第42話

「次、右に曲がるぞ〜。」


「ひ、ひゃあう!」



「せ、先輩!まだ着かないんですか!?」


「…まだだなぁ。」


 まだ運転し始めて5分ぐらい…。さすがにそんなに近くはない。


「それよりその体勢…色々と大丈夫か?」


「大丈夫なわけないじゃないですか!もう先輩にダメです!そうしないと振り落とされそうなんですよ!こんなのジェットコースターですよ!安全ベルトが無い分こちらの方が怖いかもしれません!」


 陽菜ちゃんはバイクが発進した後の一回目のカーブで抱きついてきた。


 どうやら怖かったらしい。そのあとは少しスピードを落としたんだがやはり恐怖は変わらず。「バスにするか?」と提案してみたが……「いえ!大丈夫です!」ということなのでイルミネーションに向かっているんだが…。


「せ、先輩!カーブの時は言って下さいね!?絶対ですからね!!」


「りょーかい〜。」


 顔を完全に俺の背中でかくし、俺の腰を最初とは違い、全力でしがみついて来る。そうすることで2人の接触面が広がるわけだが…。そこには俺も陽菜ちゃんも不干渉だった。俺としてはそんなの気にしてない。今の陽菜ちゃんの状態もわかっているし、さすがにこの状態を見たら何がなんでも安全運転に心掛けないといけないからな。陽菜ちゃんはそれどころじゃない。


「…陽菜ちゃんってジェットコースターとか苦手?」


「苦手です!友達と強制的に乗るんですが、あれの何が楽しいのか分かりません!死の危険がある以上やる意味あります!?それと先輩にあまりこういうことは言いたくありませんが、話しかけないで貰えると助かります!向こう着いたら話しますから!」


 …どうやら本当に余裕がないらしい。すごい早口だった。だが今の陽菜ちゃんの気持ちはかなりわかる。俺も昔ジェットコースターは苦手だった。あれの何が楽しいのか教えて欲しい。しかし父さんと母さんに振り回され何回も乗ったもんだ。今となってはいい思い出だが…。


 そのおかげでジェットコースターに乗る時の攻略法?を見つけた。俺が友達とジェットコースターを乗りに行くことは万が一も無いと思うけど…。


「あ、次また右に曲がるぞ。」


「ひゃう!!せ、先輩もう少し早く言ってください!覚悟の時間が必要なんです!」


「陽菜ちゃん。そのままでいいから聞いてくれ。ジェットコースターの攻略法は常に目を開けることだ。怖いかもしれないがこれが1番怖くない!」


 ジェットコースターが苦手な人は怖くてつい目を閉じてしまう。そうすることでどこで下るのかわからずにさらなる恐怖を招くことになる。これが俺の学んだジェットコースターの攻略法!逆にスリルを味わいたい人は目を閉じるといいんじゃないか?


 これがバックとかになったら使えない。そもそもバックがあることが信じられない。何も見えないなんて恐怖以外の何物でもないだろ。


 まぁ、これがバイクでも同じかは知らない。俺なんかジェットコースターは少し苦手でもバイクはそんなに怖くなかった。…もしかして特殊?


「お、おぉ。す、少しですが怖く無くなりました……。」


 どうやら少しは恐怖が無くなったようだ。それなら何よりだ。


「次また曲がるぞ。」


「んにゃう!!」


…どうやらこの声は変わらないらしい。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

Side川野陽菜


「んにゃう!!」


「…大丈夫か?」


「大丈夫です!」


 う〜、中々にバイクは怖いです!先輩が結構スピードを落としてくれてるのはわかってるんですけどね。


 それにこのデート?は私から誘ったものですし絶対に今更断るなんてしたくありません!先輩とどこかに出かけるなんて正直言ってあと1回あるかどうかぐらいのチャンスですから!


 しかもイルミネーションですからね!勇気をだして誘ったかいがありました!


 それにしても先輩ももう少し悟って欲しいです。あの流れなら『一緒に行くか』ぐらいにはなると思うんですけどね〜。結局私から誘ったことになったじゃないですか!


『付き合っていないもの同士である先輩とどこか行けたらいいなぁ〜って思ってたんですけど…?』


 結構緊張しましたね…。自分から誘うのは。断られたらどうしよう…?って考えが頭から離れないからでしょうね。


でも…


『「俺なんか」なんて言わないでください!先輩といて私は楽しいです!』


 あれは言いすぎましたかね…。今でも恥ずかしいです。正直な気持ちを真っ直ぐに言い過ぎました。思い出すだけでも顔が赤くなりそうです…。


 いつもは一緒に居てもあんまりそういうことを言う機会がなかったので良しとしましょう。もしかしたら少しは意識してくれるかも知れませんし。


 その後は概ね予想通り。先輩って結構推しに弱い感じがしますね。お兄からもそういう話は聞きますし。予想外はバイクに乗ることぐらいでしょうか?


 服装も本当はスカートとか履きたかったんですけど先輩がダメって言うことで急遽変更になったのは少し大変でした…。でもクリスマスって赤っぽいイメージがありますからこっちの方が良かったかもしれません!


 過去1番の集中力のお陰ですぐに勉強を終わらせることが出来ました!これで少しでも長い時間を先輩と過ごすことができそうです!


 バイクに乗る際の説明を受けたらすぐに後部座席に乗りました。意外とすんなり乗ることができたことに先輩が少し驚いた様子でしたけど…。もしかして元バレー部とかっていう理由が関係あるのかもしれませんね。


 ただバイクに乗った瞬間にずしっとした感じがしたので「もしかして私の体重かなり重い!?」って本気で思ってしまいましたが先輩の感じからあんまりそんな感じはしなかったので安心しました……。


『その手だよ。そのままだと振り落とされるぞ?』


『俺の腰だな。それで落とされないようにしっかり掴んでて貰えたら結構だ。』


『ふぇ?』


 まさかそんなことをするなんて!!自分でもよく分からない声が出てしまうほど動揺してしまいました。


『え…えと…神楽先輩の腰を掴むんですか?』


『あぁ。それが1番だからな。あ、ちなみに下心とかないぞ?これマジだから。普通に陽菜ちゃんの安全のためだからな!』


 そんなこと言われたら私が下心あることを考えてたみたいじゃないですか!考えてませんよ!そんなこと!でも私のためって言われるのはいいなぁ。


 神楽先輩…すごくガッチリしてる…。歳上で男なんだなってことを感じさせられた。


 それにしてもヘルメットしてて良かったです…。きっと今の私は真っ赤でしょうから…。


「あっ次曲がるぞ〜。」


「ひゃう!!」


今はそれどころじゃありませんけど…。


「…大丈夫か?」


「大丈夫です!」


 怖くて振り落とされないように先輩に抱きつくことに必死ですけど…。でも、先輩が私を引きはがそうとしてくれないところや心配してくれるところが好きなんですよ…。


「まぁ絶対に事故とか起こさないようにするから少しは安心してくれ。……それに事故っても絶対に守るから。」


「〜〜っ!?」


そういうところもカッコよくて好きなんですよ!


はぁ。本当にヘルメットをしていて良かったです…。


絶対にこのデートで少しでも意識させて見せますからね!

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