第8話

「ねぇ荒木くん。これは提案なんだけどさ?」


お礼ではなく、提案か。


「なんだ?」


「これから荒木くんのお弁当、私が作っていい?」


「………なんでだ?」


「荒木くんが料理できるまでずっとお昼はコンビニ弁当か、食堂なんでしょ?2人も3人も変わらないし。荒木くんが自分で弁当作れるまででいいよ。」


「北風にメリットがあるようには思えないけど?」


「私は料理のスキルが上がるし、料理作るのは楽しいし。それに荒木くんには健康でいて欲しい…。」


「前にも言ったが、食生活が原因で病気にはなってないから大丈夫だ。それに俺が病気になることと北風は関係ないだろ?」


「……関係あるよ。」


「…?」


「荒木くんのおかげで私は今も元気に過ごせてる。それに…荒木くんと一緒にいるのは楽しい…。荒木くんが病気になると、心配だし。」


それは反則だろ。そんなふうに優しく、心配されてしまったら勘違いしてしまう。それが勘違いだってわかってても期待してしまう。そして、真実にたどり着いた時、きっとそれは残酷だろう。だから、そんな勘違いをしてはいけない。考えないようにしてたのに。


認識しなおせ。北風は高嶺の花だ。北風が俺を好きになるなんてありえない話で、それは俺の勘違い。北風は俺を恩人、もしくは男友達としてみている。そして、俺が北風を好きになるなんてありえない。そうなったとしても待つのは残酷な真実だけだ。だから、そうなってはいけない。


「あ!と、友達としてね!!ほら、私ってあんまり男友達いないからさ!」


「あ、あぁ、そうか。」


「…やっぱり私の料理まずかった?」


「いや、すごく美味しかった。それは本当だ。だけど、それとこれは別だろ?なんて言うか、そこまでしてもらうのは気が引けるというか…。」


「好意には素直に甘えればいいのに!」


「そういう訳にもいかねぇだろ。」


多分今回の件は普通に言い勝てる。それに、やっぱり遠慮するとか言って断りを入れれば北風は納得してくれる。だけど…。提案自体は俺にとって魅力的だった。北風の料理は文句無しに美味しい。


「はぁ。それじゃあお願いしてもいいか?食費は払うから。」


随分と甘くなったもんだな、俺も。中学の時はみんなからビビられていたというのに。


まぁ、俺には得しかない。弁当って1食の食費は200円から300円って言うし。それならコンビニ弁当の方が圧倒的に高い。500円とか普通にオーバーするからな。


ということで有難く受け取っておこう。俺が期待を抱かなければ、俺がこのままの気持ちでいればいいだけの話だ。勘違いしなければいい。


それに北風に関して1つ気になることもあるんだし。


…北風といて気分が悪く感じてることは無い。むしろ…。なんでもない。


「うん!任された!それじゃあ、連絡先教えてよ!」


「いいぞ。」


「えっ?そんなに簡単に教えてくれるの?」


えっ?俺がこの場合おかしいの?やろうと思えば北風の友達伝いで簡単に陽まで繋がるだろ。俺の連絡先知ってるの学校じゃ陽しかいないし。


「別に知ろうと思えば北風なら簡単に調べれるだろ?」


「いや、そうだけど…。ちょっと勇気出した私が馬鹿みたいじゃん……。」


?最後の方は何を言っているのかよく聞こえなかった。


お互い携帯を出してRINEの連絡先を交換した。…同級生の女の子の連絡先はこれが初めてかもしれない。しかも相手は学校で1番と言っても過言じゃないレベルの美少女。本当に人生何があるかわかったもんじゃないな。


北風は、携帯を遠くから見たり、かと思えばぎゅっとしたりとよく分からなかった。


「ねぇ、試しに何か送ってみてよ!」


北風がそう言うが…。俺はスタンプなんて初期のものしか持ってないんだけど…。まぁ、なんでもいいかと思って、茶色のクマが料理しているスタンプを送った。するとすぐに既読がついて白いうさぎが楽しそうにへにゃへにゃしているスタンプが送られてくる。


「送ってみただけ〜。」


そう言う北風の方を盗み見るとスマホを大事そうに両手で持ってずっと俺との会話している画面をニヤニヤしながら見ている。スタンプしかないはずなんだけど…。


そうこうしているうちに、公園に到着した。


「じゃあね、荒木くん」


公園まで着いたので、ここでお別れのようだ。


「おう、じゃあな、北風」


そう言って俺は背を向けて歩きだそうとした。


でも、裾を掴まれてしまった。


「……呼び方…それじゃない……」


「いや、あれは雪乃ちゃんがいたからだろ?」


そう言うけど、北風は反応しない。さっきまで呼び方に反応してなかったんだけど…。ずっと俺の目を見てくる。何かを訴えてるようだ。


「はぁ。わかった。」





「……おやすみ…………真美」


「うん…おやすみ」


そう言うと北風は俺の服から手を離してくれたので、そのまま振り返って俺は自分の家へと向かった。体が暑い。周りの雪を一斉に溶かしてしまいそうなぐらいに。だから聞こえなかった。







「おやすみ……かーくん……好きだよ」


そう呟いた北風の声が。

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