第27話

「うわぁ、すごい!いっぱいある!荒木くんちょっと来て!」


 子供かよ。そんなにここに来たかったんだな。それなら良かった。


 北風が手を離さないので俺もついて行くことになった。そして、今北風が見ているのはクレーンゲームで商品は大きなクマのぬいぐるみとなっている。1回200円だ。


「やらないのか?」


 ずっと欲しそうに見ているからやりたいんだとおもった。


「あっ、いや、そうなんだけどね…。」


 チラッと北風は俺の…俺たちの繋いでいる手を見た。


「離して欲しいんだったら離すぞ?」


「うっ!その逆なんだよ。」


「逆?あぁ。なら、終わったらまた手を繋いでやるからやってみたらどうだ?」


「ほ、ホント?約束だからね!?」


「分かった、わかった。」


 やはりさっきのナンパが怖いのか。多分ほかの男が怖いんだろうな。


 北風は俺から手を離すとバッグから500円を取り出した。500円で3プレイだ。


 手がすこし冷たい気がしたが気の所為だろう。


 こういうのって確率でアームが固くなって取れるっていうシステムだったはず。とかって考えていると


「あぁ!」


3回北風はミスったようだ。見ていたが北風はこの手のゲームに才能の無さを感じてしまう。


「ねぇ、荒木くんもやってみてよ。」


「いいのか?俺なら確実に取るぞ?」


「言うね〜。ならやってみなよ!」


 俺は北風から操作パネルを譲ってもらい200円を入れて、アームを操作する。そしてぬいぐるみのタグを狙ってっと。


「うっそぉ!!」


「言っただろ?」


 俺はゲットしたぬいぐるみを手にした。北風が羨ましそうに俺を見てくる。


「はい、北風。」


「えっ?くれるの?」


「当たり前だろ?北風が欲しそうだからやったんだし。」


「えっ?でも荒木くんのお金……」


「んじゃあ、アレだ。メリークリスマスってやつだ。」


 俺は取ったばかりのクマのぬいぐるみをポンッと北風の頭の上に置く。


「ありがとう!これ、大事にするね!」


 北風はそれを胸に抱き抱えて笑顔で言う。やっぱり北風は笑ってる方がいいなって思った。200円以上の価値は間違いなくあるだろう。


「そうか。それならそいつも幸せだろう。ただ北風はあんまりクレーンゲームはしない方がいいぞ?」


「これとれたから今日はやらないから大丈夫!」


 本当に大丈夫かな?一応雪乃ちゃんから釘さして貰っておこうか。雪乃ちゃんいわくお姉ちゃんのことで何かあったら連絡くださいだからな。


「ねぇ、この子に名前付けようよ!荒木くん何かある?」


 面倒臭いなぁ。クマで良くない?まぁ、それはさすがに怒るだろうから


「くまモ〇」


「ダメ!」


これ以外はもうないな。


「北風に任せる。俺は役に立てそうにないな。」


「ん〜。カミラ!カミラにする!」


「…ちなみにそれ、オス?メス?」


「男の子!」


カミラくんか。


「いいんじゃねぇの?由来とか聞いてもいい?」


「かぐらとまみを合わせてカミラ!」


 それじゃあまるで俺たちの子供みたいじゃねぇか。北風はわかって言ってるのか?いや、これ多分わかってないな。俺があげて北風が貰ったからってことか。自覚したらすぐに真っ赤になりそうだな。


「あっ!プリクラある!ねぇ、一緒に撮ろうよ!」


 すっかり元気になったようだな。それどころか今日1番の元気じゃねぇか。まぁ、立ち直れたんならいいんだけどな。


 それにしてもぷりくらか…。


「俺、撮ったことないんだけど?」


「大丈夫!私何回も撮ったことあるから!さ!行くよ!」


「あっ!おい!」


 アイツっ!さっき俺から離れてナンパに捕まった事実をもう忘れたのか??


 半分暴走に近い状態じゃないの?これ。雪乃ちゃんに、何か聞いた方がいいかな?とりあえずメールするか。もしかすると暴走を止める方法を教えてくれるかもしれないし。


北風の元に向かいながら北風の暴走を止める方法を雪乃ちゃんにメールで聞いた。


 金は割り勘で撮ることになった。俺はバイトもしてるからこれぐらい余裕だと言ったのだが北風が譲らなかった。


 操作全般は分からないので北風に任せることにした。


「あっ!ねぇねぇこのカップルモードにしようよ!」


「いや、普通のほうで良くないか?」


 カップルモード以外に何があるか知らないけど。


「でも、今日は付き合ってるんでしょ?」


「設定だけどな。はぁ。北風に任せる。」


「やったー!あ、カミラと3人で撮ろうよ!」


 まぁ、最悪指示に従わなくてもいいわけだし。指示も手を繋ぐとかいう簡単なものだろう。あれ?女子と手を繋ぐのってもっと難しいはずでは?


 ま、まぁこの場合俺が従うべきは北風の方だろう。まだ雪乃ちゃんから暴走を止める手段聞けてないし。うん、手を繋ぐのも仕方ないことだ。そう考えよう。


『彼が後ろから彼女をギュッと抱きしめて♡』


高っ!初っ端からハードル高っ!!高すぎるだろ!


「き、北風これはスルーだ。これはカミラくんと3人で撮ろう…。」


しかし、北風は…


「あ、荒木くん!撮ろうよ!これ!せっかくカップルモードなんだし!」


「マジ?」


「早く!」


 俺に決定権は無いようだな。ついでに拒否権も。これは完璧な暴走状態だ。これに逆らうことはできないな。拒絶した瞬間にさっきみたいに悲しい顔をするとわかる。


 仕方ない。俺も恥ずかしい思いをするが北風も恥ずかしい思いをするはず。それで目が覚めることを信じるか。


 北風は既に定位置に立っていた。俺は北風の後ろに回って…。


「いいんだな?」


「うん!早く!ギュッてして!」


 俺はゆっくり北風の後ろから手を回し、首元で一周する。


 ヤバっ!恥っず!!みんなこれを乗り越えてるの!?ぷりくらヤバすぎるだろ!?なんでこんなのが流行って全国展開してるんだよ!


『3…2…1…パシャ!』


 どうやら撮れたようだな。それがわかったらすぐに手を離した。画像を見るが…


「北風…表情硬くない?」


「うっ!でも荒木くんだって充分硬い!もっと自然にできるよ!」


 俺は緊張してんだよ!これは仕方ない!無理やり笑顔作っただけても褒めて欲しいんだけど!!


 その後も次々と写真を撮った。最初以上に強烈なのはなかったが、手をハート、腕をハート型にするとかはあった。1枚だけ指示を無視してカミラくんと3人で撮った。


 写真が終わると隣の落書きブースに向かった。


「んで、これはどうするんだ?」


「さっき撮った写真を落書きするんだよ!」


 そうは言われてもどうしたらいいのか分からん。やった事ないからな。


「なら、北風に全部任せるよ。俺が何かするよりいいだろう。」


「ダメ!荒木くんもするの!2人で撮ったんだから!別にどんな落書きしても文句なんて言わないよ!それも思い出だよ!」


「はぁ。わかった。」


 とりあえず俺は北風の作り方を見ながらテキトーした。写真ができるまでの間に雪乃ちゃんから返信が来ていた。急いで確認すると…。


 ノータイトルで本文は『心中お察しします。先輩のご冥福をお祈りします。』


あれ?これもしかして俺の葬式開いちゃってるんじゃ……?雪乃ちゃん、俺の葬式に今参加してんの?




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