第26話
フゥ〜。スッキリした。
俺は入念に手を洗って乾燥させる。また手を繋ぐことがあるかもしれないからな。そうなっても綺麗なように今までいちばん入念に何回も洗う!
それを終えたら外に出た。北風を待たせてるからな。
まさかナンパには…
「ねぇ、お姉さん!俺たちとちょっと遊ばない?」
「す、すみません。今日は彼氏と来ているんで。」
「えぇ〜。別にいいじゃん!俺たちとあそぼーよー。そっちの方が楽しいよ?」
2人もかかってました。やはり北風は強力なナンパホイホイだな。
でもどうしてだろう?前より言葉にキレが感じられない。そして北風をよく見て気づいた。
アイツ、震えてるのか!?もしかして怖いんじゃ!?
考えてみれば金髪ゴリラから色々されて男性不信になってもおかしくないのだ。ちょっと前から疑ってたんだが、俺とふたりで弁当食べても問題なかったから大丈夫なのかと思ったのに!
「ねぇ、ほら行こうよ!」
ナンパが北風に触ろうとしているが、
「俺の彼女に何しようとしてくれてるんですか??」
俺がその手を掴んで威圧しつつ相手を黙らせる。2回目となると対処も簡単だ。加えて中学で喧嘩してた時並に威圧をかける。ビビって帰ってくれればいいが。
「あ…す…すみません…でした…。」
謝ってきたので手を離すとすぐにどこかへ逃げていった。
「北風大丈夫か?」
俺はすぐ後ろにいる北風の方を見て安全を確認する。
「え…あ…うん。ありがとう…。」
手は未だに震えている。クソっ!ゆっくり手を洗ってる場合じゃなかったか!
俺は北風の両手をしっかり握って、ゆっくり安心させるように語りかける。
「遅くなってごめん。それと怖かったのによく耐えたな。」
俺は北風の頭を撫でながら北風を落ち着かせる。髪型も多分きちんとセットしたんだと思う。だからそれを崩すことだけはないようにできる限りゆっくりと。
「ふぁ…!?」
「なんかあったら呼べって言ったのに…。」
「あ、荒木くんにめいわくかけたくなかったから。」
「別に迷惑だなんて思わないよ。言っただろ?今日だけとはいえ俺は北風の彼氏なんだ。こんなに可愛い彼女なら守ることは責任というより義務なんだから。それに迷惑だとしても全然構わないよ。付き合ってるんだろ?今日だけだが。それなら迷惑ぐらいいっぱいかけたっていいんじゃねぇの?俺の思う理想の関係ってそんなものだぞ。」
本当に付き合ったことはないからなんとも言えないけど。まぁ、あくまで理想…。理想だな。
北風は顔を真っ赤にしている。けれど手の震えは感じない。良かった。治ったみたいだな。俺は北風の頭から手を離す。
「それでどうする?」
「あっ…!帰るのは…嫌っ!まだ…一緒にあそびたい…。」
「OK。それならどうする?ゲームセンター行くか?」
「うんっ!」
よし。もう大丈夫かな。本来ならここで帰った方がいいんだろうけど、本人もまだ遊びたいって言うんだから遊ぼう。俺がしっかり隣に居ればいいだけの話だ。今度は守らないと。
「よしっ!それじゃあ行くか!北風…手を繋いでくれないか?」
俺は北風に手を差し出す。
「うんっ!」
北風は俺の手を握り返して歩き出した。次は同じミスをしないようにしないと。
「ねぇ、荒木くん♪」
「なんだ?」
「まだちょっと怖いからさ?手の繋ぎ方変えてもいい?」
「…変える形によるかな。」
すると北風は俺の指に北風の指を絡め合わせてきた。
「北風?俺まだ良いって言ってないんだけど?しかもこのつなぎ方って……。」
「そ♪恋人繋ぎ。まだ怖いから安心するまで!」
さっき震えは止まってたように見えたんだがな。そう言いつつも離さず、受け入れてる俺も俺か。
たださっきよりより距離が近くなり密着しそうな状態になった。そのせいですごくいい匂いがする!北風の匂いに違いないんだろうけど…。どうしよう?俺、変な匂いしないかな?
「……ちょっと聞きたいことあるんだけど聞いていいか?」
「?いいけどその言い方だと重い系?」
「いや、そんなに重くはない…と思う。」
俺が気になったこと…というより思い出したこと。それは…
「北風って一時期冷たいって噂聞いたことあるんだけど…なぁって思ってな。」
北風と体育でいきなり「話しかけないで」と言われた事件。それを久しぶりに思い出した。最近は北風と関わることが多かったが、北風は明るい性格と知ったから思い出すことはほとんどなかった。
ただ映画の中で主人公の女性が「触らないで!」って言って拒絶したシーンがあって「そういや俺もあんなことされたな。言われた方って結構傷つくんだよなぁ。」って思い出した。
聞こうと思ったんだが、タイミングがな。最後のシーンが強烈だっただけに話しかけるのは気が引けた。トイレ終わったら聞こうと思ったらナンパされてるし。このままじゃタイミングなくなりそうだから北風の機嫌が良さそうな今聞くことにした。
「…?そんな噂あったの?」
やべっ。俺がされてるんだからみんなもされて噂になっているんだと思ったらなかったのかよ。え?俺だけされてたの?
「………俺も陽から聞いただけで知らないんだけどなぁー。」
ごめんな、陽。お前のせいにしてしまって。
「…そうなんだ。そうだね〜。それいつぐらいとか知ってる?」
「……夏休み終わった辺りに聞いた気がする。」
正確に言うと9月後半。なかなか強烈な出来事ゆえに忘れていない。日にちは忘れたけど。ちなみにその日の種目はテニスだった。
「夏休み終わった辺りか〜。多分わかったかも。」
「聞いてもいいやつか?」
「いいよ。アイツだよ。荒木くんが文化祭で殴ったアイツと色々あって別れたのが8月の最後の方だったんだけどね。その後、ちょっと男子が怖くなったことが1週間ぐらいあって。そのあとは男子と距離をとったり、冷たくしてた気がするかも。でも基本は普通に接してたよ??冷たくしてたって言っても1人の時に見たことない人に話しかけられそうになったらトイレに行ったりしたぐらいだと思う。」
なるほど〜。つまりあの時は俺と北風が一対一だからあんなことを言ったということか。間違いなくそうだろう。仮に体育中のペアの人を見たことないって理由だけでトイレに逃げ込まれるよりマシだったと思おう。
理由がキモイ人から話しかけられたら避けてたかもなんて言われたら死にそうだった。
ただあの時の俺はテニスを初めてやることで楽しみだった上にペアが北風という美少女だったので舞い上がっていたのだ。俺が変態ではないということを心の中では弁明する。
「い、今は普通だよ!そ、それとも私もしかして荒木くんから見て冷たい?」
「?いいや、全く。噂で聞いてた北風って今の北風と結構違うから理由でもあるのかなって気になっただけ。」
正しくは噂ではなく実体験だが。理由がわかってスッキリした。
「そ、そっか…。なら良かったんだけど…。」
少し気になっていた過去の真実を聴き終わった頃にはゲームセンターに着いた。
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