


まぁ文字通りの意味だ。

創造より改変の方が魔力の消費も少ない為、私の負担も少ないだろうとの事だ。

また、『創造』で創った武器は私の知識不足のせいで1からザップ氏が造った同素材の武器と比べて若干質が落ちるらしい。


同じ鉄の剣でも威力10に対して、8くらいになる差が出ているようだ。


その解決策として、コピー元となる武器を用意してそれをコピペする『存在模倣』と言う力の使い方をすれば大丈夫との事らしい。


まぁ私としても、この剣と同じ物をいっぱい、と念じれば良いので楽なものだ。



「社員の皆さんの魔剣は『鋭利』や『頑強』何かの剣自体の能力向上か、『身体能力向上』何かの装備者への付与が良いでしょうね。下手に攻撃力を上げると周りへの被害が大き過ぎる……。」


アルトス君が魔剣の能力についてのアドバイスをくれる。


うむうむ。確かにウチの社員達は戦士でも何でもないからな。下手に強力な武器を渡しても危ないだけだろう。


……しかし、アルトス君は普通に私のチートを受け入れているけど良いのだろうか?

まぁ隠す気もあんまりないから良いか……。



「逆に坊主達のパーティーに関しては、なるべく強力な奴の方がええじゃろな。

元になる武器は儂の方で用意するから社長の方で魔剣化してくれればええじゃろ。」


まぁそうだな。

恐らく彼等が今回の中核になる訳だし。


「了解した。ならなるべく彼等の使い易い能力を持った魔導具にしようか。アルトス君は希望はあるかい?」


「―――親方の話を聞いてて半信半疑ではありましたけど、やっぱりタチバナ様は魔剣を生み出せるんですね……?」


何やら神妙な顔をしたアルトスが口を開く。

あ、やっぱりチートがバレるのは不味いか……?


「タチバナ様!やっぱり俺、雷系の魔剣とかが良いです!あー、でも雷の魔剣何ておとぎ話でしか見た事ないんですけど、大丈夫ですかね?後、もし良かったら試し斬りがてら先行して現地に向かう事は出来ませんか?S級の禁足地なんで試し斬りの相手には事欠きませんし!あ、勿論タチバナ様のお力は他には漏らしませんよ!魔剣貰えなくなったら嫌ですし!」


キラキラした勇者スマイルで詰め寄ってくるアルトス君。


「あー、うん。多分何とかなるんじゃないかな。

先行部隊への合流もフラウ君に言っておくよ…。」


……君はあれだな。さては剣のことしか考えてないな?いや、良いんだけどさ。



「まぁ兎に角、話は纏まったな!それでは後のことは任せる―――」


「宴会じゃな!!」


いや、働けよ……。


「社長。良い仕事には活力がいるんじゃ!

つまり、酒じゃ!酒なんじゃ!」


「俺も社長の酒を呑みてぇ!!」

「オラも!」

「せ、せめて1口だけでも……!」


あー、もううっとおしい!

詰め寄ってくるな!絵面が暑苦しいんだよ!

私はお前達の雇い主なんだぞ!?

まだ給料は発生してないけども!


大人しく仕事に取り掛かろうとしているアルトス君を少しは見習えよ!

ん?アルトス。何書いてるの?


欲しい魔剣の能力と形状?

あー、僕の考えた最強の剣ってヤツだね。

……うん。まぁ好きにしたらいいんじゃないかな。


はぁ。取り敢えず酒は出してやるからしっかり働けよ……。私はもう帰る。


くそ。私はブラック企業経営者なんだぞ!?

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