パワーバランスと百貨店計画

「いいか!?マンパワーだ!働けるなら誰でも構わん!国中のマンパワーを集結させろ!金なら幾らでも出す!」


商人ギルドにレジナルドの声が響く。


彼はタチバナに押し付けられたデパート建築を推し進めるべく人足の確保に奔走している。


今回の百貨店建設計画用にレジナルドには急遽ギルド内に個室が与えられ、専用のスタッフを何人も付けられていた。


毎日ひっきりなしに何人ものスタッフが部屋を出入りし、レジナルドは様々な報告を吸い上げ、また各方面に指示を出していた。



「レジナルドさん!報告です!タチバナ商会が王都にある奴隷商に介入した結果、不法奴隷が大量に発見されました!行く宛ても仕事もない溢れた者が大量にいるそうです!」


「すぐに王室と議会に働きかけろ!全て商人ギルドで面倒をみる!金は幾らでもあるんだ。通常の倍で日当を払え!」


「そ、その亜人も多いのですが……。」


「むしろ大歓迎だ!人間族より亜人の方が尖った能力を持っている事が多い!1秒でも工期が短く出来るのなら老若男女種族一切関係ない!全て雇い入れろ!!」


「し、しかし建築ギルドの職人達が亜人を使う事に反対するかと……。」


「金貨で殴れ!奴らの背丈ほども金貨を積み上げればあの石頭共も黙る!」


「ほ、本当に良いのですか……?それにそんな人数を雇い入れる金銭はもうギルドには……。」



レジナルドの部下の手には、デパート建築のスケジュールと合わせて各方面から出ている見積もり書があり、そこに記載された金額は日々膨れ上がり、合計は既に城が幾つか建つ程の金額になっていた。



「金銭の事は気にするな。全て我々の……いや。

タチバナ様の計画通りだ。」


レジナルドは声をひそめて告げる。


「――全てはあの方の計画通り進んでいる。

王都にある全ての奴隷商人にタチバナ総合商社が介入し、それが原因で摘発された事も。多数の違法奴隷が見つかった事も。そして今まさに行われている極秘のギルド長会談も、だ。全てはあのお方の手のひらの上だよ。」



「あの平民がそんな――」


「だ、黙れっ!!!!」


スタッフがタチバナの事を蔑んだ事を言おうと瞬間、レジナルドが激高し、手に持った書類をスタッフに投げつけた。


そのままレジナルドはスタッフに詰め寄り、周りをキョロキョロと警戒しながらスタッフを睨む。


「いいか?今後一切!絶対に!あの方への敬意のない発言をするな!商人ギルドに所属している内は頭に思い浮かべる事すら許さん!これは他の者にも絶対に徹底させろ!!」


音量こそは控えめだが、有無を言わせぬ強い言葉を投げつけるレジナルド。


レジナルドはあのタチバナ総合商社の社員達がこのスタッフの暴言を聞いたらどうするか、文字通り骨身に染みて理解していた。


我が身可愛さ半分、自分の初めての部下を守る気持ち半分でスタッフの胸倉を掴んで声をひそめてさらに告げる。



「……今回のあの方の計画が進めば、王都の勢力図が一気に書き換わる。そして王都は、この国はおおきく変わるだろう。」


「そ、それはどういう意味で……?」


「あのお方は超大型商店の建設を依頼する際、私達に大量の魔宝玉をお渡しされた。」


「タ、タチバナ総合商社の魔宝玉……。」


タチバナ総合商社の噂を聞いていたスタッフはゴクリと息を飲む。


「分かるか?あのお方が現金ではなく高純度の魔宝玉を支払った意味が。」


「魔宝玉の価値は充分高い……でも、流石に魔宝玉だけでは各所に仕事の依頼が出来ない。商人ギルドには現金がない……つまり、他のギルドを巻き込む必要がある……?」


比較的金銭の取引が多い王都ですら、大量に現金を持つ組織は限定されている。


大きな商店や大貴族、そして各ギルドである。


「そうだ。物作りに関わるギルドであそこの魔宝玉を欲しがらないギルドはない。魔術ギルドや錬金ギルド何かはいくらでも現金を積むだろう。装飾品を作る職人ギルドもきっと金を出す。」


「ろ、6大ギルドの内の半数以上が手を組むのですか……!?」


6大ギルド。


エルエスト王国に存在する特に大きなギルド、すなわち商人ギルド、魔術師ギルド、錬金ギルド、職人ギルド、農耕ギルド、鉱山ギルドの6つを指す。


ちなみに鍛冶ギルドや建築ギルドなどは職人ギルドの下部組織に位置付けされている。



「そうだ……。この国の歴史が変わるぞ……!

いや、変えるんだ。我々商人ギルドの手でな!」



◆◆◆◆



「そう言えば例の百貨店計画はどうなった?」


やることもなくシトラスにある執務室の椅子でボーッとしている私は、ふと思い付きででっち上げた百貨店計画を思い出した。


「当初の計画より約3%の前倒しで計画は進んでおりますわ。流石、社長の肝入りの計画です。」


息をするように私をヨイショするフラウ君が、私のデスクの上に工期のスケジュール表やら各種見積もりやらを積み上げて行く。


うわぁ……。何だよこの大計画。


――ん?いや、そうでもないのか?

見積もりの総合計が金貨で2万枚ちょっとか。

金貨を1枚1万円計算だと2億くらいか……。

ちょっと安過ぎないか?


100坪くらいの面積で3階建ての雑居ビルが大体2億弱位だろ。


これは異常な安さだ。

あの敷地面積だと何百億かは掛かってもおかしくないのだが……?


それに今思い出した――。


「この計画、大丈夫なのか?確かこの件では魔宝玉を渡しただけで現金は渡していないだろう?」



この時になってようやく私は商人ギルドに対する嫌がらせで魔宝玉しか渡していないのを思いだした。


これ、この国の魔宝玉市場が大荒れしないか?


私がチートで生み出す魔宝玉とか言う不思議宝石にはかなりの価値があるのだろうが、あくまでもそれは現在の価値としてだ。


市場に出回れば出回った分だけその価値は下がる。


国家間で価値を保証している現金ですら毎日レートが変わるのだ、それが貴金属なら言わずもがなだ。


伊達や酔狂でダイヤモンドの価値を守る為にダイヤモンドシンジケートが目を光らせたりしていない。


実際、日本でも人工ダイヤモンドの研究をしている研究者が脅されたりしているらしい。


何百人もの自殺者を出しても先物取引がなくならない訳である。



「はい、社長。特に問題はございません。

全て社長の計画通りに進んでおります。」


フラウ君が満面の笑みで頷く。


うん。絶対何か勘違いしているね、キミ。


フラウ君からとてつもない信頼を寄せられているのを感じるな。やはり信頼とかクソだわ。


はぁ……、まぁ良い。

この国の市場がどうなっているのかは知らんが、厄介な事になりそうだ。


仕方ない……。



「ウチの森から切り出したデカい木が大量にダブついてたろ?百貨店建設で必要な分の2、3倍の量を商人ギルドに流してくれ。適当に売り捌いて資金にして欲しいと伝えるんだ。あぁ、ついでにあの魔物の革、オーガだっけ?あの辺も渡してしまえ。」


「すぐに手配致します。」


よし。これで商人ギルドの現金の持ち出しは減るだろう。それにスニード氏も素人じゃあないんだ。

後は上手いことやるだろう!

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ブラック企業経営者のチート無双異世界経営術 太郎冠者 @kyo0320

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