第7話

「はぁ…」


ため息をつきながら、俺は北風の後ろを歩く。俺はさっきまでの自分がした行為を思い出していた。




…やっちまったなぁ。絶対キモイやつって思われてるただろ。陰キャがイキって何様のつもりだ!?とかって思われてんだろうなぁ。それに「大丈夫か?」って聞いたあと俺の顔みて沈黙したたからなぁ…。きっと俺の事気持ち悪いと思っているのだろう。加えて迷子なんて思われてるから、ヤバいやつだとも思われてるよなあ。




俺が北風より後ろを歩いている理由は3つ




1 俺の事を気持ち悪いと思っていると予想しているから。


2 純粋にこれ以上話したくない。


2つ目は私情だな。トラウマが蘇るし、何よりこれっきりの関係なのだ。これ以上話すことは何もない。余計な話をしたくない。強いて言うならなんで、橋の下にいたのかぐらいだな。




知りたいと思うが、聞こうとは思えない。話したくないという理由とは別に、北風からしたら嫌なことを思い出すきっかけにもなるかもしれない。そんな地雷を踏みたくなかったからだ。




北風も黙って3メートルぐらい離れた前を黙って歩いているし、このままホテルに着くと思っていた。だが、




「待って!!」


急にそんなことを言ってきた。歩き始めてから初めての会話だった。




「なんでそんなに後ろを歩いてるのよ!横に来たらいいじゃん!」


それを聞いた俺は思いっきり顔を歪めた。つい「チッ」と聞こえないように舌打ちをした。その時に腕時計を見ると、時刻は4時半。集合時間の5時までに戻ることは不可能だろう。




「はぁ〜、やっと来た! 」


横に行きたくなかったから、距離を開けてたんだけどな。並んだ事を確認すると北風はすぐに歩き出した。俺はそのまま止まった。




「こっち来てよ!なんでそんなに距離を取ろうとしてるの?!」


「そんなことしていない。」


嘘です。すごく距離を取ろうとしています。できるだけ会話をしたくないという意図を理解して欲しい。そう願った。




「あぁ、もう!」


と言いながら北風は小走りで俺の隣に来た。距離を取りたいから後ろに下がりたいのだが、そんなことをして北風が逃げたら道案内を無くしたことになり、俺は地元に新幹線で帰ることになる。それは嫌だ。諦めた俺は、北風の隣に並び、北風のスピードに合わせて歩くことにした。無理に早歩きで俺のスピードに合わせて、怪我が悪化したら困るしな…




「ねぇ、山本君だけ?」


俺の願いは無情にも砕かれた。しかもだれだ、それは?1文字もかすってないし、文字数も違う。うちのクラスにもいない。さすがにこれには傷ついた。いくら相手が嫌いなやつであろうと…


「…違う」


「んじゃあ、教えてよ。名前」


「嫌だ」


「なんでよ!?」


「…知らない人には名前を言わないって教わらなかったのか?」


すこぶる不機嫌である。きっと、顔も歪んでいることだろう。


まぁ、俺の願いを叶えてくれないし、全く違う名前を出されてはこうなるものだ。だから俺は顔を歪ませ、話しかれるな。と言外で語っているのだが、結果は…




「んじゃあ、私は2年5組の北風真美。はい言った。あなたは?」


伝わらなかったか…薄々気がついてはいたがな。




まだ何とか誤魔化せそうだが、面倒なので素直に答えることにした。




「…6組の荒木だ」


「そっか…荒木くんね。おっけ。さっきは名前間違えてごめんね?本当に知らなかったから適当に言ってみたの」




素直に最初から知らないと言って欲しいものである。間違えられる方がダメージは増加するから。




「そんな顔しないでさぁ、もうちょっと笑ったら?ほら、髪とか上げたら…」


「ちょ…やめろって!」


抵抗しようと思ったが、間に合わなかった。完璧な不意打ちだ。なので、せめて口で対抗する。




そうして前髪を落ちあげたあと顔を見て前髪を元に戻した。




「ごめん〜って、ほら元に戻したから。」


きっと俺の酷い顔を見て戻したんだろう。まぁ、北風から言わせれば、大体のやつは酷い顔に分類されるかもしれないが、




「んじゃ〜さぁ、話題提供してよ」


「はぁ!?」


「いや、こういうのって男から話しかけるもんじゃない?」


なんで俺がそんなことしなきゃならないんだよ!?男女差別もいいところだ!っていうかそういう事をやっている男子は、リア充の連中しかいないだろ!?




俺は陰キャで非リアで年齢=彼女いない歴だから…


あれ…今度は俺が泣きたくなった。




「んじゃあ、なにか聞きたいことはない?私に。今ならなんでも答えてあげるよォ?」


全くない。ひとつもない。




「ほらほらー、なーんでもいいんだよぉ?スリーサイズでも彼氏いるの?とかでも」


全く興味がわかない。そんなことより、八つ橋を食べたい。八ツ橋の作り方の方が興味がある。


だが、このままでは面倒なことになりそうなので、質問することにした。




「…はぁ。…嫌いな食べ物は何?」


「嫌いな」の部分は強調してやった。


嫌味な質問を俺的には、してやったつもりだった。


すると……




「……ぷッあっはっはっはっ!!」


急に笑い始めた。もう意味がわからない。何がツボに入っているのだろうか?




「……あっはっは…は〜は〜…おっかしい!」


「そうか?まぁ、それなら良かった。」


よく分からないが、楽しそうで何よりだ…


俺は少し不機嫌になったがな。




「私の嫌いな食べ物はね〜、ナスかなぁ。ほらぁちょっと食感がさぁ、苦手なんだよね〜。」


「好き嫌いは良くないぞ。」


「あの質問をしてきてその返答!?荒木くんは、嫌いな食べ物はないの?!」


「ない。未知のもの以外は食べれるとおもう。」


「んじゃあ、甘い物は?」


「なんで甘い物?好きの部類にはいるんだけど。ていうか、八つ橋食べてるところ見ただろ?」


「あれ?男子って甘い物嫌いな人多くない?」


「さぁ?」


それは偏見ではないだろうか?そう考えていると




「んじゃあ、次は私が荒木くんに質問する番ね」


「なんで、そうなるんだよ!?っていうかさっき嫌いな食べ物俺に聞いただろ!?」


「あれは、仕方ないでしょ〜。そういう流れだよ。んじゃあ質問ね〜。」


まだ納得してないんだけどな。だが、何となく反論しても意味ない気がするから従うことにする。




「なんであそこにいたの〜?」


「そんなことか。班行動していたんだが、人混みではぐれた。携帯も部屋に忘れて、地図もなかったから適当にぶらついてた。」




「そ〜なんだぁ。でもそれさぁ、巻かれたんじゃない?」


やはり、そう思うらしい。俺も実はそうじゃないかな?と疑っていた。だとすると、俺はいじめを受けている可能性すらある。




まぁ、かなり陰キャでぼっちだと思うが、そんなことを言われたら心に響くものがある。




言葉は時に刃物になる。このことを北風には知ってもらいたい。これ以上俺のような犠牲者を増やさないために。




色々話していると(強制的に話しかけられた)と、


「お、見えたぞ。ホテルだ。ようやく戻ってこれたな。」




時刻は5時を超えている。説教コース確定だ。




「そうだね〜。でも、まだ着くまで時間あるからさぁ、質問タイムを続けようよ♪次は荒木くんが質問する番ね。」




まだやるのかよ。おわれるとおもっていたんだがな。まぁ、いい。こんなこともあるだろうと思って、質問の用意はしてある。おそらく笑うことがなく、俺も少しだけ気になっている質問だ。




「マミって、どんな漢字なんだ?」


しょうもねぇ〜とかって陽なら言うかもな。まぁ、これ以外北風に関することで興味のある質問はなかったから。




すると、北風はちょっと赤くなりながら、


「…名前…初めて呼んだね…」


そうだっけ?と言うとしたが、思い返すと、1度も読んでいないと思う。心の中では言ってるけど。




「あぁ、言われてみればそうだな。」


「ふふっ、あーっと漢字だけ?えっと真実の真に美しいって書いて真美」


「あぁ、なるほどピッタリだな。」


納得してしまった。


「?なんで?」






「いや、だって、そうだろう?まことに美しいって北風にピッタリじゃないか?」






外見は本当に綺麗なことをこの数十分改めて思い知らされた。親御さんはこうなることを予想していたのだろうか?






「っっ!!?!」


北風を見ると真っ赤っ赤になっていた。どうしたんだろう?俺が言ったことなんて言われ慣れているだろうに。




そう思っていると、




「いいご身分だな。遅刻した上に教師に電話しないで2人揃って談笑しながら歩いて帰って来るとはよォ」




目の前からいかつい男の声が聞こえた。確認すると生徒指導で、恐いことで有名の鬼山先生だった。




やばい!!俺が北風のそばにいたら勘違いされちまう!




「ち、違うんですよ!先生!俺が迷っていたら、北風さんが助けてくれたんですよ!それで…」




「経緯は後でたっぷり聞くから安心しろ。弁明もな。そこで待ってろぉ!探している先生を呼ぶからな!」
















あの後めっちゃくちゃ怒られた。反省文まで書かされた。帰っても反省文を書かなければならないだろう…




先生方に謝って部屋に帰ったが、晩御飯の時間は過ぎていたのでなかった。陽と菅野にも「お前、大丈夫か!?なんかトラブルでもあったのか!?」と心配されたが「迷子になった。」と言っといた。




ベッドで眠りにつきながら、思う。










少し楽しかったな─




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る